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麗しのプリーティア  作者: aー
第三章
104/203

さて行くか



「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「これで五度目ですよ」

「いやいや、老体は労わって貰わねば!」

「チェック」

「あああっ」

 ゼノンは初日に入れられた牢から別の牢に移された。文句も言わず黙ってついてくる彼の真面目さに、老人たちは心打たれた。

 新しい牢は簡易ベッドがあり、毛布もあった。足が伸ばせるだけでもありがたいのに、きちんと食事まで出してくれる老人に、ゼノンも首を傾げた。

 そして、暇を持て余す彼に、老人たちは順番でボードゲームを持ちかけた。

 別の老人が強引に出てきた。何名かが勝てないことに悔しがりながら牢を出て行く。

「くう! 次こそは・・・」

「ほっほ、若造には負けませんよ。次は私だ」

「・・・皆様、お勤めはよろしいのか」

「そんなものは後でも出来る!」

 本末転倒な言葉を聞いた気がしたが、老人たちの相手をすることは無駄ではない。今は無理やり離されてしまった百合の情報を、彼らはポツポツと話してくれるのだ。

 本来悪さをするような人物ではないのだろう。海賊の食事を運んだり、お勤めを頑張ったりと、彼女を知らない人間から見れば完璧なプリーティアの姿を見せているらしい。

 海賊の相手をさせていることには腹に据えかねたが無事が知れてよかった。

「そういえば、彼女が相手をしている海賊とは、どんな海賊なのですか?」

 スッと指先を動かし駒を進める。ボードゲームは世界共通の娯楽であり、ゼノンも教養としてルールは知っていた。

 64のマス目を使い、馬や王の形をもった駒を進めるゲームは、ルールさえ知っていれば誰でも楽しめる。たいていは木盤を使うのだが、神殿には木盤がなく、代わりに布を使っていた。駒もどうやら手づくりのようだ。

 本来神殿は賭け事を禁じているので、どうしても遊びたかった誰かが手ずから用意したのだろう。

「ふむ? んん、そうだの・・・海賊には見えぬ品があった。若いのにしっかりしておる。線は細いが、ちゃんと肉もついておった。剣の腕もありぞうだ」

「何故捕えることが出来たのですか?」

「街に居ったからの。どうやら旅人を装ったようじゃ。対して抵抗は受けなんだ」

 線を引いた布の上を駒が移動するたびに、老人たちの顔色が曇っていく。

 現在ゼノンは二人の老人の相手を一人でこなしている。眉間にしわを寄せて一生懸命考える相手は、予想外の展開に弱い。簡単に話を聞き出せた。

「名は?」

「ふむ。確かの・・・・・・・フェル・・・なんとかじゃ」

 聞き覚えのあるそれに、ゼノンの眉間にも皺が寄った。

「そなたとともにやってきたプリーティアはよく働く。あれは迷い人だろうに、文句も言わず健気だ」

 ゼノンの様子に気付かない老人たちは目線を下げたままだ。

「しかしのう・・・」

「どうしました?」

「あの海賊、プリーティアに惚れておるぞ。まあ無体は出来んが・・・良いものかのう・・・うう、強い」

「・・・そうですか」

「そなた、逃げるなら早いうちにしなさい」

「どうして逃げるのですか?」

 初めて老人がそろって顔を上げた。呆れたようにゼノンを見ている。

「もうじき、恐ろしい化け物がくる。そなたはあのプリーティアを守りたいのだろう? ちなみ探し人はこの下の階におるぞ」

 教えてやったのだから手を抜け。そう言って老人はまた視線を落とした。

「手を抜くのは相手に失礼ですので、常に全力で勝たせて頂きます。チェックメイト」

「あああっ! くそう、次は絶対に勝からの!」

「はい、お待ちしております」

「ううう。老体を労われ」

 ぼやきながら、老人たちは出て行った。その時、一人が何かを落とした。木板のようだった。

「さてと、勤めを果たしに行くか」

「そうですな。しばらくは勤めましょうかの」

 ほっほっほ、と楽しげに笑うと、彼らは振り返ることなく姿を消した。

 ゼノンは気配が遠ざかったのを感じ、そっと音もなく立ち上がると駒と布を適当に片付け、落とされた何かを拾った。

 不思議な形をした木の板は、ゼノンの掌よりも少し大きい。いくつかの突起がついており、何かの鍵に見えた。

 探し人はこの下。会いたい人は多分、上だ。

 さて選択肢は二つありそうで一つもない。ゼノンは鍵を“かけ忘れられた”扉から堂々と外に出た。




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