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アイス・グレイステイン

 罰として読まされたはいいが、単語が耳慣れていないせいで棒読みになってしまったのはご愛嬌。

 必死に想像力を働かせながら授業を受け、やっとこさ休み時間に入ったところで。


 早速あの水色っぽい髪の気の強そうな女の子がこちらにやってくる。

 うわぁ、これ絶対に厄介なやつだよ関わりたくないなぁ。


 ダンッ、と目の前に整った顔の女の子が現れる。

 長いまつげに彩られた、黄金色の大きな瞳。

 肩から流れ落ちる薄い水色の髪。


 だがその見た目よりも、こちらに向けられる敵意のこもった視線に気圧されそうになる。


「貴様、どんな卑劣な手を使ってフィアナの『片翼』になった? 教えろ! 内容次第では貴様を私の氷結魔法で氷漬けにしたあと永久凍土に埋めてやる!」


 その水色の髪や氷魔法とかの言葉からくるイメージとは正反対の、烈火のごとき勢い。うんうん、元気なのはいいことだよな。


「別に何もしてないって。ただフィアナが憲兵から逃げてたときに加勢したってだけで。まあその加勢は上手くいかなかったけどな」

「憲兵から逃げていた、だと? フィアナ、それはどういうことだ?」


 俺の隣の席に座っているフィアナの方を、これまた問いつめるように見る。俺に向けるものよりかはよっぽどおだやかな視線だけどな。名前呼びしてるし親しそうな雰囲気もだしてるし知り合いなのかもしれない。


「ちょっと授業をサボって散歩したくなっただけです。あなたには関係のない話でしょう、グレイステインさん」


 あ、これ知り合いとか親しい人間に向ける種類の眼じゃないわ。このグレイスなんちゃらさんが勝手にフィアナのことを友達だとか思っちゃってるパターンだわたぶん。


「なっ、か、関係ならある! 私はフィアナの幼なじみだし、本来は『片翼』になるはずだった……」


 なんだ、やっぱり知り合いなんじゃないか。これでこの子が怒っている理由がわかったわけだが、フィアナのこの子に対する態度が気になる。


「それは小さいころの話でしょう? 今のわたしやあなたには関係のないことなんです。昔と同じように話しかけるのはもうやめてください」

「……! どうして、そんなに拒絶するんだ。私のみならず、他の生徒まで。そして、なぜその男は、フィアナと普通に会話し、あれほどつくらないと言っていた『片翼』に選ばれたのだ! 私には、わからないよ。どうか、理由を教えてくれないだろうか? 私が何かしたというなら、謝らせて欲しい」


 さっきまでの威勢はどこへやら、すっかりしおらしくなってしまっている。

 フィアナはというと、この子から目をそらし、苦しそうに、悔しそうに、唇を噛みしめている。


 客観的に見てみても、一筋縄じゃいかないことがわかる。


 このグレイステインという子は、よっぽどフィアナのことが好きなのだろう。なぜかフィアナを避けている他のクラスメートの奇異の視線などものともせず、こうやって自分の想いを素直にぶつけられるのだから。


 対してフィアナは、何か言えない事情でもあるのか、すっかり自分の殻に閉じこもっているように見える。さきほどの表情から、やりとりから、この2人が昔仲がよかったことがわかる。その友達からこれだけストレートに言葉をぶつけられても突き破ることのできない殻。


 この光景を見ていると、嫌が応にも自分と重なる。


 元の世界で死んだように過ごしていた2年間。その間に唯一俺にしつこく話しかけてきた人物のことを思い出す。


 なぜあれほどに他人というものを拒んできたのか。


 それは俺が「他人」とは決定的に違ってて。自分と関わるとその人が不幸になる、なんてかたくなに考えていて。


 そして、失うことに、おびえてる。


 フィアナも、そうなのだろうか。大切だからこそ、遠ざけようとしているのだろうか。

 ……考えすぎかもしれない。そもそも俺とフィアナじゃ状況がまるで違うだろうしな。


「……いえ、あなたは悪くありません。わたしはただ、周りの人とは関わりたくないだけなんです。それと、クロトを選んだ理由は、ちょっと話せないです。すみません」


 あれ、俺を『片翼』に選んだことに深い理由なんてあったっけ。単に話したくないだけか。


「結局、何も話してくれないのだな。やはり、あの任務のせい……」

「だとしたらどうだっていうんですか。変えられないでしょう、わたしも、あなたも。国王の決定に逆らえるはずもない」

「そう、だが」

「もういいでしょう。これ以上話しても無意味です。そろそろチャイムが鳴りますし、ご自分の席に戻られた方がいいのではありませんか?」

「ぐ、私は諦めない。諦めないぞ、フィアナ」


 いくぶん肩を落とし、へこんでいるかのように見えた彼女はフィアナにそう言い放ったのち、再びこちらを向いて、鋭い瞳でこう言った。


「私の名前は、アイス・グレイステインだ。よく覚えておけ、フィアナの『片翼』よ」


 美味しそうな名前だなと思った。それはさておき、さっき重要な単語がでたぞ。国王から命じられた、任務。機を見て聞いてみたいとは思うが、簡単に話してくれるだろうか。


「自己紹介のときも言ったが、改めて。俺は神坂クロトだ。よろしく頼む」

「よろしくするつもりはない」

「そうか。まあ俺も実を言うとお前とはよろしくできないと思ってたんだ」

「フン。どこまでも憎たらしいやつだ。もし手合わせするようなことがあれば私の魔法でもってたたきつぶしてくれる」

「そりゃ楽しみだな。アイスクリームさんが泣きべそかく姿が目に浮かぶぜ」

「それは聞き捨てならんな。なんなら今すぐでもいいのだぞ?」

「上等だ」


 キーンコーンカーンコーン。


「お2人とも、次の授業がはじまりますよ。早く席についてください」

「「……はい」」


 フィアナのその言葉にただうなずくしかない俺たちであった。


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