違う、はずだって・・・たぶん。
「つまり、ゼノンという男は、あの方の恋人だと?」
「違う」
バッカス、フェルディ、セスの三人から同時に否定されてなお、グライフは納得できなかった。
「では、王都で流行っているプリーティア教に属しているとか?」
「よくわかんないけど、そもそも神殿に属しているのがプリーティアなんでしょ? それとも王都では別に宗教があるの?」
セスがハッとしてグライフを見たが、結局何も言わず口を閉ざした。
「いえ、現在王都を中心に、麗しのプリーティアを崇める動きが広がっているのです」
「更に混乱しちゃう。だって僕らが自然災害をおこしてるってあんたたちは思ったから、僕らを見張っていたんだよね? なのに、ユーリを崇めてるの? へんじゃない?」
「一部の者に限定されているようですが、かなり熱心な信者がいるとか。やはりご存じありませんでしたか。我々はあなた方に怪しい輩が近づかぬように護衛も兼ねておりました」
「・・・変態集団じゃないの?」
酷い言い草だ。グライフの部下達が沈痛な面持ちで彼を見やる。
「違います」
「でもユーリの入浴までばっちり見てたよね?」
「・・・へえ?」
フェルディの笑顔が凍りついた。室温が二度は下がったような気がして、グライフが慌てて言う。
「誤解です。覗きではありません!」
「じゃあなんで、見てたの? お風呂場は神殿の敷地内にあったのに、危険なんてなにもないのに」
流石に、一般人に入浴風景を見せるわけにはいかないため、限られた場で行っていた。確かに開放感あふれる森の中ではあるが、便利な結界の中であったため温泉まで不審者が入り込むことはない。
ただし、水浴びを楽しむ場所は一般人でも入れるためゼノンが護衛を務めていた。
「入浴の最中は無防備になります」
「まさかと思うけど、結界の効果を本気で知らなかったの?」
「我々のようなものに、あの結界は意味を成しません」
バッカスが呆れた顔をすると、すかさずグライフが言い返す。
「それは単に、王都の神殿長から結界を無効化する護符を渡されただけだろう。まあ、護符があったとしても、お前たちが無体を働けば結界は護符を無視してお前たちを追い出している」
「セス・ウィング殿。確認ですが、神殿の結界とはそれほどまで便利な代物であると本気で考えておられるのですか?」
セスの淡々とした言葉に、これまで黙っていた王立騎士の一人、ロルフ・シュフティが口を開いた。身長百七十センチの彼は、集団の中でも小柄に見える。
「各地に点在する神殿の中でも、最も堅固な結界を維持し続けているのは、あの西の神殿だけだと思う。いろんな神殿に行ったが、どこもあれほど精密で、意志を持った結界はなかった」
「結界が意志を持つと? まるで生命体のように言うのですね」
ロルフの瞳がわずかに細められる。そこには疑心が浮かんでいた。
「結界に意志ならあるよ。あの神殿の結界は、三本の角を持つ神様が守ってるんだって、ユーリが言ってた。人の怪我を治したり、強い結界を張ってくれるんだって。あの街の花が好きだからずっとあそこに居るんだよ」




