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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
131/203

外伝4 お友だちになりましょう

セスが西にきた直後ぐらいのお話


バッカス・メイフィールドは少し前まで東のエメランティス神殿にいたらしい。

らしいというのは、そこがどんな場所なのかもわからないまま過ごしたせいだ。ゆうに十年近く引きこもっていたので、驚くくらい何もわからない。

 そんなバッカスは百合と名乗る日本人に助け出された。

 一見若いが、彼女はどうやらだいぶ年上らしい。今ではバッカスの保護者としてふるまってくれる。時に母のように、時に姉のように。だが妹のように見えることもある。

 それは全て、そう見せているだけだ。

 本当の彼女は子どもっぽくて、とてもチャーミングな人だ。

「バッカス・メイフィールドだな。俺はセス・ウィングだ」

 そんな彼女が紹介してくれたのが、後に親友となるセスだった。

 セスは静かな瞳をした男だった。知的で優しい目だ。

「うん、よろしく」

 バッカスは一目で彼を気に入った。

 セスは何度も神殿に足を運んでくれたが、その頻度はまちまちだった。どうやらとても忙しいらしい。

「それでね、ゼノンがすっごく上手に花を並べるんだけど、ユーリは実はへたくそでね」

「うん」

 セスはどんな話でも真剣に聞いてくれた。けれどいつもバッカスが一方的に話すばかりだ。

「誰がへたくそですって?」

「あ。ユーリ!」

 時折百合もふらっと現れては二人の肩をぽんと軽くたたいて、またどこかへ行ってしまう。

「あまりセスを困らせちゃダメよ」

「そんなことしてないよ!」

 こんな会話でもセスは落ち着いた表情で見ているだけだ。

「じゃあセス、わたくしは水浴びをしてくるからその間二人で仲良くね」

「・・・ああ」

 小さな返事を聞いてから百合は去っていく。毎日冷たい水を浴びているくせにとても元気な彼女は、多少牢屋に入れられてもへこたれない男らしい一面も持っている。言葉にしたら怒られるので絶対に言わないが。

 変わった人だと思って顔を上げると、セスが離れていく後姿を見つめていた。

「セスって、ユーリが好きなの?」

 一秒、二秒。三秒・・・たっぷり三十秒数えた瞬間、セスは今までに見たことのない様子で振り向いた。ぐぎっと嫌な音がした。

「はあ!?」

「あ、聞いてたんだ。だからね、セスはユーリが好きなの?」

「何故そうなる?」

「だって、ユーリのことじっと見てたじゃん。女の子として好きなの?」

「ない、それはない。俺はまだ普通でいたい!」

 いつもなら淡々と言葉を返すのに、妙に焦った様子に首を傾げる。

「普通でいたいって、どういう意味?」

 セスははじめて、バッカスに気まずい顔をした。

「少し冷静に考えてもらいたい」

「うん?」

「何故誰もがユーリを好きなる? おかしいと思わないか」

 バッカスはこの世界に来て初めて優しくしてくれたのが百合なので、百合になつくのは当然だった。

「ユーリは優しいし、可愛いよ」

「・・・彼女をそう言えるお前は凄い奴だと思う」

「それにほら、うちの団長だって苦手意識を持っているみたいだし」

「そうだろうか。それでも、彼女に惹かれている点はあると思う」

「あんだけおっぱいでかかったら、普通の男は好きになるよ」

 セスは思い切り顔をしかめた。

「お前、そういうこと言うんだな。ちょっと意外だ」

「言うでしょ。男の子だもん」

 しばらく二人の間に沈黙が落ちた。

「・・・・・話を戻すが、誰もが彼女に惹かれるのはおかしいと思う」

「迷い人の特典かなにかじゃない?」

「まあ、一番はそれだろうが・・・だからって」

 最近百合は王都の若い神殿長とか海賊とか、交友関係が広がり過ぎている。いつか危ない目に合わないかが心配なのだという。

「ゼノンも居るし、団長もいるし・・・セスもいるから大丈夫だよ」

「俺も数に入るのか」

「え、だってセスはすっごい人だってユーリ言ってたよ?」

「・・・俺が?」

 驚いた様に目を見開いたセスに、バッカスがうんと頷く。

「誰も知らない病気を必死で直してくれた恩人だって。いつも顔色が悪いのは、いつでも誰かのために一生懸命だからだって・・・セスは凄いね、ユーリって手放しで人を褒めることあんまりないのに」

「・・・そうか」

 とても誇らしげに彼は笑った。バッカスもその顔を見て嬉しくなる。

「でね、ユーリって」

 そうしてまた、話しにもどっていった。



 バッカスは気付いていないが、セスはかなりバッカスを気に入っていた。見た目のわりにしっかりした少年は、百合の話を嬉しそうにするのだ。

 元の世界に帰ることもできない哀れな二人。しかし彼らには目に見えない絆がこの世界とあるのだと信じている。

 セスは少しでも彼らのそばにあれるよう、日々仕事に励むのだった。




次も短編です。

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