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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
153/203

変わる瞳の奥にあるもの

 赤いドレスを翻したメアリー・ブリアンナは、思わず聞き返した。

「なんですって?」

 東の国ガゾラに根付いた錬金術師の一人が、先程口にした言葉をもう一度淡々と言う。

「神に面会を求めている迷い人がいる。まだ子どもだ」

 何度言われても信じられない。迷い人とは異世界からやってきた人間の事だ。時折ふいに現れては人々の知らない知識や技術を与えていく相手。

「・・・・・わかりました、会いましょう」

 メアリーはこの時、少し面倒だが信者を増やすのも役目と考えていた。迷い人が手に入れば事はもっと単純に、そして急速に進むかもしれないと思ったのだ。

だが、彼女に会いに来た少年を見た瞬間考えを変えた。

「初めまして、白い神様。僕の名前はバッカス。バッカス・メイフィールドです」

 やってきた少年は、右手を左胸にあて、左手を腰に回し軽く頭を下げた。秋の終わりのような瞳を持っていた。優しく細められた瞳に白い神が映る。

 薄汚れた旅人の恰好なのに、その立ち振る舞いは品がある。

「・・・わたくしに、何用です」

 メアリーは名乗らなかったが、少年は気にならないようだった。

「僕はずっと遠い国からやってきました」

 声は落ち着き、緊張などしていない様子に違和感を覚えたのだ。

 この少年は決してメアリーを神として認識していない。それどころか、まるで可哀想なものをみる瞳だ。彼女にはそう見えた。

 何故か言い知れぬ怒りを覚えた。こんな相手は久々だ。だが、まだ少年。下手な発言はやめた方が良いだろうと思った瞬間、口を開いていた。

「そのようね、西の方の島国でしょう。小さな島からよもや我がガゾラまで・・・さぞ苦労したことでしょう」

 あ、と思った時には手遅れだった。少年の瞳が、濡れ落ちた葉の色から、新緑に変わったように見えた。なんて不思議な色だろうか。

 部屋の中にはメアリーと少年だけなのに、何故か複数の相手から見られている錯覚に陥った。

「ええ、そうなんです。ぼくの国では雪がとまらなくて・・・こちらの白い神さまならなんとかしてくれるんじゃないかって」

「・・・ここを守っているわたくしが、他国に参るわけにはいきません」

「そこをなんとか! 僕らの国では凍死する民が後をたたないんです。このままじゃ、国が滅びてしまいます!」

「わたくしはそなたの国の神ではない」

「わかっています、でも白い神さま。ここを守れるほどの力の持ち主なのでしょう?」

 少年の手がメアリーに伸びる。王座に座る彼女は、その荒れくれた手から逃れようとするが間に合わなかった。がさついた指先が熱くて痛い。いやらしさはないが、言葉に出来ないほどの重いなにかを秘めているように見えた。

 逃げたいのに、引き離したいのに、何故か言葉が出てこなかった。

「ねえ・・・白い神さま。みんなを助けて、あなたは神さまなんでしょう?」

 ねっとりとしているのに、どこか淡々としていて気味が悪かった。背中に嫌な汗がつたう。

 新緑だった瞳は、いつの間にか冬を思わせる冷たく暗い色に変わっていた。


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