傲慢で不遜が代名詞
傲慢で不遜。この場にいるのが不思議なくらい神殿の制服が似合わない女。それがユーリと呼ばれる女だった。
え、と驚くプリーストに、ゼノンがローブを脱がせながら言う。
「しかし返答は「お前たちで解決しろ」でしたね。金も人も知識すら乏しく、身を守る最低限の術すら持たない西の神殿に何ができると言うのか。たまたまプリーティアが迷い人だったために助けられた命も、本来ならば全て失われたことでしょう」
今回は運が良かった。
浅黒い肌のプリーストが淡々と言えば、彼は更に目を見開いた。
「そんなはずはない! 神殿はすべての人々に癒しと安らぎと救いを与えるために」
「癒しも安らぎも救いも、与えられるのは一部にすぎない。人々を救う気すらないあなたたちに、なんの価値があるのかしら。神々に仕えているのか、王に仕えるのか、そのくらいはハッキリさせてはいかが?」
辛辣なものに言いに、男が更に険しい顔をする。
「私の所には、あなたたちの救援要請は届いていません」
「それは、誰かが必要ないとわたくしたちを切り捨てたからでは?」
「神殿はいかなる相手も見捨てたりはしない!」
「しかし実際、あなた方からの助けはなかった。こちらが錬金術師を送ってもらうまでは助けはなかったのですよ」
グッと奥歯を噛締める男に、ゼノンが冷めた目を向ける。
「ここ王都ならば、安全ですしね?」
うっすらと笑う男に、若きプリーストはハッキリと怒りを見せた。
「そんな卑怯な真似はしない!」
「あなたはそうかもしれませんね」
ゼノンは過去の出来事から権力者を嫌う傾向にあるが、ここに来てそれを隠すつもりはないようだ。もともと彼は彼女に対して良い態度を取らない人間は全員嫌いなのだろうし、オースティンはまだ自分がそこまで嫌われていないことに気づいてホッとした。
「神殿に確認する。しかし、王に対する不敬は許されないことを知りなさい」
「・・・あなたが神々よりも王に対して忠誠を誓っていることは理解したわ。ところで、わたくしは時間の無駄が嫌いなの。お話を続けても宜しいかしら?」
ここまで実は三人の会話を楽しんでいた王は、初めて自分が呼ばれたと気付いた。
「うむ、聞こう」
「此度の一件、元は王都に住まう錬金術師が起こしたこと。すぐに害がでなかったために発見が遅れ、被害者を多く出してしまった」
「悲しいことじゃ」
王は、そう言いながらもどこか楽しげだ。
「すぐに救助に来なかった理由はどこにあるのかしら」
「状況が把握できなかったこが原因じゃな。それに、そなたらはそんなにも必死ではなかっただろう?」
「たかが地方騎士団団長が訴えたところで、あなたたちは本当に動いたの? 今回は腰の重い可愛らしい王立騎士団を諦め、研究目的ならば命も惜しまない錬金術師長に訴えたから救助が来たのよね」
色々と酷い言い草だ。
いい加減慣れてきたオースティンですら胃が痛くなってきた。
「ねえ国王様、あなたは誰のためにその椅子に座っているのかしら?」
「・・・ふむ」
「些細なことと捨て置いてくれて構わないわ。それが人の王という生き物ですものね」
にっこりと今日はじめての笑顔を見せた彼女は、ゼノンからローブを受け取り、またもフードを目深にかぶった。
「ごきげんよう、わたくしたちを見捨てた人の王」
盛大な嫌味を言ってさっさと退場した女に続くゼノンは、わかりにくいがいつもより機嫌がよさそうだった。
流石の国王も呆然として彼女たちを見送った。
王族の面々も、ここまで王族を敬わない人種に初めて出会い、言葉が見つからなかった。
王の娘と息子たちがそっと父を見上げると、彼はとても楽しげに、新しいおもちゃを貰った子供のように笑っていた。
その曇りない純真の笑みに、誰もが嫌な予感を覚えたけれど、わが身可愛さのため口をつぐんだのだった。




