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麗しのプリーティア  作者: aー
第四章
138/203

色男もたじたじ

 王立騎士エルマンノ・エトーレは、一見軟派な性格をしている。インディゴの髪を無造作に束ね、常に優しげな瞳はラベンダーの花のような色をしていた。女性に対してはとくに友好的な態度で接する彼は、今まで幾度も浮いた噂を流している。

 そんな彼だが、実はかなり硬派な性格の人物だった。

 巧みな話術から情報収集に優れている彼は誤解されやすいが、軟派な雰囲気も利用できるので利用しているにすぎない。

 誰が見ても美男子と評するだろう彼を、しかし百合は一切無視し続けている。

「麗しのプリーティア、お茶が入りましたよ」

 わざと明るい声で言っても、まるで存在しない相手のように振る舞われるのははじめての経験だった。

 すぐ傍で護衛隊隊長のグライフ・ハロが落ち着きのない視線を寄越してくるが、それすらもエルマンノには面白く感じた。

 エルマンノは基本的に、百合とバッカス両方の護衛についている。当初はバッカスだけの担当だったのだが、他のメンバーから交代を要請されたのだ。

 いわく、心がもたないとのこと。

 バッカスの担当をしている騎士も別の意味で心労が溜まっているのだが(迷い人たる美少年に嫌われてショックを受けたものが続出した)、エルマンノは特に気にせず承諾した。

 さて、声をかけられた百合は、献上された美しい装丁の刺繍に目を落としている。

 ぱらり、ぱらりとめくられる頁。白い指先は花の色の爪が輝いているようだった。プリーティアはネイルなどしないので、きちんと毎日手入れしている証拠だろう。

 だが、相手はあくまでもプリーティアなのだ。貴族の姫ではない。

 そこを面白いと思った。

「麗しの君は、こんな場所ではなく王都のように華やかな場所に住むべきではないですか?」

 とか、

「ご覧ください、麗しの君。また雪が降ってきましたよ。それにしてもこちらは暖かいですね」

 や、

「その御髪はどのように手入れされているのですか? 貴族の姫君たちがあなたを見たら誰もがこの質問をすることでしょう」

 などと言ったセリフが、一時間のうちになんどもやって来るが、清々しいまでに無視され続けた。

 しかしエルマンノはめげずに声をかけ続けた。

 普通の人間ならばこの質問攻めにうんざりして、必ず怒り出すからだ。怒りは相手の本心を見せる。相手の事を知りたければ、何に対して怒るのかを知ればよい。しかし、余裕の気持ちは、いつのまにか焦りに変わっていた。

 普通の人間ならば耐えられないだろうエルマンノの質問攻め。あまりにもしつこいそれに、傍で聞いていた他の騎士はすでに辟易しているにも関わらず、百合はどこ吹く風だ。

 そして、

「麗しの君・・・いや、プリーティア!」

 先にしびれを切らしたのはエルマンノだった。

「・・・・あら、いたの?」

 鈴を転がしたような愛らしい声が、無情にも彼に刺さった。

「いましたよね、ずっと?」

「そうだったかしら。わたくしにとって、あなたは価値のないものだから気付かなかったわ」

 ぱちぱちと瞬きする女に、エルマンノはついに絶句した。もちろんまわりの騎士たちも同様に絶句している。

「それよりも、わたくしのために他のプリーティアを呼んできて頂戴」

「・・・・・・あ、はい」

 ここまで無下にされたのはエルマンノにとって人生初体験すぎて、思わず素直に頷いてしまった。

 数分後、百合の傍には数名のプリーティアたちが和気あいあいとお喋りする姿が見られた。一人は人数分のお茶を淹れ(もちろん騎士たちの分はない)、一人は百合の髪を丁寧に梳き、一人は刺繍を楽しんでおり、一人はそれを見て目を細め、そんな彼女たちを見て百合も楽しげだ。

 疎外感どころではなく、石造になった気分の騎士たちは自問自答した。

 はたして我々がここにいる意味はなんだろう。いやきっとあるはずだ。どこかには。

 ほぼ毎日この自問自答を繰り返す彼らが本当の理由を知るのは、およそ一月後となる。




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