触れて確かめるように
ちょっと短めです
ゼノンはそっと目を伏せ、口元に笑みを浮かべた。それは寂しげな、不満げな、ちょっと歪んだ笑みだった。
私はもうプリーストではない。あなたに、こういう意味で触れることもできるのですよ。その言葉に偽りはないが、本当もなかった。
ゼノンは百合を女として愛しているわけでない。そんな単純な気持ちで守ってきたわけではないのだ。
だが、ではどうかと言われれば、己の全てとしか答えようがない。
だからゼノンは百合に触れても欲情しない。裸体を見ても良く出来た芸術作品としか思えない。いや、思えなかった。
それが今はどうだ。
プリーストでなくなり神々の加護が外れた今、ゼノンは百合をただの女に見えて仕方がない。
跪いて爪を整えることも不自然な気がした。むしろ何故そんなことが出来ていたのか。己の過去の行動に戸惑うばかりだ。
しかし彼女の身を案じていたのも真実で、頭の中がぐちゃぐちゃとまとまらない。
だから浚ったのだ。プリーストであった頃の己は、神々に操られていたのではと不信感を抱いたから確かめるために。
「百合、私はもうプリーストではない。あなたに、従う理由すら持たない」
白い頬は滑らかで弾力があり、いつまでも触っていたいと思わせる何かがあった。
「ええ、そうね」
対した百合は、むしろ晴れやかな笑みを浮かべている。
元プリーストとはいえ今は一般の、かなり大柄な男。そんな男に触れられているのに嫌がる素振すら見せない。
「あなたの頼みを聞く理由はありません」
「断る理由もないはずよ」
その声に緊張はなかった。
ゼノンの意思を正確に読み取ったのか、緊張するだけバカバカしいと思ったのかは定かでないが、とりあえず百合は行動を起こすことに決めた。
そもそもゼノンはあまり悩むタイプではない。もともと頭が良いので理論的に考えて理解して即行動する男だ。納得するかは別として。
だから今の状況はあまりよろしくない。
「・・・“俺”が、受けるとでも? あなたが関わることに平和的解決がなったことは一度もありませんよ。今の俺には、あなたを守護する力もないのに」
無意識だろうか、それでもゼノンにとって百合が守護する対象であることは変わらないようだ。
「あなたの守護が欲しいわけじゃないわ。でも、あなたの力は欲しい」
ゼノンほどの戦士はなかなか見つからない。神殿に身を寄せない彼は、今誰よりも自由に動ける。それは何よりも必要なことだった。
「ずいぶんと買い被ってくれますね」
「買い被りはしないわ。事実を言ったまでよ」
実力を、思考回路を、行動力を知っている。これほどまでに心強い相手は居ない。
だがゼノンが言ったように、今彼を繋ぎとめるものは何一つない。それは互いが理解していることだった。
だからゼノンは、
「脱いでください」
淡々と、しかし抵抗を許さない声で言い放った。




