恰好悪い会話
時は数日前に遡る。
先行していたゼノンが城に侵入し、バッカスたちとの再会を果たしたのだ。まさかその場に以前の部下たちがいるとは知らなかったが、互いに無事を喜んだ。
ガルテリオと騎士たちは情報収集のため不在だったのが、ゼノンにとっては幸いだった。
「ゼノン、ユーリは?」
「馬車で安全な道を進んでいます。遅れて・・・必ずやってきますよ」
「よかった」
バッカスとセスがホッとしたように肩の力を抜いたところで、ゼノンはフェルディを見やった。
「・・・ということで、色々諦めて下さい」
「意味が分からないよ」
「考えてみたのですが」
フェルディが眉を思い切り寄せた。いったいこれからゼノンが何を言い出すのか分からない。わからないが、とても嫌な予感がした。
「俺はもうプリーストではないのですが、実は神の加護がついたままなのです」
「・・・へえ、神さまの加護とかもらえていたんだ」
「まあ、あの国から離れると効果は薄れるようですが、いまだあります」
「・・・だから?」
「ただし、運のいいことにもう神殿とは無関係です」
この会話がどこに向かうのか、誰もが気になって耳をすませた。
「だからなに」
ゼノンがうっすらと笑みを浮かべた。
「同じ神から加護を受けている俺と彼女は、互いに傷付けることができます。彼女を無理やり俺のものにすることも、この世界でただ一人、俺だけができるんです」
ここに来て、なんだかゼノンがヤバいことを言っているらしいと気付いたバッカスが焦りだす。
神殿で与えられる加護は互いを守るためのものだ。それゆえに、互いを傷付けることは出来なかった。だが現在の彼にそれはない。
「ゼノン?」
「あなたには、やりません。彼女が嫌がろうがどうしようが、この旅が終わったら俺のモノにします」
音もなく、フェルディがピストルを持ち出した。部下が慌てて押さえつけるが三人がかりでも抑えきれない。
「頭、たいしてでかくないくせに、なんだこの力!?」
「やべえ、この人笑顔で切れていやがる!」
「頭、落ち着いてくださいっ! てゆーかゼベリウス様、あんたそんなたいそうな加護なんてもってんだったら、なんであの塔に幽閉されてたんですか!?」
ぐぎぎぎぎっと鈍い音を発しつつ、男たちは抑えていく。時折フェルディから肘鉄をくらったり、思い切り踏みつぶされているが諦めない。
「俺の加護は命の危機があるときのみ有効なんだ。あの場において殺される危険性は低かったからな。それに、大きな怪我をしても死なない程度の加護だ」
「もっと便利なもん貰ってくださいよ! うわっ、頭、あばれないで!」
「さっきからうるさいね、お前たち。いい加減どいてくれないかな?」
フェルディは、一時期は海賊船の船長をしていた男だ。荒くれ者の中で、そういう男たちを束ねた経験がある。決して見た目通りの優男ではない。
「ちなみに彼女はあなたを紳士だと勘違いしていらっしゃるようなので、言動には気を付けた方がよろしいかと」
「優しいだけの男じゃないことぐらい、彼女は知っているよ。僕らはしばらく同じ場所に囚われていたし、その間に随分と仲良くなったからね」
言葉の応酬に、先程まで黙ってみていたセスがおずおずと口をはさんだ。
「二人とも落ち着いてくれ。多分ユーリがこの場にいたら、怒って口もきいてくれなくなるぞ。だってお前たち、今とても恰好悪い会話をしている」
剣やピストルよりも鋭くて容赦のない攻撃だった。




