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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
151/203

メアリー・ブリアンナ


 メアリー・ブリアンナは幼いころから何不自由なく育った。貴族の姫として教養を与えられ、人々にかしずかれて育った人間だ。ゆくゆくは有力貴族の若君に嫁ぎ、子を生し、貴族としての役目を果たすために己を磨いてきた。

 真珠のように白い髪のため真珠姫と呼ばれた彼女は、しかしある時をさかえに、奴隷に身を落とした。

 それは降りしきる雨の日だった。大きすぎず小さすぎない祖国は、たった数十人の傭兵によって滅ぼされた。

 国は亡くなり、人々は散り散りになって逃げた。だが不自由ない暮らししか知らなかったメアリーはすぐにその生活に不満を覚え、それでも文句も言えない日々が続く中、人買いにさらわれた。

 人買いは奴隷商人にメアリーを高く売りつけた。メアリーの災難はここから本格化したといってもいい。

 結婚を目前に控えた十九歳の彼女は処女であった。

 処女はそれだけで高く売れるが、逆に言えば処女であればよかったため、様々なテクニックを仕込まれた。

 見た目も美しく、豊満な肉体はそれだけで男を喜ばせるが、褥の中でどれだけ奉仕できるかも女奴隷には必要な技術であった。

 どれだけ泣き叫んでも止まない凌辱に、いつしか泣くことすら忘れてしまった。感情が心を守るために蓋をしたのだ。

 そして彼女はとある国の豪商に買われた。そこからも地獄であったが、美しく聡明な彼女はある日ひらめいた。

 美しい彼女を気に入っているこの豪商を誑し込み、商家を乗っ取る。奴隷の身分は金で買えるのでなんとでもなるのではないか、と。

 甘い考えと笑う人間もいるだろうが、メアリーにはそれしか道はなかった。

 もともとプライドの高い貴族の姫が本気になって男を落とすのだ。それはとてつもない屈辱であったが、同時に言い知れぬ興奮も覚えた。

 今までメアリーを見下してきた人々が、力をつけていくメアリーに畏怖を覚える様は楽しかった。

 ほんの数か月で豪商はメアリーに全てを捧げるほど心酔した。奴隷の身分を買い取り愛人として傍に置くようになり、妻子を家から追い出すと仕事は全て人任せ。当然家は傾いた。

 メアリーは言葉巧みに豪商だった男を誘導して、ある一団と鉢合わせた。魔法の力が根付く大地でもわずかに存在する錬金術師たちだ。

 彼らの存在を知り、更にメアリーにそそのかされた元豪商は、新しい商売を始めようと企んだ。

 彼らの商売に必要なものは金でも受け継いだ技術でもなかった。買い手だ。彼らが売り出すものには買い手が必要だった。

 商品が錬金術である以上、下手な宣伝は逆効果だ。

 だから、彼らは考えた。

「神よ、計画は順調だ。最終段階に入るのも時間の問題だ」

 神とあがめながらも錬金術師たちは不遜な態度を崩さなかった。メアリーもそれを気にしなかった。そもそも彼らはメアリーにとって、世界に復讐するための道具でしかない。

「ええ、変わりませんわ。とても良い気分です」

 メアリーは許せなかったのだ。この世界そのものが。

 国によっては神々を本気で信じているようだが、そんな存在は認めない。彼女が最も苦しく、最も辱められた時、神々は彼女を救ってくれなかった。そんな存在は不要だ。こんなふざけた世界など壊れてしまえばいい。

 だから、壊すと決めたのだ。

 外では恐怖と混乱に泣き叫ぶ人々と、壊れゆく大地の悲鳴が響いていたが、メアリーには雨音よりも優しく聞こえていた。



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