演習開始
フィアナのことが少しだけわかったような、さらにわからなくなったような。
まあお弁当は美味しかったし、良い昼休みだった。
午後は2コマ分ともペアを組んでの演習。午前中にチラッとだけ見たが、おそらくグラウンドでドンパチやり合うのだろう。
俺がいた世界では特殊な力のことを超能力と呼ぶが、こちらの世界では魔法と呼ぶそうだ。こちらの世界に来たばかりのときに憲兵とやり合い、その際に魔法を観察いくつか予想をたてたが、だいたい当たっていた。
まず魔法の源、すなわち魔力について。
超能力に比べ発動が遅い理由は、この惑星の大地に存在する竜脈から魔力を身体の中に取り込み、詠唱しつつ放つからだそうだ。その魔力を身体に取り込むのに必要なのが魔法顕現器で、ランクの高いアークは魔力を取り込む量も早さも段違いらしい。その取り込んだ魔力を詠唱によって魔法に作り上げ、放つ。
魔法の威力は本人の魔法親和性、アークのランク、竜脈の強さによって決定する。こう言うと本人の資質とアークによって強さが決まってしまう、と思いがちだが、それは違うらしい。魔法は使えば使いこむほど魔法親和性は高まり、何度も詠唱し身体の中の回路を広げていけば魔法を組み上げる速度もあがる。
だが、中途半端じゃない、頂点に近い強さをもつ者たちは、例外なくそのセンス、資質、才能とやらを持ち合わせてる。残酷なもんだよ全く。努力が必要なのは変わらないんだけども。
頭の中で魔法について復習しつつ、自分たちの演習の番を待つ。
服装は制服のままだ。なんでもいついかなるときも戦闘を行えるようにするための訓練も兼ねているらしい。
「クロト、作戦はどうしましょう」
「俺は単独の方が動きやすい。1対1にもちこむ作戦はどうだ?」
「わかりました。では、わたしはデュラン、あのこげ茶の髪の人をひきつけておきます。クロトはもう一方のドロシー、金髪の人をお願いします」
「了解」
前の組が終わり、いよいよ俺たちの番が回ってきた。
砂ぼこりがもうもうと舞う中で、演習相手と向かい合う。地面が黒く染まっている部分があるのは、血を吸い込んでいる証だ。
何組かの戦闘を見てきたが、お互い遠慮などなく本気で殺り合っていた。
致命傷を負いそうな危ない場面では教官が絶妙なタイミングで止めに入るが、それ以外は静観しているだけだ。小さな切り傷、骨折は当たり前。ほとんどの生徒が演習後に保健室に運ばれているし、この学校は本気で兵士を育てようとしているのがわかる。
ったく、これじゃ元いた世界と同じじゃないか。結局こういう場所から逃れられない運命なのか。
……いや、違う。これは、自分が選んだことだ。こういう血なまぐさいのには慣れてるじゃないか。
身体をほぐしていると演習担当の教師(おっとり系の美人だが顔色がとても悪く今にも倒れそう。なのに止めに入るときはめちゃくちゃ機敏)に声をかけられた。
「カミサカ君、今日は転校初日だけど、自分のアークは持ってる? なければこの学園のものを貸し出すけど」
今アークを渡されても使えないだろうし、紅樹にもらったこの靴をアークってことにしておこう。
「この靴がアークだから問題ない。それより早く演習をはじめたいんだが」
「ならよかったです。しかし、靴型のアークですか。聞いたことありませんね……。あ、それと先生には敬語を」
教師が何か言っているが聞き流し、体内で光力を練りはじめる。
先手必勝。シンプルだが有効な手だ。開始と同時に牽制、フェイントを交えて攻撃を行う。
「うぅ、これはとんだ問題児さんが転入してきましたね……。これで実力がともなっていなければキツーイおしおきですよ……。では、双方準備もととのったようですし、はじめましょうか」
ピリピリとした空気が漂う。精神が研ぎ澄まされ、体内で渦巻いているエネルギーの塊が今か今かと待ちわびている。
「戦闘、開始!」