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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
123/203

似てるけど違うからムカつくことってあるよね

煙がもうもうと空へ向かっていく。焦げ臭いそれは、呆然と見上げる人々をあざ笑うかのように高く天へ。

「いやー。よく燃えましたね」

「少し爆薬が足りないのではないか?」

「いやいや。あんた、わかってます? 一歩間違ったら死んでたんですよ?」

「俺だけは生き残るから平気だ」

「相変わらずの鬼畜っぷり。ぱねーっす」

 男たちはそろって兵士の恰好をしていた。ゼノンはわずらわしそうに防具を草むらの中に脱ぎ捨て、木綿のシャツとズボンだけの恰好になる。すぐに黒いローブを羽織った。

「その、見るからに暑苦しい恰好。よくお似合いです」

「お前は後で覚えていろ」

 軽口をたたき合いながらも二人は素早い動きで屋敷を抜け出す。今は誰もが慌てた様子で右往左往しており、怪しげな二人も目に入らないようだ。

「このままちょっと馬で走ります」

「どこまでだ」

「とりあえず海まで」

 ゼノンがとたん嫌そうに顔を歪めた。

「お前の再就職先とやらに心当たりが出てきたが、俺の気のせいか」

「うはは」

 適当な態度で誤魔化すと、男は事前に屋敷から盗んでおいた馬にまたがった。

「ご無沙汰しております。隊長」

「ご無事で何よりです、隊長」

「ああ。苦労をかける」

 見慣れた顔の男たちが馬の背から声をかけてきた。死に別れたはずの部下たちだ。

「生き残ったのは俺たちだけです。さ、行きますよ。挨拶は後だ」

「頼む」

 男たちは揃って走り出した。馬はよく躾けられており彼らのいうことを聞いて全速力で駆けていく。二時間ほど休憩も取らずに走ったため、最後の方は速度が落ちたが、それでも彼らの活躍のおかげで、予定よりも早く目的地についたようだった。

 予定外はここからだ。目の前に続く海までの一本道に、見慣れた顔が不機嫌全開で仁王立ちしていた。

「いやんな予感」

「隊長、囲まれました」

「さすが隊長の兄君。兄弟そろって恐ろしい!」

 潮風が頬を撫でる。波の音はもう目の前だ。しかし道は兄に塞がれてしまった。

「花嫁殿をどうした」

「・・・知らん。途中で手を離したからな。だいたい、俺の花嫁ではない」

「毎夜可愛がっていただろう」

「いや。俺の好みじゃないから手は出していない」

 兄はイラついた様子で、それでも冷静に務めた。

 部下たちは二人の会話を聞いて、驚いた様に目を見開いた。

「隊長、あんな美人を前にして手を出さないなんて・・・実は不能なんですか?」

「前の隊長だったら据え膳はきっちり頂いていたのに、この一年ちょっとで何があったんですか!?」

「黙れ貴様ら」

 今はそれどころではない。

だのに、

「あっちの国に行って隊長が不能になった!」

「なんてことだ。そりゃあ逃げ出したくもなる!」

「・・・本当に黙れ、貴様ら」

 兄を相手にするよりも部下を相手にするほうが疲れる日がこようとは。ゼノンは全身でため息をついた。

「ところで、どうして兄上がこちらに?」

「貴様のことをかぎまわっている商船がいたのでな。不審に思い調べに来た」

「商船? 海賊ではなく?」

「・・・貴様は海賊ともつるんでいるのか?」

 そうか、あの男が死んだから海賊をやめたのか。そんなふうにぼんやり考えていたら、少し離れた先に優しげな風貌の男が立っていた。目が合うと口元をほころばせる。

「見てないで武器ぐらい貸してください」

 少し大きく声をかけると、誰もがはじかれたように相手を見つめた。男は楽しげに眼を細め、わずかに首を傾げる。

「武器よりガルテリオを貸し出そうか?」

「殺しますよ」

「せっかく助けに来てあげたのに」

 男は音もなくゼノンたちに近づく。私兵の一人が剣に手を掛けて腰を落とした。一瞬後、ぱん、と弾けた音が響いた。いつの間にかピストルを構えたフェルディが、爽やかな笑顔を浮かべている。

 馬たちが驚いて暴れるが、落ち着いた様子で男たちはそれをなだめる。

「次は頭を打ちます。下手に動かないで」

 ごくりと、誰かの喉が嚥下した。

「さすが、もと海賊。腕は一人前ですね。でも手加減は無用です」

「何を言ってるんだ? そもそも僕には君を助ける理由が彼女以外ないんだ。とりあえず君が生きてさえいれば問題ないと思うんだよ。自分で切り抜けられるでしょ?」

「・・・色々ふっきれて性格が悪くなりましたか」

「あはは、おかしなことを言わないでくれ。もともとこういう性格だよ」

 眉間の皺を深く刻むゼノンを楽しげに見つめるフェルディ。部下も、兄たちも不審そうな顔で彼を見ていた。

「ところでその人、君のお兄さん? 性格が悪そうな顔がそっくりだね」

「お褒め頂き光栄ですが、非常に不愉快です」

「照れなくていいんだよ?」

「さすがあの変態を従えているだけのことはある。いい性格をしていますね」

「まあね」

 ゼノンが凶悪な笑みを浮かべると、何故か部下だった三人の男たちが一歩下がった。馬に乗ったまま器用なことだ。

「うちの連中なら朝飯前なのに、この国の男って案外役に立たないんだね」

「あなたのところの鍛え上げられた元軍人連中と、うちの一般兵の力の差は歴然です。阿呆ですか、一緒にしないでいただきたい」

 フェルディがくすりと笑う。

「へえ、なんだかこの国に興味がなくなっちゃったな」

 そんな物言いが彼女のように見えて、ゼノンがわずかに口を開き、そしてふっと息を吐き出した。

「見た目というのは、意外にも重要なものなのですね」

 ため息とともに呟かれた言葉に、誰もが頭上にクエッションマークを浮かべたのだった。

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