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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
156/203

海の向こうの国へ

 さて、元海賊船マーレ号では、ガルテリオ・ダリが退屈な日々を送っていた。

 海上はどこも変わらず平和、平凡、退屈な毎日を過ごしていた。

 雪も雨も地震の被害も、なぜか海上にはまったくない。

 海賊だった時は暇つぶしや腕ならしのために他の海賊を襲って訓練をしていたが(意外にもフェルディが嬉々としてやっていた)、船長不在ではそれも出来ない。

「あ~あ、今あたしのダーリンやゼノンはいったい二人で何をしているのかしら」

 ピンクの刺繍糸をせっせと動かして花を縫うのは飽きてしまった。ガルテリオの手元には情熱を思わせる大輪の花が、それこそ大量に縫われている。これは今度ガルテリオのベッドカバーに使われる予定だ。

「フェルディなんて自分だけ可愛い少年たちとハーレムしているし」

 近くを通りかかったガスが絶対に違うと首を振るが、見たいものしか見えないガルテリオにはやはり見えなかった。

「ひまだわぁ」

 そう言いながらも手は止めない。

「副長、暇ならユーリさんを迎えに行けばいいじゃないですか」

「あらガスいたの。でもダメよ、ユーリを危険な目にあわせたら、あたしたちの首が物理的に飛ぶわ」

 主に料理担当のガスは、ガルテリオお手製のふりふりレースのエプロンを脱ぎながら首を傾げた。

「じゃあユーリさんを見張っていた騎士たちは? ちょっとした意趣返しになります」

「でも彼ら、まだ西にいるんでしょう? 西は雪が酷いのよねえ」

 海の上では雪は降らない。むしろ常夏ともいえる暑さだ。

「いやいや、数日前に動き出して王都に向かってるらしいです。これはチャンスですよ、訓練を受けた騎士をつかまえる」

 中々に危険な発言だが、ガルテリオは気に入ったようだ・

「・・・あんた、たまには面白いことを言うじゃない」

「ユーリさんの居所を知っていると言えばすんなりついてくるでしょうし、フェルディさんへの土産になります」

 まあ多少剣を向けられるぐらいは覚悟が必要だが。

 そう言ったガスに、ガルテリオがにやりと笑った。

「そうね、可愛いユーリたちを困らせた罰ぐらいは受けさせないとね」

 ぐふふふふっと可愛くない笑い声を出すと、意気揚々と立ち上がった。

「さあ、楽しくなってきたわ!」

 ガルテリオは急いで甲板へ向かった。目的地変更のために。

「なあガス。よかったのか? 俺らは海上待機が仕事だろう?」

 ガルテリオが去ったあとは、音もなく他のメンバーが集まってきた。

「いやだって、あの人かなりストレス溜めてるじゃないか。俺たちに被害が出たらこまるだろう?」

「お前、ある意味一番酷い男だな」

「元海賊に何を言っているんだか。さーて、今夜は何を作るかなぁ」

 ガスは鼻歌を歌いながら歩き去った。

「ガスって最近フェルディさんに似てきたよな」

 ガスは聞こえないフリをした。




 アルバニア・ファウスタ・エンリチェッタは、バッカス・メイフィールドと出逢ってはじめて、友と呼べる存在を得た。

 バッカスは多くを望まないのに、アルバニアには多くの言葉をくれた。

 優しくて頼もしい少年は、しばらく前に旅立ってしまった。

 それ以降寂しい思いを抱えていたが、ある日バッカスの友人を名乗る女が現れた。

「わたくしはリリーというの。バッカスと同郷のものよ」

 リリーと名乗った女は驚いて固まるアルバニアに微笑みかけると、すっと手を伸ばした。エリオン王国では握手の習慣はないが、他国にはあるときく。彼女も病的なまでの白い手を伸ばした。

「わらわはアルバニア・ファウスタ・エンリチェッタ。このエリオン王国の第一王女にして水の女王である」

「ええ、よろしく」

 バッカスの時と同様に、リリーはさらっとその挨拶を流した。

「こちらはゼノン。私のつれよ」

 ゼノンは黙礼するだけで、その高い背を折ることもない。

 ここまでアルバニアを敬わない人間たちは、確かにバッカスの知り合いなのだろうと納得する。

「ではアルバニア王女、わたくしは急いでいるの。だからすぐにでもガゾラの神について教えてちょうだい」

 いや、バッカスでさえここまでの態度はとらなかった。

「・・・そなたは、バッカスのなんじゃ」

 リリーはにやりと口元に笑みを浮かべる。何やら企んでいるような顔だが、アルバニアがそれに気づくことはなかった。

「姉のような存在よ。事件が全て終わったら、バッカスはしばらくここに滞在するからよろしくね」

 はて、ずいぶん強引だとアルバニアは困惑するが、またバッカスがエリオン王国に来てくれるのは嬉しい。そう、素直に嬉しいのだ。

 アルバニアはその喜びがどこから来るのかわからないが、またあの優しい声を、笑顔を見られるのだと思うと、嬉しくなった。

「うむ。心行くまで我が国に滞在するがよい」

「じゃあ、バッカスが返ってくるためにも情報ちょうだい」

 サバサバとした態度だが、これまで、ここまで不遜な女に出会ったことのないアルバニアは、面白いと感じていた。


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