よけいに怖い顔
一方その頃、バッカスは心から顔をしかめていた。
それはもう嫌そうに相手を見ている。
「ご無事で何よりです」
見覚えのある顔が、海賊のような恰好をして膝をついている。
「ただでさえ、気分の悪い場所で、ただでさえ、嫌いな人の近くにいるっていうのに、どうして僕の神経逆撫でするようなことしてるの。てゆーか、その恰好はなに」
怒り心頭を隠さないバッカスに続いて、フェルディも良い顔をしなかった。
「ガルテリオ、これはどういうことだ? 今は大事な時期なのに、こんな役に立たない連中を連れてくるなんて」
役に立たないと言われた男たちは一様に表情を殺している。
約数名米神がぴくぴくと震えているが、一応隠している。
「あらだって、最悪は海上に逃げた方が良いと思って、こいつらは死んでもいい人材だし。あとユーリがどうやらこの近くまで来てるみたいだから、ついでにさらったりとか」
ついでが一番の目的に見えたが、バッカスは突っ込まなかった。フェルディも、今回はつっこまなかった。
正直それもありか、という感じである。
「彼女がこの国に来ているって?」
喜びを隠さないフェルディに、海賊姿が似合わない男たちは困惑した。
王都へ戻る途中、突然襲われて抵抗空しく拉致された彼らは、行方知れずのプリーティアに会わせてやると言われて大人しくしていたのだ。暴力を受けた後だったが。
事実、バッカスには会えた。
「正確にはこれから来るのよ。今エリオン王国のアルバニア王女様のところに滞在しているみたい」
「ほんとう? 王女さまのところにきたの?」
バッカスも表情を明るくした。
「ユーリがいればもう安心だね! あの性悪をやっつけてもらおうよ!」
「・・・バッカス、ユーリをなんだと思っているんだ?」
嬉々と言い放った少年に似非海賊たちはギョッと目を見開き、セスは冷静な顔で突っ込んだ。
「ユーリは世界最強だよ! ユーリのもつ加護は多分あの性悪にもきっと通用するし、ここは適任だって!」
バッカスは知らなかった。ユーリの加護は、女相手に発揮しないという事を。
「しかし彼女を危険にさらすわけにはいかないぞ」
さらに、そもそも具体的にどう行動するのか、未だ彼らは迷っていた。
神を名乗る女を捕まえて尋問なり拷問なりするのは簡単だ。問題はその後、隠れているだろう仲間を引っ張り出す方法がないのだ。
「そうかな? ユーリなら大丈夫だと思うよ。絶対ゼノンも居るだろうし」
「一つ宜しいだろうか」
それまで黙って耐えていた(色んな意味で)護衛隊隊長グライフ・ハロが、静かに言葉をはさんだ。
瞬時に全員の視線が集中し、グライフの喉が嚥下する。
「なぜ、あの方はゼノンという男と行動を共にしているのだろうか。彼は神殿を追放されたのでは?」
「何いってんの? ゼノンはユーリのものなんだから、一緒にいるのは当たり前じゃない」
「・・・どういう意味でしょうか」
真剣な表情で質問されて、バッカスは思わずフェルディを見た。フェルディもそれに気付きバッカスを見るが、にっこり笑っただけで言葉はない。
「そのままの意味だよ。ゼノンはユーリのためにあるんだ」
バッカスには大人の恋愛事情はよく分からないが、とりあえず、そう言った。
「・・・・・・どういう、意味ですか?」
よけいに怖い顔をされてしまった。




