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麗しのプリーティア  作者: aー
第一章
13/203

もっとちやほやされて生きたい

「わたくしにこの世界の常識や教養をくださったことは感謝するわ。でもわたくしは変態ではないの。男を罵る趣味も、踏む快楽も理解できない」

 だからもう俗世の男とは関わりたくない。

 そう断言した彼女に、フラジールは深く同情したと同時に、自分も少しだけ彼女に命令されるの好きなんだよなと思った。

 そもそも、この威風堂々とした雰囲気がいけない。この国の女性にはなかなか備わっていない素質だ。

「プリーティアはもとの世界でどのような暮らしをなさっておられたのですか?」

 その質問に、彼女は少しだけ目を細めた。

「わたくしは・・・一般階級の出よ」

「団長たちには言いませんから」

 にこりと笑ったフラジールは本気で信じていないが、そもそも彼女の口調が高圧的になったのはこの世界に来てからだ。

 堂々と命令口調で言えば、何故か多くの人が喜ぶのでそうしただけであって、もともとは常に楽をしたい。面倒くさいことは好まないタイプの女である。

 平日は仕事から帰ると冷蔵庫に直行してビールをあおる。休日は昼から出かけて早くから開いている居酒屋を飲み歩いたり、一日家に引きこもって酒に合う肴を作り続けたりとダメ人間まっしぐらだった。もちろん、恋人など数年単位でいない。最後に付き合ったのは大学四年生の時だ。相手が遠くの会社に入社することが決まったため自然消滅のような形になった。

 キスもセックスもない生活でも、彼女は日々充実されていた。

 この世界に来てからは自堕落な生活が出来なくなって残念に思うどころか、以前よりもまわりの人間が何でもしてくれる快適生活が待っていた。これを楽しまないのはもったいないと、周りが喜ぶ態度を取り続けた。

 そして今である。

 王都など行ってしまえば、自分が頑張らなければならないことがきっとある。そんなことは嫌である。もっと楽に、そしてもっとちやほやされて生きたいのだ。

 口が裂けても言わないけれど。

「もう、あの世界に戻ることはないのだから・・・どうでも良いことよ」

 迷い人が元の世界に帰れる保証はどこにもない。時折帰ったのではないかという話はあるが、本当のところはわからない。

「しかし、帰りたいのでしょう?」

「・・・どうかしらね」

 今の方が楽なので別にこのままで構わないと言っても、フラジールは信じないだろう。

「実際問題として、王はあなたを諦めないでしょう。それよりは自ら向かい心証を少しでも良くしておいた方が宜しいかと」

 ここにきてゼノンが言い難そうに、それでもフラジール達に同意するように言った。

「あら。その場合あなたも来ることになるのよ?」

「私はあなたの護衛を任されております。王立騎士団数人なら素手でも倒せる自信がありますのでご安心ください。剣があればもっと倒せるのですが」

 忘れがちだが、この男はわずか一年前まで戦場を駆け回っていた猛者である。そんな人物が言うと説得力が半端ない。

「でもわたくし、長いこと移動するのは不安だわ」

 なんとも可愛いセリフだが、実のところ乗り心地の悪い馬車に何日も揺られるのが嫌なだけだ。

「王都から迎えの馬車がきます。先日乗られた馬車よりも乗り心地は保障しますよ」

 うちは財政難ですからね、と悲しげにつぶやいた。

「あなたも同行するの?」

「そうですね、私か・・・団長がともに行くことになります」

 今回の場合は団長名で錬金術師を派遣させたので、行くとすればオースティンで間違いないだろう。

「・・・神殿のプリーストに支持を仰ぐわ」

 ようやく態度を軟化させた彼女に、二人の男はホッと息をついた。

「せっかく行くのでしたら、神殿の皆に土産でも買っていきましょう」

「そうね」

 ちなみに神殿には現金による寄付がほとんどで、実はプリーティア達もお金をもらっている。ほとんどの者は外に出ないのでわずかな、貰えるのはわずかな金だが使い道がないのでどんどん貯金が増える一方だ。

 今回街に降りることになった二人は、ほぼ全員からお金を託されている。

 街では何があるかわからないからと。

 神殿に仕えるものは皆同じ制服を着ているので、街を歩けば無料で食べ物や飲み物を支給されるし、安くない宿も無料で泊まれるのだが、いかんせん神殿の者は心配性なのだ。

 二人は街に来て、実はまだ一度もお金を使っていない。貰ったお金はそのまま残してあるし、最終日には自分たちのお金で簡単な土産を買うつもりだった。

 世話係の子どもたちにはお菓子と文房具を。プリーストには上手そうな酒を。プリーティアには綺麗な布やリボンと珍しい食べ物を。

 それぞれの好みは把握しているし、少し珍しいだけでも彼らは本気で喜ぶ。

 普段外に出ないということはそういうことなのだ。

 オースティンがワインを持って戻ると、何故か三人は王都へ向かう算段をしており、無性に孤独を味わう羽目になった。

 二日後、街の者に見送られ、オースティンと二人は豪華な馬車に乗って旅だった。



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