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片翼

 短剣が輝くと同時に地面が隆起し、それは地の柱となって前方にいる追っ手に襲い掛かる。


「これは、超能力カタストロフか?」


 まさか異世界にも発現している人間がいたなんて。


「カタストロフ? 何のことですか? それよりも今のうちに早く逃げましょう!」

「追っ手を迎え撃つんじゃないのか?」

「人を殺したくはありません。致命傷を与えず逃走します」

「そんな甘いことを言っていたら逃げられないぞ。殺すのが嫌なら俺がやる」

「それだけは! それだけは、やめてください。わたしのせいで人が死ぬのは、もう、耐えられないんです」


 強い意志のこもった瞳だ。それに、鬼気迫るものがある。


「……自分から加勢しておいて勝手なことを言ってすまない。わかった。誰一人殺さず戦って離脱を図ろう」

「こちらこそ、すみません。せっかく善意で助力をいただいているというのに……。さきほども同じ質問をしたのですが、どうしてわたしのために」

「その話は逃げ終わったあとにしよう」


 ――そして、冒頭の部分につながるのであった。


 状況は最悪だ。


 結局、あの女の子は捕まってしまった。俺の、力不足で。


 多人数戦闘のイロハも学んではきていたが、それは一般兵、または超能力カタストロフを想定した場合のみだ。


 さっきから追っ手たちの戦闘を見てきたが、あれはおそらく俺の世界の人間が発現していた超能力ではない。似てはいるが、別物だろう。

 こちらの世界では、どうやら能力を使うために何かしらの武器、道具が関わっているようだった。


 女の子も能力を放つ際、短剣を握りしめていたように、追っ手たちも剣、ハンマー、古銃、槍などを手に、少しのタメ時間を経て炎や氷の塊を放ち、そのときに手にしているものが光っていたため、そう判断した。


 超能力カタストロフはそういったものは必要なく、己の中に存在する光力オラクルを練り上げることによって能力を放つ。道具やタメ時間といったものは必要ない。


 こう並べると超能力の方が優れているように見えるが、もう1つ、違いがある。それは能力の規模だ。


 俺のいた世界にも物質具現化能力以外に、炎や氷、電気、果ては重力なんかも操る能力者はいた。しかしこちらの世界の能力ほど強大ではない。火球だけで比べてみても2倍以上の差がある。


 まとめると、こちらの世界の能力者は、能力を使うために道具やタメ時間が必要だが、そのぶん大きな力を振るうことができる、ということだ。

 ワイバーンらしきものを目撃したこと、見たこともない植物を発見したこと以上に、ここが異世界なのだという確信が得られた。


 しかし、その違いにより動揺したせいで、不覚をとった。単純に数の力で負けているというのもあるが。


 それに、やはり殺さず戦うという制約が大きかった。手加減することが、殺さずに戦うということが、こんなにも難しいことだとは。


 なおも増え続ける追っ手たちにどう対応するか考える。

 手にしている道具を狙うか、足を狙って動けなくするか。


 なんで俺はこんなことをしているんだ、という心の声は無視した。


 こっちの世界では自由に生きる。自分の行動を選択できるんだから、気まぐれで動いたっていいじゃないか。


 そんな風に浮かれていたのが悪かった。


 そう、俺は浮かれていた。ここ2年ほど感じていなかった感覚に、知らず知らずのうちに支配されていた。


 だから、逆方向から現れた増援と挟み撃ちされて、あっさり捕まってしまった。

 くそ、メンタルトレーニングはそれなりに積んできたつもりだったのに。

 こんなざまじゃ、かつての教官に笑われちまう。


 追っ手たちに指示をだしていたリーダー格の男が、捕らえられた俺たちに話しかける。


「手こずらせやがって……フィアナ様もこんなしもべを隠し持っておられたとは」

「その者はしもべなどではありません。ただの一般人です。ゆえに、巻き込んではならない。その者を今すぐ解放してあげてくれませんか?」

「ご冗談を。仮に本当に一般人だとしても、我らの兵がそいつに襲われたのは変えようのない事実。国から認可を受けている我らにたてついたという意味、わからないとは言わせません」

「で、ですが!」


 ふむ。どうやら俺以外はみんな知り合いっぽいな。リーダーの男も女の子もお互いに丁寧な口調だが、女の子の方が立場が上なのかもしれない。それもあくまで立場上の話で、実権は追っ手側が握ってるっぽいが。会話からの推測だから真偽のほどは確かではない。


 俺は静かに体内で光力オラクルを渦巻かせる。いつでも反撃できるように。


「この者は国家反逆罪を犯したも同然。厳罰が下されるでしょう。……おい、そこのお前、なぜこんなことをした」

「女の子が追われてたら助けるもんだろ?」


 わき腹に蹴りがはいる。

 い、たくはないな。でもこいつのメンツを保つためにちょっと痛がっておくか。


「戯れ言はいい。目的を話せ。フィアナ様に依頼されたのか? それとも別のクライアントから我らの邪魔をするよう指示されたのか? ん?」

「だから、本当なんだって。そこの女の子に頼まれたわけじゃないし、誰かに雇われたわけでもない。お前らのことなんてなーんにも知らないし。言うなればただの気まぐれだ」


 頭に小汚い靴底が降ってきた。これは地味に痛いしちょっとムカつく。

 こっちのことを知るために大人しく捕まってはいるが、そろそろ隙をついて反撃に転じようか。

 と、そんなことを考えていたとき、フィアナとかいう女の子からこの状況を変える衝撃的な一言が発せられた。いや、このときは意味わからなかったんだけどね。


「――その者への無礼は許しません。今ここで第5位特務権限により、その者をわたしの『片翼』に任命します」


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