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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
147/203

ジゴロ・・・


 セスは呆れを通り越して感心していた。バッカスは誰に対しても物怖じしない少年だが、ここまでとは思わなかったのだ。

 海上でおよそ一月過ごした彼等がやってきたのは、失われたはずの魔法がいまだ根付くかつての大国。

 ヴェステンを離れた理由はセスが錬金術師長に送った文だ。ヴェステンにいてもバッカスの安全が保障できない。また、王都の騎士団に不審点があるため連れ出したい。もちろん錬金術師長にそれを許可する権限はないが、実際プリーティアが浚われて消息が分からない現状で安全とは言えなかった。

 すぐに国からの許可は下りたが、それはあくまでも王都に連れてくると思われていたからだ。だが、セスはそうしなかった。

 王都には百合の信者(?)である怪しい女が囚われている。万が一バッカスに事があってはいけないと別の場所に連れて行くと伝え、そのまま海上にでた。

 二人を手助けしたのはオースティン・ザイルが信頼する部下三名と、元海賊の友人だった。雨の降らない国で唯一雨が降る王都を確かめたい。その言葉に、信頼と未来を託してくれた。

 百合と出逢う前のセスなら、こんな危険なことはしなかった。国を一月以上開けることも、騙すように出てくることも、少年を危険な場所へ連れてくることも。

 バッカスは、ここ一月でまるで少年のまま年を重ねた様に見えるほど成長した。それは外からはわかりにくい変化だったが、セスにはよくわかった。

「そうなんだ、王女さまはたった一人で戦っていたんだね。頑張ったね」

 主に、悪い方向へ。

「・・・わらわは、出来ることをしているだけだ」

「出来るからって、やれる人ばかりじゃないよ」

 裏表のない笑顔で言い切ると、わずかに目元を赤く染めたアルバニアが目を逸らした。

 女を口説く技術は元海賊の友人に指導を受けたらしい彼は(指導するつもりはなかったらしいが)、余すことなく王女相手にその技術を駆使している。

 しとしとと降り出した恵みの雨音を聞きつつ、セスとバッカス、アルバニアの三人はお茶を楽しんでいた。情報交換という名目だが、先程から辟易するぐらいバッカスが褒めまくっている。

 もともと紳士の国から来た少年なので意識せずとも女を褒めることは出来るが、意識して行動すると更に効果がある。

「王女さまは凄いね」

 凄いのはバッカスである。言葉巧みにアルバニアを誘導し、初対面とは思えない程スムーズにお茶の席を用意させた。その手際の良さはまるで詐欺師のようであったが、頭の良いセスは何も言わなかった。

 そもそも、見える位置にいないとはいえ護衛も付けずお茶をするなんて非常識だ。

 それも彼が子どもの姿をしているからというのもあるのだろう。セスが青白い顔で今にも倒れそうなフラフラな様子も一役買っていた。

「・・・そなたのような子どもがなぜ、わざわざ調べておる」

 アルバニアは一言、一言を考えて口にしていた。

「実は、僕の大切な友だちが悪い人にさらわれてしまったんだ。もともと平和な国だったんだけど、異常気象のせいで人の生活に余裕がなくなって、怖い犯罪が多発しているんだ」

 すらすらと流れる嘘とは言い切れないそれに、セスは胃が痛くなってきた。

「なんと・・・・その友が無事であればよいが」

「ありがとう」

 目を逸らして悲しげに礼を言うバッカスは、まるで薄幸の美少年だ。

 所々からため息のような気配がするがきっと気のせいだと己に言い聞かせると、セスはようやく口を開いた。

「王女殿下、この異常気象の原因をご存知か?」

「・・・わからぬ。だが、東の国に神が降臨したと聞く」

 セスが思い切り眉をひそめた。セスが生まれ育った西の国は確かに神々が存在する。だが海の此方側の国々では神は人々の前に姿を現さない。魔法の力が残っている国ほど神々は隠れるのだ。

 それは、魔法の力が本来神から奪ったものだと言われる説と、魔法の力があるから神の力が必要ないという説があったが、誰も原因は知らない。

「東の国・・・でもそこは、地震が多発しているんじゃ・・?」

「うむ。だが、神を名乗る女が人々を守護しているらしい。わらわの力など足元にも及ばぬ」

「どんな力なの?」

 アルバニアがわずかに眉を寄せた。

「・・・はて、だが女のまわりで恐ろしいことは起こらぬときく」

「魔法じゃないの?」

「わらわは、見たことがないのでわからぬ。気になるのなら調べさせるゆえ、しばしこの城に留まるがよい」

「いいの? ありがとう、やっぱり優しいんだね」

 まるで大輪の花が咲くような笑顔で礼を言うと、そっとアルバニアの白い手を握った。

「・・・そなたは変わっておる」

 セスがギョッとしてのけぞりつつ視線を逸らせないでいると、アルバニアが僅かに笑った。照れたような、困ったような笑みだ。

「そうかな?」

「わらわが恐ろしくはないのか?」

 なんで? と首を傾げると、アルバニアは緊張したように短く息を吐き出し、

「・・・・いや、人肌というのは暖かいのだな」

 とまた目を逸らしたのだった。



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