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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
124/203

変態に磨きがかかった!


 数分後の事である。

 ゼノンは一人馬を下り相手をしたのだが、兄の私兵たちはとても弱かった。あまりにも弱いのでこれで大丈夫かと心配になるほどだ。

 馬は部下が手綱を持っていてくれているので安心だ。

「ええい、何をしている?!」

「兄上。子飼いの連中ぐらいしっかり躾けてください。弱すぎて心配になります」

「馬鹿をいうな、我が家の兵がこんな軟弱なわけがっ」

 ゼノンの部下たちは互いに顔を見合わせ、そして馬鹿にしたように笑った。

「ご当主。そいつら先月入って来たばかりの新入りじゃないですか。まさかそんな素人連れてきて俺らを止めようと思っていたんですか?」

「普通に私兵となる程度なら使えるかもしれませんが、そいつらが俺たちよりも弱いのは当然ですよ。そもそも経験が違います」

「というか、この人に敵う人間ってそうそういませんよ」

 だって化け物だもん。三人が声を揃えて言うと、ゼノンが苦虫を噛み潰したような顔をした。

「これを連れ帰ったやつはどうした!?」

「あ。それならまだあの国に居ますよ。偵察隊として残すって報告にあったじゃん」

 部下の一人が楽しげに笑いながら言った。

「大事な報告書は読んだら早く燃やさなきゃ駄目だよー、ご当主」

「き、貴様らっ」

 ユゼリウスの顔が怒りと羞恥で赤く染まる。

「兄上もやりますか。素手でも多少できるのでしょう」

「貴様のような化け物と一緒にするな! 私は平均より少しできる程度だ!」

「・・・そんなに弱かったですか?」

 ゼノンは少し考えて首を傾げた。幼かった頃はただの一度も兄に勝てたことはなかったのに。

「貴様が規格外なのだ! それなのに、我が家を捨てて他国に落ち延びたばかりか、そこで女にうつつを抜かすなどとっ」

 あ。と小さな声が上がった。思わずユゼリウスもゼノンも相手を見る。相変わらず少し離れたところでのほほんとした表情を崩すことなくフェルディが立っていた。

「その女の人なら将来僕のお嫁さんにするので、どうせならその化け物捕まえといてくれたらよかったのになって・・・思っちゃったんですけど」

「はあ? あなたごときに彼女をやるはずがないでしょう」

「いやいや。でも僕。彼女にあーんしてもらう仲だし。本名で呼び合う仲だし」

 色々吹っ切れたフェルディは、恥ずかしげもなく言い切った。夏の青空のように爽やかな笑顔だ。

 実は近くに潜んでいたガルテリオや他の元海賊たちがぶほっと噴出した。

こんなフェルディみたことない! とガルテリオだけが興奮している。隣に居たスキンヘッドの男が必死に彼の口に手をあてて黙らせるが、木々が揺れたせいでゼノンに気付かれてしまった。

目は合っていないはずなのに、殺気に充てられて全身冷や水を浴びた気分だ。

「・・・私はしてさしあげるほうだ。あの方にお仕えするのは至上の喜びだ」

「知ってる? されるより、するほうが愛情が育ちやすいんだって。僕の方が一歩リードしてるってことだよね?」

 ぐっとゼノンが奥歯を噛締めた。今ならその表情だけで人を殺せそうな凶悪っぷりに、兄ですら慄いて一歩下がる。

「彼女は神々の妻たるお方ですので、あなたに嫁ぐはずはありません」

「海の上では神様も手出しできないよね? 海賊じゃなくなったら航海にまた誘うって約束していたんだ。だいたいさ、前回あんな別れ方をしたせいで気になってしょうがないんだ」

「気にしなくて結構だと思いますし、またってなんですか、またって」

「僕は海賊を止めたから、とりあえずいい人も止めようと思うんだ」

「聞きなさい」

「だから、今度は全力で彼女を貰いに行くね」

「あなた一応神殿の信徒でしょう!?」

「そうなんだけど・・・ほら、もう家族いないし。別にいいかなって」

 フェルディはそういうと、スッと右手を上げてガルテリオたちを呼び出した。

 周辺から突然現れた男たちにユゼリウスが警戒する。

「あのー。まさかと思いますけど、あの乳首さらしてる男とも知り合いっすか?」

「いや、流石にあれはないだろう。だいたい何で紐しか身につけていないんだ?」

「よく見ろ。一応大事なところは隠してるぞ。なんか大きいリボンだけど。ああいうのを変態っていうんだよな?」

 部下たちがこそこそと言い合っている。

 ゼノンだって認めたくないし、普段なら完全に無視する。しかし相手はそれを許さなかった。

「ああんゼノン! 会いたかったわ!」

 赤い紐とリボンだけの、ピンクの髪の露出狂が両手を上げて腰をくねらせ、もの凄い速度で突進してきた。馬たちが驚いて暴れる。さすがに今度はうまくなだめることができないようで、乗っていた部下たちが慌てる。

ユゼリウスも顎が外れそうなほど大きく口を開けて固まってしまった。

 ゼノンはすっと腰を落とし、音もなく左腕を振り上げた。相手の腹に遠慮なく食い込む腕。足が速すぎたために、それは普段の何倍もの威力を伴った。ガルテリオが奇声を上げて吹飛ぶ。

「よし」

 ゼノンもよくわかっていないが、とりあえず何かをやりきった満足感を得た。それを見て不満そうにしつつ助けないのがフェルディだ。

「あー。やるならちゃんとやって、ガルテリオ。せっかくのチャンスだったのに。あとで甲板掃除追加ね」

「酷いわっ、あたしを弄んで! フェルディもなんとか言ってやって!」

「あ。ガルテリオ、あそこにゼノンのお兄さんがいるよ。顔はそっくりだし、あっちでもいいんじゃない?」

 もちろんフェルディが彼のいう事を真に受けるはずもなく、すいっとユゼリウスを指さした。指されたほうは驚いて肩が跳ね上がる。

 え? と顔を上げたガルテリオ。先程の衝撃で紐はちぎれてどこかへいってしまったため、股間にリボンを巻いているだけの完全な変態と化している。

 そんな変態に見つめられたユゼリウスは、ごくりと大きく音を立てて嚥下し、また一歩下がった。

「ま、まさかっ」

 ピンクの髪の奥にある金色の瞳はまるで獰猛な肉食獣のよう。それが彼をみとめると、ゆらりと立ち上がった。ゼノンに吹飛ばされた衝撃をまるでなかったかのようなしなやかな動きに、相手の強さがある。

「オニイサマ、お名前は?」

「・・・こちらは兄のユゼリウス。末永く可愛がってあげてください」

 言葉を発することも出来ないほど得体のしれない恐怖で固まった兄に変わり、ゼノンが凶悪な笑みを浮かべて言った。

「き、貴様、私を売るつもりか!?」

「迷い人を奴隷として扱うあなたには丁度良い仕置きになるでしょう?」

 その言葉に反応したのはユゼリウスだけではなかった。フェルディが僅かに顔をあげ、そして低い声でガルテリオに言う。

「ガルテリオ、甲板掃除は免除する。たっぷり可愛がってやれ。小型船を残しておいてやるから、お前はあとで合流していいよ」

「ああんフェルディっ、あたし感激よ! わかったわ、たっぷり可愛がってあげるわね、オ・ニ・イ・サ・マ!」

 変態が奇声を上げて死刑宣告した。

 ゼノンがその隙に部下を連れて駆け出す。

「では兄上、二度とお会いするつもりはありませんので、達者で」

「え、ぜ、ゼベリウス! まて、兄を見捨てていくつもりか、お前にあれほどの美女を用意してやったこの兄を!」

「はい。サヨウナラ」

 部下たちが揃って「鬼だこの人」と呟いたが聞こえないふりをした。


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