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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
148/203

情報収集は基礎ですから


「悪くないわね」

「俺は胃が痛くなってきたぞ」

 その頃百合は南に来ていた。南でも雪が止まず民の生活に大きな打撃を与えたが、それ以上に大量の雪をどうするかで頭を悩ましていたからだ。

 黒髪を茶色に染め、前髪でなるべく瞳を隠し、どこにでもいる村娘風の恰好をすれば不思議なことに誰にも気付かれない・・・・とはいかないが、道中は気付かれなかった。

 街に入った途端、騎士に連行されて現在は騎士団に軟禁されているが。

「あら、大変ねえ」

「あんたのせいだってわかってるか?」

 南方騎士団団長アンドレア・カルロは、騎士とは思えない荒くれ者たちを指揮する海の男である。本当は子爵家の長男だが絶対貴族に見えない風貌をしているため、誰もが気軽に声をかける。

 普段は冬でも腹を出している彼だが、流石に雪の中では完全防備だった。

「あんた、浚われたんじゃないのか」

「ええ、今絶賛浚われているわ。ああゼノン、お茶を淹れて」

 ゼノンは小さく頷き、興味を隠さない騎士団員の視線を一切無視してお茶を淹れている。

「こっちの甘いジュースが飲みたくなったのよ」

「あんたなあ・・・・もし俺があんたの救出命令を受けていたら今頃どうなってると思ってんだ!」

「それも大変ねえ、それより歩いて旅をしたから疲れているのよ。甘い物を頂戴」

 副団長のエドアルド・ジャコモが呆れを隠すことなく甘いケーキを差し出した。部下が親切心から全力疾走で買って来たため形が崩れているが、味は保障済みだ。

「それにしても、海辺の雪も良いものね」

「どこがだ!」

「それで、ちょうどいいからあなたにお願いがあるのよ」

「ちょっとまて、何がチョウドイイって?!」

「いちいち元気な男ね。ゼノンを見習ってちょうだい」

「あんた、清楚とかいう言葉をどこに捨ててきやがった?!」

 ちっと舌打ちした百合に、アンドレアが噛みつくがもちろん相手にはされない。

「団長、話しが進まないので黙ってください」

 ガツッと鈍い音が響いた直後、アンドレアが頭を抱えて蹲った。

「それでプリーティア殿、我々にどのようなご用件で」

「東と北の様子を知りたいの。調べていることを教えて欲しい。あと、今はリリーと名のって旅をしているわ。人前ではそう呼んで」

 リリーとはLily、つまり英語で百合という意味だ。

「ふむ・・・それはこの雪を止める原因を探るためですか」

「ええ。神々には止められないから、わたくしが動いているのよ。神殿は信用できない状況だから、一時的にゼノンに協力してもらっているの」

 とはゼノンが考えた言い訳だが。

「この国のためにですか」

「この世界のためによ」

 切れ長の瞳が、真意を探るように百合に向けられている。

「迷い人たるあなたが、そこまでする必要がありますか」

「あるわ」

 即座に断言した。なぜなら同じ質問を何どもゼノンから受けた後だったからだ。

「そもそもこの異常気象はわたくしたち迷い人がもたらしたとまで言われたのよ。王都の騎士に何日も監視されて気分が悪かったわ。だから、さっさと原因を究明してわたくしたちのせいではないと証明したいの」

「これだけの災害を引き起こす力の持ち主ですよ、無事に事が進むとは到底思えませんが? あなたは今、神殿の手助けもない状況なのでしょう?」

「ええそうよ・・・でも」

 百合はいったんここで言葉を切った。

 エドアルド・ジャコモの瞳をひたと見据えて睨み返す。

「出来ることがあるかもしれないのにやらないのは、卑怯だと思うわ。わたくしは確かに今、神殿の保護下にない。でもそれは言いかえれば自由に動けるということよ。この件が無事終わればわたくしもたたでは済まないでしょう。今度こそ王都で軟禁される。でもだから今、この世界を見捨てる理由にはならないわ。わたくしはこの世界で生きることを決めたの。自分の生きる世界を守るのは当然よ」

 蹲っていたはずのアンドレアが苦い顔をして口を開いた。

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