強引な優しさ
「フェルディから届いた報告書によると、二人は現在怪しい神とやらを追って移動しているみたいね」
「もう少し情報を早く入手できれば、もっと動きが取れるのですが。流石に大陸に乗り込むのは危険ですからね」
「そうよね。さすがに大陸は遠いわ」
「これからどうします。彼に連絡を取ろうにも距離が離れすぎています。かといって大陸は危険です」
繰り返し危険を強調するゼノンに、百合は淡々と頷く。
「そうねえ」
アンドレアは部屋を埋め尽くすほどの羊皮紙の山に、何度もため息をついた。
「お前たち、何故俺の部屋でやる」
「応接室はわたくしのベッドルームだもの。わたくし、寝る場所に仕事を持ち込むような無粋な真似はできないの」
「俺の部屋ならいいのか!?」
「いいわ」
アンドレアがそっと両手で顔を隠したのを確認すると、ゼノンが小さく息を吐き出した。そのベッドルームはゼノンも使用している。毎夜百合がソファで眠り、セスは床で眠っている。時折ソファから百合が落ちるので、この女はこんなにも寝相が悪かったのかと困るほどだ。
「ところでゼノン、お前少し訓練に付き合ってくれないか。雪に慣れていない連中をなんとか鍛えねばならんのだ」
「・・・わかりました」
そう言ってアンドレアはゼノンを部屋から連れ出した。百合は何も言わなかった。
部屋を出て数分。訓練場には多くの騎士が居たが、誰も剣を持たず雪かきをしていた。誰もが暗い顔をしている。寒さに弱い男たちの精神はすでに限界を超えているのだ。
「なあゼノン」
「・・・はい」
「おまえ、もうプリーストじゃないんだろう、ならなんで彼女の隣にいるんだ? やっぱり惚れてんのか?」
二人は騎士たちの前で立ち止まり、眩しい程の雪を眺めた。
「・・・わからないので、現在確認中です」
「わからんのか」
「よく言うではありませんか」
自分のことほど分からぬと。ゼノンは静かな声で言った。
だがその瞳はとても優しい色をしている。初めてアンドレアたちと出会った時よりもずっと人間くさい瞳だ。とくに百合を見つめる時の色は、盲信ではなく、むしろ・・・と考えてアンドレアは首を横に振った。
きっとゼノンは気付きたくないだけなのだ。だから今は言うまい。
「そうか」
それだけ言って、アンドレアはふっと笑みを浮かべた。
「じゃあ、稽古を頼むぞ」
「この雪はどうするんですか」
「ああ? もちろん雪かきも頼むからな」
「・・・なぜ俺が」
「身体を動かせば、少しは気も晴れるだろう」
にやりと笑ったアンドレアを、ゼノンがムッとして睨みつけたのだった。




