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王立グロリアス学園

 さて、あれから数時間たったわけだが。


 俺は、なぜか王立グロリアス学園とかいう教育機関の制服を着せられていた。

 鏡に映った自分の姿を確認する。


 ……似合ってねえ。今まで地味~な色合いの服しか着てこなかったせいか、白系のブレザーに違和感しかない。

 着替えたら学園長室に来いとのことなので、木製のシックなデザインのドアを開け、廊下にでる。


 柔らかな赤い絨毯のおかげで歩きやすい。

 精緻な彫刻が随所に見られるのはさすが王立といったところか。

 2階の窓からグラウンドを見下ろす。


 そこでは生徒たちによる超能力カタストロフとは違う何か不思議な力を使った模擬戦闘が行われていた。


 推測するに、ここはあの不思議な力を使える者の学び舎なのだろう。

 なんなのだろう、あれは。俺がいた世界のものとは異なる、力

 わからないことだらけだ。だからこそもっと知りたい。


 品のある廊下を歩きながら、ここに来た経緯を思い出す。といってもそんな多くないけど。

 あのときフィアナに『片翼』とかいう何やらよくわからないものに任命された結果、拘束が解かれた。


 質問ぜめにしてやろうかと思ったのだが、フィアナとリーダー格の男がごちゃごちゃ話していたため黙っているしかなかった。

 話の内容から、あの追っ手たちはフィアナを本来いるべき場所に連れ戻そうとしただけだということがわかった。それにしては派手に能力をぶつけ合ってたが、この世界ではそれが普通なのだろうか。


 その後あの連中に取り囲まれながらこの学園へと移動したわけだ。

 フィアナも学園長室にいるらしいし、行けばあの力のこととか『片翼』が何かとかわかるだろう。

 自分が異世界人であることは伏せておこう。面倒だしどうせ信じてももらえないだろうから。


 超能力カタストロフについてもごまかしておいた。リーダー格に、その力はなんなのだと聞かれたから、お前らと一緒のだよと答えた。能力発動時間の短さについても触れられたが、何より物質具現化能力など見たことも聞いたこともなかったらしい。


 注意深く生徒たちの戦い方を見ながら歩いていたら、あっという間に学園長室についた。


 扉を前にして、改めて自分自身に問う。


 きっとこの扉を開けたら、関わらざるを得なくなる。引き返せなくなる気がする。


 今なら間に合うぞ。ここを抜け出して、別の生き方を探すことだってできる。


 ――俺は、さして深く考えることもなく、ドアノブに手をかけた。


 今更だった、そんな問い。


 フィアナに助太刀すると決めたあの瞬間に、答えはでていた。

 幸か不幸かあの子の『片翼』とやらに任命されちまったしな。

 ガチャリと金属音をならしながら、特別大きい扉を開ける。


「いらっしゃ~い☆ 私は王立グロリアス学園の学園長、マジカル少女エレーヌちゃんだよ~☆」

「すみません部屋を間違えました失礼します」


 すかさず扉を閉める。学園長とかいう単語が聞こえたが気のせいだろう。


「ちょっと待ってよ~間違ってなんかないよここが学園長室だよ~」


 な、なんだこのバカ力は! 小学生かと見間違うほどの見た目なのに!


「なんなんだあんたは! どう見てもお子様じゃないか! さあ、学園長ゴッコなんてもういいからホンモノはどこにいるんだ!」


 ブチン。

 扉越しに聞こえる血管が切れる音。こんな見事なのはじめてかも。


「……言ってはならないことを言ったね。こここのボクのことを、いいいいうに事欠いてお子様だなんて! なんて! ボクはとっくに成人済みだしまぎれもなくここの学園長だああああ!」


 扉の隙間からカッと光がもれたかと思ったら、次の瞬間には宙を舞っていた。

 廊下の窓をぶち割り、模擬戦闘中のグラウンドに落ちる。


 2人の生徒が同時に攻撃を放った、最悪のタイミングで。


 あーやべぇわこれ。


「『疾雷しつらい』、『紫電しでん』」


 右からくる氷のつぶては、光力で生成したクナイで粉砕し、左からくる火の玉は、これまた光力で生成した刀で斬り裂く。


 ふぅ、危ない危ない。光力オラクルがこっちの世界の力にどの程度通用するかわからないから、1つ1つの戦闘が賭けの連続だ。


「くっそ、いきなりこんな目にあわせやがって、あの学園長……!」


 服の汚れをパンパンと落としていると、妙な視線を感じた。

 周りを見回すと、皆一様にポカーンとした顔をしている。


「き、君は一体」


 教官らしき人がそうつぶやく。


「授業? の邪魔をしてすまなかった。すぐ行くから勘弁してくれ」


 靴に光力を流して加速しながら校舎の壁を駆けのぼり、学園長室の前に戻る。

 グラウンドを見下ろすと、まだこっちの方を見ながら固まっている。

 悪いことをしたかな。まあこれも学園長のせいなんだけども。

 なぜか直っている扉を、もう1度開く。


「いらっしゃ~い☆ 私は王立グロリアス学園の学園長、マジカル少女エレーヌちゃんだよ~☆」


 どうやら、さっきまでのことはなかったことにしてくれるらしい。大人だなぁさすが学園長サマだなぁ。


「……だからなんなんだよそれイタイんだよこのロリババア」

「ん~、何か言ったかなあこの常識知らずのクソガキく~ん?」

「ああ?」

「いや~んこわ~いエレーヌちゃん困っちゃう~ん」


 会話したくない。もうこの人と言葉のキャッチボールしたくない。

 お互いにらみ合っていると、この部屋にいるもう1人の人物が口を開いた。


 ん? もう1人?

 全く気付かなかった。

 嘘だろ。気配察知には特に自信があったのに。


「少年、いい加減にしろ。学園長も大人げないことをしないでください」


 きっちりした服装に、鋭い表情。見た目は20代前半の女性だが、まとっている雰囲気は熟年のそれだ。


「あんた、何者だ」

「まずはその口の利き方をどうにかしろ。次からは厳重注意、それでもなおらなかったら処罰だ。今回は特別に質問に答えてやる。私はクロリア・アンジェ。この学園の副学園長をしている」

「そういう意味じゃない。クロリアさん、あんた裏の仕事してただろ。そっちの界隈じゃかなり有名なはずだ」

「だから口の利き方に気を付けろと言っている。それと変な勘繰りはしないことだな。私はただの副学園長、学園長の補佐役だ」


 そんなはずはない。気配の消し方といい無駄のない立ち居振る舞い、間違いなくそっちの筋の人間だ。

 しかしもう俺の質問には答えるつもりがないようなので、これ以上追求はしない。


 こんな人間が副学園長なんて、この学園はどうなっているんだ。

 いや、待て。じゃあこのロリ学園長は、それ以上だということか?


「さすがクロリアちゃん頼りになるぅ」

「学園長、その呼び方はやめてください」

「いいじゃーんこの学園で一番偉いのはボクなんだしー」

「この学園の未来が心配です」

「なんだとう! それは聞き捨てならないよクロリアちゃん!」


 うーん、とても強そうには見えないんだけどなぁ。でもさっきの怪力は凄まじかったし、見た目なんてアテにならないし。

 ほら、これがいいんだろうと言わんばかりの、狙ってやっているとしか思えないツインテール。愛らしい顔だがいかんせん小学生にしか見えない。


「学園長、そろそろ本題に入りましょう」

「そだねー。おい、そこのクソガキ、じゃなかった、君」


 もう怒る気力もないため、黙って続く言葉を待つ。


「経緯を話すと長くなるからまず結論から言うと、君にはこの学園に入学してもらうことになった」


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