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(終)

——自己の内側の幻想的世界に対してさえ、ある醒めた距離を保たざるを得ない作家の姿がそこにある。——

(「流れのある風景」『アリス狩り』高山宏)



(終)


 

「なるほど」デューセンバーグはうなずいた。「あなたも、<読書卿>と同じく、『作家という人種は、本を書くことに時間を奪われて本を読むことができない可哀想な存在』だとお考えですかな?」

「あの人の考えには、賛同できる部分がある。さすがに<驚異の部屋>の魔人、<越卿(えっきょう)>の一人だ、余人には届かない域で考えられ、しかも全てを人工知能プログラムに託すことで、既にその考えからさえ解き放たれている。僕には及びもつかないよ。確かに、書くことから解放されれば、人間はより自由に想像の世界に浸ることができる。だがね、それだけでいいのだろうか」

 <可哀想なチャーリー>はかすかに眉をひそめたように見えた。この青年——といっても年齢不詳なところがあるが——は、狂っているわけでも、絶望しているわけでもない。敢えていうなら、「真剣に憂いている」のだろう。デューセンバーグにとっては、よく見知った観念だった。<驚異の部屋>でもまだまともな部類に入る者達と同じく、「卓越した能力」のあまりに、世の中のどこかに激しく憂いており、それを何とかして改善しなければならないのではないか、と考えてしまうだけなのだ。<読書卿>の域まで達していれば、一時の憂いは瞬く間に消え去る。もっとも、その一時の憂いとやらが残していく遺産は甚大な影響を——概ね被害を——及ぼしていくのだが。

「私は物を書く人種ではありませんから、<読書卿>やあなたの考えがそもそも理解できませんが、本を読むことで人が現実から離れ、己の魂を癒すことができるのであれば、それでいいのではありませんか?」

「ミスター・デューセンバーグ。僕はこう思っている。今の人々は、現実を離れる術をあふれるほどたくさん持っている。その中で、書物の持つそうした価値は失われ、人間は書物に背を向け始めている。書き手も、そして読み手もまた、そのことを非常に憂いている。しかし、現実に書物が、特に物語が人間から見放されるのはそれほど遠い時代のことではないだろう」

「それはまた極論ですな」

「そうよ!書き手の業も、読み手の業も、あんたが考えているような軽々しいものではないわ!」アリスは叫んで、デューセンバーグの脚を蹴った。「本を読むことで、人間は何十倍もの人生を生きることもできるのよ!」

「そう、本を、物語を擁護する人々はみなそう言うね。だが、それは、本が特別だという思い上がりではないかな? いや、実際にある時期まで、本は特別なものだったし、現代でもある地域では特別なものだ。君たちは忘れている、真に読書というものが人々の手に渡されたのは、近代国家になってから、この二百年程度のことでしかない。

 産業革命による安価な印刷技術の流布、第一種産業からの脱却による恒常的な労働と余暇の発生、主として労働現場や軍隊におけるシステム伝達のための識字率の上昇……大衆の読み物などその副産物でしかない。西洋では、聖書をラテン語から翻訳することすら遅れていた。何故だろうね? 大衆に読まれては困るからだろう?神の考えは教会から伝えられるもので、一人一人が読み解くものではない、そんなものは異端の発想だ。どこかの国では、識字率を上げるための文字の簡素化に反対していた勢力がいたようだね? 権力者にとって、大衆が文字を手に入れることが、よほど恐ろしいものだったらしい。

 人間が文字を手にしたときから、全ての人間が物語を読んでいたような錯覚に陥る人々がいるが、そんなはずがないだろう? ついこの間まで、『本を読む』などという娯楽は、この世界にはほんのわずかしか存在しなかったんだ。だからね、『物語を読んで、想像の翼を広げる』ことを何かとても貴重なもののように考えているようだが」<可哀想なチャーリー>は首を振った。「そんな妄想は、ただの選民思想に過ぎない」

「……あんた、それ、本気なの?」

 アリスの声が怒りに震えた。<図書館>は良かれ悪しかれ、本という物に執着している、あるいは「愛している」者達の集まりだ。それが「本そのもの」なのか、「本を作り上げる全ての要素に対して」なのか、見解の相違はあるが、少なくとも「物語」の存在を否定する者はいないだろう。

「それではあなたは、本そのものがこの世界には必要ない、と?」デューセンバーグは訊ねた。「だから、本を読むことも、本を書くことも、この世界から奪うのだ、と? しかし、それはナンセンスが過ぎるのではありませんか? 本などなくとも、文章を読む手段はいくらでもあります。PC、タブレット端末、スマートフォン、本という紙媒体が、そうしたデジタルメディアにとって変わるだけで、『本を読む』ことができなくなるわけではない」

「ナンセンス!」<可哀想なチャーリー>は叫んだ。「そう、ナンセンスだ! 世界から物語を奪うなんて! だが、デジタルコンテンツは<モノ>ではない、ただのコンテンツだ。そんなものを奪うことなんて、本を奪うことより容易いじゃないか。わずか数百バイトのデータの塊が、ウィルスとなってデータを破壊する。たったそれだけでいいんだ。ウィルスの暗号を作り出せる<Vタイプ>を持ってすれば、コンピュータ言語を支配することくらい容易いと思わないか?」

「なるほど、あんたがイカれているのがよくわかったわ。でも、だったら<魔書>を生み出す必要なんてどこにもないじゃない」

「ああ……アリス。君ならきっとわかるんじゃないかと思うんだ。ルイス・キャロルの絶望はなんだったのか、それは、物語を終えてしまったら、人は誰でも、退屈極まりない現実の世界に戻らなければならない、ということだ」

「当たり前じゃない。人間は現実からは逃れられないのよ」

「であれば、『書かれた物語』に何の意味があるんだい? 『本を読む』ことで得られる『空想の世界』が存在する必要性はどこにあるんだい? よく考えてみるといい、音楽も、お芝居も、本来の意味での物語——口承伝承も、人間が人間になったときから存在していたはずだ。それらは非常に古い芸術であり娯楽であり、『空想の世界』を作り上げてきた。『空想の世界』は何も、『書かれた物語』だけの特権じゃないんだ。だったら人間は、もっとそれを取り戻すべきだとは思わないかい? その芸術達は性質上、一人では『空想の世界』を作り出すことはできない。『孤独』ではいけないんだ。必要以上に孤独を恐れ、誰かとつながっていると信じなければ立っていることさえできない人々に、『作り手も、書き手も孤独である』ことを強いる『書かれた物語』なんて、何の意味があるんだい?そこにあるのは、『孤独か、退屈な現実か』、だ」

 詭弁だ。デューセンバーグは思った。「孤独」と「退屈な現実」を対比させることがまず詭弁だし、それは人間の本質であって読書や芸術とは関係がない。しかし、詭弁だけに、一理あるように聞こえるのが厄介なところか。

「とはいえ、読書を偏愛する人々もいることは知っている。そんな彼らの願いを叶えるために、<魔書>を、完全なる<魔書>を作り上げようと思っているんだよ」

「だから、何のためによ?」

「L'Ultima Cena」

「はぁ?」アリスは噛み付くように言った。「何それ、イタリア語?」

「<最後の晩餐>、ですな」

 デューセンバーグが答えると、アリスはまたその脚を蹴った。

「知ってるわよ!」

「そうですとも、ユア・ハイネス」

「あんたね……で、<最後の晩餐>が何なのよ?」

「例えば、この上なく素晴らしい小説に出会ったとしよう。恐らく、一生これを越える本に出会うことはないだろう、というものだ。さて、偏愛な読書家であればどう考えるだろう? できればこの感動が終わらなければいい、未来永劫この物語の世界に留まっていたい……そんな願いを叶えるための、<魔書>だ。<最後の読書>というわけだね」

「……読み終えた人間を殺す<魔書>、というわけね」

「この上ない幸せだろう? 君もそう思っているはずだ。今は亡き人間を、<本>として再生したいと願う君は、この退屈で無味乾燥な現実から逃げ出したいのだから」

「ふぅむ……」デューセンバーグは唸った。「一種の安楽死、というわけですな。全ての書き手から『書く』ことを奪い、全ての読み手から『読む』ことを奪う。この世界から『本』を奪い尽くし、最後に<魔書>だけが残る。本を読むことを渇望するものは、最後に<魔書>を求めることになる。なるほど、理想的ではありますな。また、不可能に挑んでいる、という点でも賞賛に値します。ですが、一つ疑問が」

 右手の、太い人差し指を一本立て、デューセンバーグは中折れ帽のつばを押し上げた。

「なんだい、ミスター・デューセンバーグ?」

「その<魔書>は誰が書くのですかな? <文学機関>が?」

「まさか。最後くらいは、血の通ったものを読みたいだろう。つまり、最後の<魔書>の書き手は……」

 たっぷり間を取ったあと、男は力を込めて言葉を吐き出した。

「……僕だよ」

 <可哀想なチャーリー>が、初めて嘲りの笑みを浮かべたのをデューセンバーグは見逃さなかった。鋭く息を吐き、熊の手のような手袋を外した。その右手の人差し指には、鈍く輝く、アルファベットを打刻された指輪がはめられていた。

「語るに落ちましたな、<可哀想なチャーリー>様」

「何だって?」

「人が孤独と抗うためには、まず孤独であることを知らなければなりません。孤独を埋めるものが連帯であるならば、孤独を知るものは内省です。そして、内省を促すものこそ、『本を読む』という行為に他ならない。孤独を知り、孤独に恐怖し、その孤独が実は空想の中でも現実の中でも同じなのだ、ということを思い知らなければ、人は孤独とともに生きることはできないのです。そして人は、この『退屈極まりない、無味乾燥な現実』から逃げ出すために『物語を求める』のではない。『退屈極まりない、無味乾燥な現実』に立ち向かうために『物語を求める』のです。多くの人々がそれを手にしたのは、確かに最近のことでしょう。だからこそ、この若き娯楽を、砕かせるわけには参りません。<驚異の部屋>の<越卿>の皆様方と同様、あなたのしようとしていることは、ただのおせっかいでしかない。迷惑ですから、やめていただきたいですな」

「見解の相違だね」

「そして、あなたのそのおせっかいの根元は、究極的には、『自分の書いたものを、多くの人に読んでほしい』というただの自己満足に過ぎない。それが叶わないことを知っているから、あなたは自分に言い訳をしながら、あなたを認めない世界に復讐をしようとされているだけだ」

 デューセンバーグの右手の指輪の内側から、銀色の鈍い光が放たれた。

 <可哀想なチャーリー>の足下で、今まで微動だにしなかった黒猫が、初めて小さく鳴いた。警戒か、威嚇か、そんな機能が備わっているとすればだが、そういった類いのものだろう。

「……なるほど、僕は自分のその欲求に目をつぶって、こんなことを始めた、と言うことか。大した精神分析だ」

「お褒めいただくまでもありません。どんな阿呆でも、そのくらいは見抜くでしょう」

「……君は、言葉が過ぎるようだね」<可哀想なチャーリー>が肩の高さに上げた掌に、黒猫が飛び乗った。「本を書く才能はないのに、こんな力ばかり授けられたものの絶望が、君に分かるというのかい?」

「正直、分かりませんし、分かりたくもありません。それこそ、見解の相違ですな。それに、本当のところ、私はあなたが何を望み、何をなそうと考えているのかなど、どうでもいいのです」

「ほう?」

「あなたは、私の女王(クィーン)の願いを侮辱した。ユア・ハイネスは、亡きあの方の幻想に浸るために、本を書きたいのではない。今を生き、明日を生き、この退屈極まりない現実で生きるために、亡きあの方との思い出を取り戻したいと願っているのだ。己と戦うこともなく、不可能だけを目指すあなたのような妄想家に侮辱される謂れは」デューセンバーグは右拳をきつく握りしめた。「断じて無い!」

「……デューセンバーグ」

「参ります、ユア・ハイネス」

「わかった」

 アリスはデューセンバーグの肩に手をかけると、軽々とその肩に飛び乗った。指輪から放たれる光はどんどん強くなっている。それに伴って、耳障りな悲鳴のような金属音が響き渡る。

「忘れていた、君も死書係だったね、ミスター・デューセンバーグ。それで君の<Vタイプ>はどんな名前なのかな?<バンダースナッチ>?<マーチヘア>?」

『私はアリスではありませんからな、そんな名前は必要ありません。しかし、あなたもよくご存知のはずですよ。お作を読む限り、それなりに造詣は深いようだ』

「僕が?」

『ええ。先ほども申し上げた通り、私などは露払いか、足蹴にされるぽんこつでしかありません。私の名は、デューセンバーグ』

「……あぁ」そのとき<可哀想なチャーリー>は、心底から驚いたような、楽しそうな笑みを浮かべた。「そうか、まだそんな暗合が残っていたか……」

 重くまばゆい光が巨漢の体を包み込み、悲鳴が渦を巻いて重なり合う。一瞬の突風の後に姿を現したものを、どう認識すればいいのか戸惑うだろう。半直線的な鎧のようなもので覆われたシルエットは人間のものから大きく外れていた。四つ足で獲物に襲いかかろうとする肉食獣によく似ており、しかし手の先、足の先には巨大なタイヤが取り付けられていた。全体としては規格外の大きさのバイクのようだが、非常に古い形の自動車にも見えた。運転席らしき部分はないが、肉食獣で言えば背中に当たる部分にアリスはまたがっていた。ハンドルに類するものもないので、彼女が操縦するというわけではなさそうだ。バイクのヘッドライトに当たる位置に、どうやら頭らしき部分があるらしい。全身はガラスの上から半透明な釉薬を何度も重ねたように美しく、内部から放たれる銀色の光をかすかに透過している。獣の右前脚の辺りに、一瞬文字が浮かぶ。


<Duesenberg the Silver Ghost>


『デューセンバーグ・ザ・シルヴァーゴーストです』

「なるほど、素晴らしい。確かに、女王の愛車だ」

 フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーが生み出した名探偵、エラリー・クィーン。作中で彼が乗る愛車の名前が<デューセンバーグ>。1920年代当時、レース車として名を馳せた高級車だった。

「<可哀想なチャーリー>、あなたが持っている<Vタイプ>、全て渡してもらうわよ」

「ふふふ……<文学機関>が成長するまでにはまだしばらく時間がかかる。ここで君たちと一戦交えて、万が一のことがあっては面白くないよね。だから今日のところは、お開きにしようじゃないか。ねぇ、<ポー>」

 <可哀想なチャーリー>の手の中の黒猫は、一際大きく鳴くと、彼の肩に駆け上がって鈍い光を放った。通奏低音と不協和の甲高い悲鳴のメロディ。鳥のようなその音が響くと、<可哀想なチャーリー>の体は闇に包まれ始めた。

『また会おう、可愛い(タイニィ)アリスと、その従者さん』

「ちょっと待ちなさい!」アリスは叫んだ。

『そうですよ!』デューセンバーグも叫んだ。『あなたの<チャーリー>の由来は何なんですか!』

「それそんなに大事なの?!」

『そうだねぇ……誰でもいいんじゃないかな。チャールズ・ダーウィンでも、チャールズ・バベッジでも、チャールズ・ライエルでも、チャーリー・チャップリンでも、チャールズ・マンソンでも、チャーリー・ブラウンでも』

『……そして、チャールズ・ドジソン(・・・・・・・・・・)、でも?』

『……そういうことさ』

 闇を纏った<可哀想なチャーリー>は、巨大な漆黒な翼を広げた。次の瞬間、疾風と悲鳴を残して、夜空に飛び立って行った。

「……ちっ!一日に二度も逃がすなんて」

 デューセンバーグから飛び降りたアリスは、歯嚙みしながら地団駄を踏んだ。<Vタイプ>を解除しながらデューセンバーグは、行儀の悪いことだと思ったが、口には出さなかった。

 元のコート姿に戻った巨漢は、何事もなかったように、道路に転がっている傘を拾い上げ、アリスの後ろに立った。タバコの箱とジッポーを大きな手に乗せて、アリスの目の前に差し出した。

「ふん」

 アリスは箱からタバコを一本取り出してくわえた。素早く巨漢はライターに火を灯す。

「デューセンバーグ」アリスはタバコに火をつけながら言った。「死書係が二人そろってこのざまじゃ、館長になんて言われるかわからないわよ」

「そうですな、ユア・ハイネス。しかし、ともかく、<魔書>は確保することができたのです。多くを望みすぎてはいけません」

「……それから、さっきの」

「はい?」

「私のことは何でもわかってる、みたいなこと言うのはやめなさいって何度も言ってるでしょう?」

「これは然り。肝に銘じておきます、ユア・ハイネス」

「……正直ね、ときどき思うの。私の願いも結局は、現実逃避でしかないんじゃないかって。ひょっとしたら私も、彼のように、自分で何かを書かなければいけないんじゃないかって。<Vタイプ>に頼るんじゃなくて、さ。偉そうにこき下ろしたけれど、少なくとも彼は、自分の血肉で<魔書>を書いたんだから」

 紫煙とともに弱音を吐き出したアリスを、デューセンバーグは愛しげに見下ろした。

「では、書いてみてはいかがですか?」

「……」

「それに、もし願うものが書けたとしても、我々は死書係です。これからも書かれるであろう本を、書き手のため、読み手のために守っていくことに変わりはありません」

「……それが、私たちの、退屈な現実か」

「ええ、そうです」

 しばらく夜空を見上げて、<可哀想なチャーリー>の刻んだ視えない軌跡を探すようにしていたアリスは、小さく顎を引くと、コートの裾を翻して敢然とした足取りで歩き始めた。遅れじとデューセンバーグもその後に続く。

 果たして、彼女の願いはかなうのだろうか。

 今はどこにもいない人の記憶、彼女の中に眠っている記憶を、<自動筆記>で全て本にする、という彼女の願いは。

 あるいは、<自動筆記>に頼ることなく、思い出を書き起こすことになるのだろうか。

 それはわからない。

 デューセンバーグにわかっていることは、その最後の瞬間まで、自分がアリスの側にいるだろう、ということだけ。今はどこにもいない人、彼女を愛し守ろうとした人の願いをかなえるために。

 アリスの夢が叶い、アリスが夢で見るしかない今はどこにもいない人の本を書き、その物語の中に溺れてしまうまで。

 そのとき、その物語は、誰の見る夢なのだろうか。

 アリスが物語を夢見ているのか。

 物語がアリスを夢見ているのか。

 それはわからない。

 その物語が書かれるまで。


※本作品(作品と呼べるのであれば)は全てフィクションであり、作者の妄想の産物である。東京都は新宿に「タイニィアリス」という小劇場が存在するが、当然その劇場と本作に登場する劇場には何の関係もない。もちろん劇場が解体される、ということもない。「劇団魔法九」という劇団も存在しない。引用に何らかの誤りがあれば、それは作者の責任であり、ひょっとすると意図的に改変されて引用されている可能性もある。



<後書き>

・本作が二部構成になっているのは、元々『タイニィ・アリスと不機嫌な密室』というネタを考えていたのに、全然ミステリ的なトリックが——7年くらい——思いつかなかったので、じゃあ不完全なミステリをそのままこき下ろす、という小説が書けないかと考えたから。自作小説の書評小説、ということをもくろんだ。その後にいろいろと改変していくうちに、中途半端なバトルものになって終了した。『少年ジャンプ』読み切りのようなイメージだと思っていただけるとありがたい。

なお、第一部は、「タイニィアリス」という劇場に捧げたものではなく、「演劇サムライナンバーナイン」という劇団に捧げたもの(残念ながら作者は舞台人ではないので、そこまで劇場に愛情はない)。


<引用・参考文献>

『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル、柳瀬尚紀訳、1987年、筑摩書房)

『ふしぎの国のアリス』(ルイス・キャロル、1988年、講談社インターナショナル)

『鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル、柳瀬尚紀訳、1988年、筑摩書房)

『鏡の国のアリス』(ルイス・キャロル、1993年、講談社インターナショナル)

『エラリー・クイーンの新冒険』(エラリー・クイーン、井上勇訳、1961年、東京創元社)

『アプルビイズ・エンド』(マイケル・イネス、鬼頭玲子訳、2005年、論創社)

『霧越邸殺人事件』(綾辻行人、1995年、新潮社)

『チャイナ・オレンジの秘密』(エラリイ・クイーン、1980年、早川書房)

『虹の家のアリス』(加納朋子、2005年、文藝春秋)

『暗黒のメルヘン』(「零人」大坪砂男、「ウコンレオラ」山本修雄、所収/澁澤龍彦編、1998年、河出書房新社)

『夜の来訪者』(プリーストリー、安藤貞雄訳、2007年、岩波書店)

『世界短編傑作集4』(「は茶め茶会の冒険」エラリー・クイーン所収/江戸川乱歩編、1961年、東京創元社)

『靴に棲む老婆』(エラリー・クイーン、井上勇訳、1959年、東京創元社)

『エジプト十字架の秘密』(エラリイ・クイーン、1978年、早川書房)

『天城一の密室犯罪学教程』(天城一、日下三蔵編、2004年、日本評論社)

『アリス狩り』(高山宏、2008年、青土社)

『綺想宮殺人事件』(芦辺拓、2010年、東京創元社)

『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』(小宮正安、2007年、集英社)

『ルネサンス書簡集』(ペトラルカ、近藤恒一編訳、1989年、岩波書店)

『ラルース図説世界史人物百科 I 古代—中世』(フランソワ・トレモリエール、カトリーヌ・リシ編、日本語版監修・樺山紘一、2004年、原書房)

『ラルース図説世界史人物百科 II ルネサンス—啓蒙時代』(フランソワ・トレモリエール、カトリーヌ・リシ編、日本語版監修・樺山紘一、2004年、原書房)

『ラルース図説世界史人物百科 III フランス革命—世界大戦前夜』(フランソワ・トレモリエール、カトリーヌ・リシ編、日本語版監修・樺山紘一、2004年、原書房)

『角川世界史辞典』(2001年、角川書店)

『海外ミステリー事典』(監修者・権田萬治、発行者・佐藤隆信、2000年、新潮社)

『日本幻想文学史』(須永朝彦、2007年、平凡社)

『グーテンベルクの謎 活字メディアの誕生とその後』(高宮利行、1998年、岩波書店)

『新約聖書名言集』(小嶋潤、1978年、講談社)

『ZEЯRO』(松田行正、2003年、牛若丸発行、星雲社発売)

『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』(ジョー・マーチャント、木村博江訳、2011年、文藝春秋)

『ヒトラーの秘密図書館』(ティモシー・ライバック、赤根洋子訳、2012年、文藝春秋)

『イデアの洞窟』(ホセ・カルロス・ソモサ、風間賢二、文藝春秋)

『伝奇集』(J.L.ボルヘス、鼓直訳、1993年、岩波書店)

『新材料科学の最前線』(首都大学都市環境学部分子応用化学研究会編、2010年、講談社)

『少年アリス』(長野まゆみ、1992年、河出書房新社)

『屍者の帝国』(伊藤計劃、円城塔、2012年、河出書房新社)

『ユダの覚醒(上)(下)』(ジェームズ・ロリンズ、桑田健、2012年、竹書房)


<解説>

<登場人物>

○アリス・桃瓔

・<驚異の部屋>付属<図書館>死蔵課死書係。20歳。<チェシャ猫>、<ジャバウォッキー>、<ハンプティダンプティ>、という三つの能力を使うことができる。チェーンスモーカー。

・ネーミングの由来:『鏡の国のアリス』において、アリスは入城して女王となった。白の女王なのか、赤の女王なのか、という記述はないが、その間をとって「桃」色、漢字に「女」と「王」を含む文字として「瓔」を選んだ。


○デューセンバーグ・ザ・シルヴァーゴースト

・<驚異の部屋>付属<図書館>死蔵課死書係。年齢不詳。アリス・桃瓔の「露払い」か「足蹴にされるもの」を自認している。<シルヴァーゴースト>という能力を使うことができる。でかい。

・ネーミングの由来:アリスが女王クイーンになったので、その従者として設定されている。エラリー・クイーンの愛車が「デューセンバーグ シルヴァーゴースト」なので、そこからもろパクリ。


<登場団体>

○<驚異の部屋ヴンダー・カンマー

・秘密組織。<混沌として矛盾している>と評される、何をしているのかもよくわからない組織。<王>と呼ばれる人間が君臨している。現在の<王>は昼ヶ野王(昼ヶ野が姓、王が名前)。規則は「恥ずかしい名前をつけること」なので、変な名前の人しか基本的にいない。中でも<越卿えっきょう>と呼ばれる人達(呼び名の最後に「卿」がつく)は、何かをしようとすると世の中に甚大な影響を与える確率が高い。変な人間を集めることを目的としているらしいが、それだけが全てではない。<驚異の部屋>に所属していても、利害関係が一致しなければ敵対することもあり得るし、そもそも何かを一緒に成し遂げるための組織ではないので、所属している人間同士が協力するということ自体が稀。<人外魔卿>、<運害卿>、<刀剣卿>、<鶺鴒卿>、<闘仙卿>、<読書卿>、<至愚至悪>、<調律士>といった人物がいる。


○<博物館>

・<驚異の部屋>から分離した組織。秩序だった蒐集分類研究を目的としている。


○<美術館>

・<驚異の部屋>から分離した組織。美術関係の蒐集研究を目的としている。


○<動物園>

・<驚異の部屋>から分離した組織。厨子神ずしがみという人物がまとめている。


○<植物園>

・<驚異の部屋>から分離した組織。飛日神ひびがみという人物がまとめている。


○<水族館>

・<驚異の部屋>から分離した組織。波車神ばしゃがみという人物がまとめている。


○<図書館>

・<驚異の部屋>から派生した組織。他の組織とは違って、<驚異の部屋>付属という扱いになっている。<偽書>を所蔵する偽蔵課、<魔書>を死蔵する死蔵課など、いくつかのセクションにわかれている。


<補足めいたもの>

<序>

・アリスとデューセンバーグの英語のセリフは、『不思議の国のアリス』の序における三人の少女のうちの長女と次女の言葉。

・デューセンバーグの言う「ジェフティ」は、エジプト神話の書物の神「トート」のこと。


<第一部>

・「劇団魔法九」は、岡山にある「魔法宮」(南蛮からやってきた化け狸を祀った神社。地元では「魔法さま」で通っている、らしい)から取っている。あまり意味はない。「宮」が「九」になっているのは、「演劇サムライナンバーナイン」への感謝を込めて。

・刑事2人組の名前は特に考えていない。


<第二部>

・ペトラルカの話を入れたのは、学生の頃、まだ歴史学の徒の末席を汚していたころに、近藤恒一先生の講義を受けたことがあるので、その思い出に。とてもいい学生ではなかったが。

・<偽書>は、『ラルース図説世界人物事典』等から引っ張ってきた情報を元に、でたらめにでっち上げた。

・<Vタイプ>は、ウイルス活字を英語で書いただけ。

・<魔字>は、<カリグラム(図形詩)>と<グリモワール(魔道書)>からの造語。

・<Alice in Jabberwocky>状態は、変身ヒーローものでも『シャンゼリオン』を意識している。半透明。

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