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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
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こんなものに感謝する日が来ようとは

 ガルテリオ率いる似非海賊こと王立騎士の面々は、水面下で調査を開始した。それにはセスも同行している。

 人為的なものならば必ずどこかに仕掛けがあるからだ。

 彼等の行動は常に監視されているが、それでも何もしないよりはましだった。むしろセスが動くことで警戒を呼び、バッカスが定期的に白い神の相手をする。フェルディはその間に浅黒い肌の部下達を従えて情報を集めることになった。

 もちろんそのことは、ガルテリオによって百合たちに伝えられる。

「そなたの友は正気か?」

 エリオン王国の王女アルバニアは、朝早く届けられた荷物を見て背中をのけぞらせた。

 早馬が使えない現状では、飛脚が荷物を運んできた。大きな箱のわりに軽い中身で助かったと言った飛脚に、百合は賃金に色を付けた。

 国境を超える際検分されているが、その時も担当者の頬が引きつらせ、顔を赤くしてさっさと行けと言ったらしい。

 中身は真っ赤なレースの下着と、黒いレースの下着が入っていた。見たところ文などはない。

「ガルテリオの新作ね。わたくしの趣味ではないけれど、流石に器用だわ」

 そう言いながら、ブラジャーのパッドをごそごそ探り、一枚の布を見つけた。文の代わりに使われたそれを開くと、花の香りがした。

「女性にしか使えない手ですね」

「そうねえ、でもガルテリオなら、あなたに赤い下着を送っても納得するわ」

「お黙りなさい」

 久々にゼノンの嫌そうな顔を見た百合は少し楽しくなったが、これ以上言うと怒られそうなのでやめた。

「彼等が動き出したわ。詳細はここに書かれているとおりよ」

百合はアルバニアとゼノンそれぞれに見せた。

 アルバニアは考え込み、ゼノンが思わずパッドを握りつぶそうとしてその柔らかさに苦渋の表情を浮かべる。

「こんなものに感謝する日が来ようとは」

「・・・偽物でも、男は大きい方が好きじゃない」

「私はあなたの小さいほうも嫌いではありませんよ」

「小さくないわよ、きちんと大きいです」

「わが国では平均程度しかありませんよ」

「あなたの国が何もかも大きすぎるのよ! だいたい、大切なのは形! 大きさは二番手でしょう!」

「・・・はいはい」

 そんな間抜けな会話をアルバニアは微笑ましそうに見ているが、こんな事をしている場合ではないと気付き二人の間に入った。

「それよりも、これからどうするのじゃ。わらわの兵はあまり貸せぬが、精鋭を用意した。もし行くつもりならば連れてゆけ」

「感謝するわ、アルバニア。でもあなたはどうするの?」

 現在水を求めて各地で多くの争いが起きている。アルバニアたちはそれを鎮めるために兵を出しているが、それが余計な火種となることも少なくなかった。

 百合たちは表だって動くことが出来ず、ただ様子見を決め込んでいたが。

「わらわは、この国のために出来るだけの事をする。そなたが毎日神々に祈りをささげてくれるおかげで、雨も何度か降った。本当に感謝している」

 アルバニアの瞳は優しく細められ、そして決意を秘めた瞳で百合をみやった。

「リリー。いや・・・プリーティア・ユーリ。そなたの優しい歌声はわらわを癒してくれた。バッカスの言葉はわらわに勇気をくれた。ゼノン殿。そなたの厳しい声には、わらわも背筋が伸びる。そなたらに出逢えたことは、まるで奇跡じゃ」

「あなた、気付いていたの」

「そなたらがやって来てすぐに、そなたらの国の使者が姿見を持ってやってきた。すぐにそなたと気付いた。だが、そなたはこの世界のために来てくれた。返したくないと思ったのはわらわの我儘じゃ」

 しかられた子どものように視線を落としながら言うアルバニアの頬は、赤く染まる。

「いいえ違うわ。名を偽り、あなたを騙したのは事実。短い間だったけど、助かったわ。バッカスが戻ってきたらどうか、彼をお願いね」

「そなたは・・・戻ってこぬのか?」

 寂しげに揺れる瞳はまるで、主人に置いて行かれる子犬のようだ。何故か罪悪感を覚えたが、百合はそっと微笑む。

「・・・わたくしは、世界を救ったあとは、やらなければならないことがあるの」

「それは?」

「今はまだ、内緒よ」

 愛らしい笑みと軽やかな口調に、アルバニアはようやく肩の力を抜いたようだった。

「そうか。ではいずれ教えてくりゃれ」

「ええ、約束ね」

 ほのぼのとした彼女たちの会話を聞いていたゼノンが、ぼそっと呟いた。

「あなたにも王女のような愛らしさがわずかでもあれば・・・」

「なんですって?!」

 残念そうな呟きは、しっかり拾われていた。



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