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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
16/203

朝からやめてほしいわ、本当に


 その知らせが届いたのは、翌朝のことだった。

 宿代わりに使っていたオースティンの実家(ボロボロだがちゃんと貴族の屋敷だった)に早馬がやってきて、まだ日の出まえの早朝にも関わらず神殿に出向くよう伝えられた。

 久々の故郷で飲みすぎてしまったオースティン(ストレスによるヤケ酒だ)は、昼まで起きてこないだろという家令の言葉を受け、浅黒い肌のプリーストと美しいプリーティアは出向くことに決めた。二人が勝手に馬車を拝借して向かった先は、王都のエメランティス神殿。

 白く滑らかな美しい建物は、所々金細工が施してあり、贅を尽くした一品だった。どことなく王城よりも豪華な雰囲気だ。

 ようやく日が昇り朝食かという時間帯。

 無駄に絢爛豪華な建物の一室は、外観に反して質素で薄暗かった。

「ねえゼノン。わたくし、ここをどうしても良い環境と思えないのだけれど」

「はい、プリーティア。ここは一般的に牢屋と呼ばれる場所かと存じます」

 何故か建物に入るなり案内されたのは天井にクモの巣だらけの地下牢だった。

「今朝は取れたての果実をジュースにしてくれるって言ったのに」

「焼きたてのパンや具のないスープも楽しみでしたね」

 貧乏なりに美味しいものには飽くなき探求心を求めている家令の指示で、本来ならば今朝の朝食は質素かつ美味しいものが並ぶはずだった。

 二人が外出して一番ショックを受けたのは、他でもない家令その人である。

 ところで、その二人は今や牢の中。しかしとても捕まったとは思えないほど尊大な態度であった。見張りについている若いプリースト四人は、逆にビクビクと怯えた様子だ。

「ねえ、そのあなた」

「ひっ!? は、はいっ」

「わたくし、喉が渇いたわ」

「私も喉が渇きました」

 え、どうしよう。そう戸惑っているのが四人から伝わってくる。

「わたくしは、喉が渇いたといったのよ」

「はいっ、た、ただいま!」

 まるで飢えた狼に睨まれたウサギの如く飛び出していった若いプリーストを、他の三人が羨ましそうに見ていた。自分も早くこの場から立ち去りたい。

 彼らは気付いていない。結局のところ飲み物を持って戻って来なければならない事実に。

 牢の中の二人は、それぞれ別の牢に入れられていた。隣同士なのか音が反響して聞き取り難いが先程の会話でお互いの位置はわかった。

 問題は何故このような待遇を受けているかだが、おおかた昨日の一件だろう。

 プリーティアはこの世界に来て初めて自分の行いに反省した。決して顔には出さないが。対して浅黒い肌のプリーストは、己が生まれ育った国の地下牢よりはマシだなとか、居心地そんなに悪くないじゃないかとか、数か月前まで戦場にいただけはある不屈の精神だ。

 心配なのは隣に居るプリーティアのことで、彼女がこんな場所に耐えられるか、いやきっと美しく穢れのない彼女には辛い場所でしかないはずだ。

 そもそもこの場所の事を理解していないかもしれない。そうであれば良いと考えていると、先ほどの若いプリーストが戻ってきた。

「し、失礼いたします」

 おどおどした態度で仲間に扉を開けさせ、まずプリーティアに暖かいお茶を届ける。

 この茶葉は王都限定の超高級品で、貴族でも本当にお金に余裕がある一部が好んで飲んでいるものだ。残念ながらどれだけ頑張ってもオースティンの実家では出されることはないほどの高級茶だ。

 傷一つない白い指先が伸ばされると、若いプリーストは呼吸を止めた。

 この薄暗く気味の悪い地下牢に居ても美しさを損なうことのない女に、人外めいたものを感じた。

「悪くないわ」

 ふっと、満足げに笑みを浮かべた口元から目が離せない。

「隣の彼にも届けてくださる?」

「は・・・・い・・・」

 空になったカップを受け取ると、彼は言われたままに歩きだし、隣に居るゼノンのもとへお茶を届けた。

 ゼノンは黙って受け取り全て飲み干すと、さあ動くかと言わんばかりに立ち上がり、熱に浮かされたようにぼうっとしている男の首に一撃加えた。カップが落ちて割れると、それを広い武器にする。

「ここから出せ。無駄な血を流す気はない」

 ゾッとするような低い声に、他の三人は悲鳴を開けることもできず震えながら言うことを聞いた。


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