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(結)

——「さあ、全て忘れてしまうのです。」

教師はそう言って、上着の釦をきゅッ、と捻った。——

(『少年アリス』長野まゆみ)



(結)



「お疲れ様でした」

 劇場から出てきたアリスと入れ替わるように、黒い作業服を着た男達が階段を降りていった。<図書館>死蔵課の職員達だ。幾分疲れの見えるアリスは、傘を持って出迎えた巨漢を見上げると、その脚を思い切り蹴った。

「不機嫌でいらっしゃる」

「せっかく追いつめたのに、逃がしたわ」

「そうでしたか。<文学機関>もヴァージョンによって方向性をずいぶん違えておりますね。それも<読書卿>にとっては感知するところではありませんか。最近はバルガス・リョサにハマっておられるとか」

「あの人のマイブームなんてどうでもいいのよ。まだ不安定な<ジャバウォッキー>を使って<魔字>を始末したのに、裏をかかれるなんて恥ずかしいったらないわ」

 形の良い太い眉を吊り上げてアリスは吐き捨てた。巨漢は灰色の髭面に柔和な笑みを浮かべて、手袋に包まれたごつい手を差し出した。掌を開くと、そこにタバコの箱が出現した。アリスの眉間に深い皺が寄る。

「いつも言ってるけれど、準備がいいことだけが美徳じゃないのよ」

「承知しております」

「じゃあどうして……ああ、もういいわ」

 アリスは巨漢の手からタバコをひったくり、一本口にくわえると、コートのポケットを探った。だがライターが見つからないらしい。イライラしながら巨漢を見ると、のんびりとした動作で透明なビニール傘を開いているところだった。

「……デューセンバーグ!」

「はい、ユア・ハイネス」

「火は?」

「タバコに火をつける前に、まず傘をさしませんと。タバコが濡れてしまいます」

 確かに、そのテナントビルには軒先はほとんどなく、今も夜の空気を艶めかせる霧雨を遮ることはできない。だが、タバコを出すなら当然火を準備しておくべきだ、と思っているのだろう。普段からアリスは、この巨漢の人を小馬鹿にしたような態度が気に入らないようだった。もちろんデューセンバーグもそのことに気づいているが、気づいていない振りをしている。

「火でございます」

 傘を開き、その下にアリスを入れた巨漢は、逆の手でコバルトブルーのジッポーのフリントを擦り、アリスの顔の前に差し出した。

「……ふん」

 アリスは一服して、紫煙を吐き出しながら、自分が上ってきた階段を振り返った。

「作者の先生にはどのような処置を?」

 デューセンバーグは深いバリトンで訊ねた。

「いつも通り。<チェシャ猫>を仕込んでおいたから、<魔書>に関する記憶は消えているわ。<文学機関>のことは覚えているでしょうけれど、さてどこまで確かな記憶だと思えるかしらね」

「たまたま<Vタイプ>の仕込まれたプリンタを手にしてしまっただけなのに、<魔書>を生んでしまうとは、何とも不運でしたな」

「そうね。アイデアも内容もオリジナリティに溢れているわけではないし、文章も特にうまいとは思わなかったけれども、ネーミングセンスには少し見るべきものがあったかしら」

「……そういえば、先生の作品の登場人物達は、時折『アリス』の名を出しておりましたが、結局最後まで登場しませんでしたな」

「登場していないわけではないんだけれどね」

 アリスとデューセンバーグは、地下の劇場に降りるドアの脇にかかる看板を見た。テニエルの挿絵を模した、チェシャ猫を見上げる幼いアリスを描いたイラスト。これから取り壊される予定のため、看板上部の蛍光灯は灯っていなかったが、その下にかかる木彫りのネームプレートには次のように焼き付けられていた。



『タイニィ・アリス』



「登場人物の劇団主宰と看板俳優が出会った『アリス』というのは、この劇場そのものを指していた、ということですな。先生のご友人である劇団のメンバーが、劇場取り壊し前の記念公演を行うに際して書かれたのが『タイニィ・アリスと不機嫌な密室』という小説だった、つまり想定されている読者はみんな、『タイニィ・アリス』『アリス』といえば劇場のことだとわかる。一方で、そのことを知らない読者にとっては、最後まで『アリス』の正体が明らかにならない……ということは一種の叙述トリック、ということでしょうか」

 デューセンバーグの言葉に、アリスは顔をしかめた。この疲れているときに分析めいた話をすることもないだろうに、とでも思ったのだろう。

「そう言えないこともないかしらね」

「作中で描かれている戯曲——『憂鬱の国のアリス』は、世界のどこを探してもアリスが見つからない、という話でしたね。他に言及されたものも——『アリスの国の鏡よ鏡』は鏡に唯一映るアリスを探すという話、『不気味の谷のアリス(RC)』は自動人形<アリス’>は登場してもアリスは登場しない話——、いずれもアリスは不在のようです。劇場が『タイニィ・アリス』だから、あえてアリス役は出さず、劇場に敬意を表しているということだと考えると、なかなか趣向を凝らしているとも思えます」

「よく覚えてるわね」

 たっぷりの皮肉にもデューセンバーグは気づかないふりをした。

「そして、その『タイニィ・アリス』が取り壊されることに絶望して死を選んだ役者と、役者の愛した『タイニィ・アリス』が取り壊されることを望んでいた女優……世の中には様々なアリスのあることでございますな、ユア・ハイネス」

「このビルは取り壊されるけれども、建て直した後にはまた劇場が入るらしいわよ。先生がそのことを知っていたら、小説の内容ももっと別なものになっていたかもしれないわね」

「アリス不在の中進んでいく戯曲が、実は『タイニィ・アリス』の中での物語だった……あるいはそれは、『タイニィ・アリス』の夢だったのかもしれませんな。不在のアリスを探しながら決して見つけられない登場人物、アリスでありながら決して物語に登場しない劇場『タイニィ・アリス』、果たしてそのとき物語は、どちらが見ている夢なのでしょう」

「どちらかが夢から覚めれば、答えはわかるわ」

 紫煙とともにアリスは吐き出した。

 「人生は夢に過ぎないのか」と嘆いたルイス・キャロル——チャールズ・ドジソンが「胡蝶の夢」を知っていたのかどうかはわからないが、同様のテーマをアリスの物語の中に込めているのは間違いない。

 『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』。

 その夢物語は、誰の夢なのか。

 彼にとって夢から覚めることは、退屈と憂鬱と絶望に満ちた現実と向かい合うことだった。純粋無垢でナンセンスを愛したアリスが存在しない現実。だから彼は物語の中に逃げ込んだ。しかし、本当に彼が欲していたのは、いつまでもナンセンスなファンタジーを愛するアリスだったというのに、存在しないアリスを描いたナンセンスなファンタジーだけが100年の時を越えて語り継がれているという皮肉。物語が無数の人間に読まれ、そこから生まれる一炊の夢は、果たして誰が見ている夢なのだろうか。ルイス・キャロルなのか、その読者なのか、それとも……デューセンバーグは愛しげにアリスを見下ろした。

「今回は、劇場『タイニィ・アリス』の中で、『タイニィ・アリスと不機嫌な密室』という<魔書>を巡り、アリスがアリスと戦う羽目になった、というアリス尽くしの物語だったわけですか」

「……<Vタイプ>が手に入らなければ、私にとってはただのから騒ぎよ」

 ふと愛しげに、アリスは看板を撫でた。

 まだ二十歳になったばかりのアリスがこれから進む道は険しい。

 <可哀想なチャーリー>と呼ばれている人物が、世界中に<魔書>をばらまく理由は分かっていないが、AI<文学機関>の成長とともに<魔書>事件は増加しており、それに対処すべく<図書館>死書係の業務も激しくなっている。もちろん、本来の<魔書>——錬金術師達に伝えられた<魔書>を生み出すペンによって書かれるもの——も、未だにどこかで生み出され続けている。

 一方で、<驚異の部屋>の中には、どうやら<可哀想なチャーリー>の持つ<Vタイプ>を回収したいと思っているものがおり、、それは<図書館>の業務とは全く関係がない。<図書館>は<驚異の部屋>から分離した組織で、基本的に相反する立場にはないが、あらゆることが矛盾し混沌としているのが<驚異の部屋>だ。彼らの中の誰かが活字を手に入れたい、と考えているのであれば、相手が<図書館>であろうと<可哀想なチャーリー>であろうと、目的を達成しようとするだろう。そのために動き出す<驚異の部屋>の魔人どもの力は、<魔字>の比ではない。

 全ての<Vタイプ>を手にしたいと願っているアリスにとっては、どちらも敵になる。

「……遅いわね」

 開け放たれたままの劇場へのドアを見ながらアリスは呟いた。今入っていった職員は、<魔書>の作者を回収して、適当なところへ運搬(あるいは放置)してくることが任務だ。現場の処理云々はまた別の班が行なうことになる。確かに、人一人を連れ出すのにしては時間がかかり過ぎている。

「私が見てきます」

 デューセンバーグは、傘をアリスに手渡して、暗黒の口を開いている階段に向かおうとした。そのとき、やけに反響した拍手の音が、靴音に混じって聴こえてきた。巨漢は眉をひそめて、片手でアリスをかばいながら数歩下がった。ミリタリーコートに弾かれた霧雨が、弱々しい街灯の光を反射して、巨漢の輪郭を淡く光らせていた。

 まず階段から現われたのは、小さな黒猫だった。額の辺りが光っているように見える。

「デューセンバーグ! そいつ、<魔字>の本体よ!」

「ほう……すると」

 降り注ぐ霧雨から逃げるでもなく、黒猫は可愛らしくちょこんと座った。あっという間にずぶ濡れになりながら、顔を拭うわけでもなく、瞬きをするわけでもない。動物の運動機能を真似ているだけで、必要のない本能的な性質や反射運動はトレースしていない。一見区別はできないが、確かに生物ではない。

 猫に続いて、階段の闇の中から、全てに淡い夜雨の光の中に、ありふれたスニーカーが現われた。ありふれたデニム、ありふれたダッフルコート。中肉中背、眼鏡をかけている。やや童顔、垂れた目と低い鼻、柔和そうな印象を与える。黒髪は中途半端な長さ。顔立ちからアジア系のようだが、果たしてどうなのか。眼鏡の奥の瞳は、ブルーのようにも見える。

 拍手をしながら現われたその青年は、そぼふる雨の中に身をさらすと、くしゃみを一つした。思ったより寒かったらしく、手に白い息を吹きかけて、大儀そうに濡れた髪を後ろに撫で付けた。

「やあ、アリス。先ほどはいい演説をありがとう。おかげで勇気が沸いたよ」

「先生……じゃないわね」

「いやいや、とんでもない。『タイニィ・アリスと不機嫌な密室』を書いたのは僕だよ。ただ、最初にも言ったように、趣味で小説を書いているような人間を作家や先生と呼ぶべきではない。だから君も、僕のことは、<可哀想なチャーリー(・・・・・・・・・)>と呼んでくれ」

「……あんたが」

 アリスの声が震えた。

 この男が、<可哀想なチャーリー>か。デューセンバーグは改めて男を観察した。<読書卿>の作り出した——だけでほったらかしにしてある——人工知能<文学機関>を乗っ取り、<魔書>を世界に広めている男。だが、目的がわからない。それに、以前からデューセンバーグには気になっていることがあった。機会があれば本人に訊ねてみようと思っていたが、まさか今その機会に恵まれるとは。

 傘を投げ捨てたアリスは全身の力を抜き、いつでも行動に移れる体勢をとっている。しかし、これ以上<Vタイプ>の力を行使することは難しいだろう。デューセンバーグは膝をついてアリスを押しとどめながら、中折れ帽のつばに溜まる水滴を弾いた。

「ユア・ハイネス、無理は禁物でございます」

「こいつが<可哀想なチャーリー>とも知らず、私はこいつに本を書くことの素晴らしさを説いた挙げ句に、私の目的まで話したのよ。この恥を雪がないで……」

「ああ、いや、君の目的は素晴らしいと思うよアリス。本を書きたいと思う理由は人それぞれだ。例えそれが、失った、もう二度と甦ることのない人間との日々を鮮やかに思い出すためだったとしても、恥ずべきことではないさ」

 <可哀想なチャーリー>は、いたって真剣な表情でそう言った。何ら揶揄めいた響きはなかった。しかし、本人にその気はなくとも、火に油を注ぐ言葉というものが世の中にはある。

「ふざけるなよ、お前……」

 編み込んだ金髪の房を払いのけたアリスは、怒りに顔を歪めて左耳のピアスに触れようとした。

「ユア・ハイネス。相手の狙いは、貴女の力を確かめることです。<ジャバウォッキー>と<チェシャ猫>の力は既に見られています。この上、敢えて手の内をさらす必要もありますまい」

「私に指図する気なの、デューセンバーグ?」

「御進言申し上げるだけです、ユア・ハイネス。ここは冷静に。せっかく、相手の方から姿を現してくれたのですから。お訊ねしたいこともありますし」

「……」

 苦い表情でアリスは手を下ろし、口にくわえていた、雨に濡れて残骸となったタバコを吐き捨てた。懐から携帯灰皿を取り出したデューセンバーグは、素早く吸い殻を受け止め灰皿をしまった。

「投げ捨てはいけません」

「こんなときにあんたは!」

 アリスはデューセンバーグの背中を思い切り蹴った。微動だにせずデューセンバーグは立ち上がり、アリスを守るように一歩前に出た。

「初めてお目にかかりますな、<可哀想なチャーリー>様」

「『様』なんてつけないでほしいね、アホみたいに聞こえるだろう?君がアリスのボディーガードの、ミスター・デューセンバーグか」

「ボディーガード?とんでもない。私など、ただの露払いか、そうですな、足蹴にされるだけのぽんこつです」

「ほう。<驚異の部屋>や<図書館>の情報はそれなりに所有しているつもりだが、君のことはあまりデータが残っていない。何者なのか、少し教えてくれないかな?」

「こちらもお訊ねしたいことがあります」デューセンバーグは真面目な顔で言った。「いったい、あなたは、どこの<チャーリー>様なんで?」

 <可哀想なチャーリー>は、呆気にとられて瞬きを繰り返した。

 アリスが渋面になって、膝の辺りを蹴りまくっているのを感じた。

「ええと……それが訊きたいこと?」

「はい。以前から疑問に思っておりました。そう、確かに<驚異の部屋>にかつて収蔵されていたことを考えれば、それなりの名前はお持ちだということは承知しておりますが、それにしても<可哀想なチャーリー>、あまりに独創的です。是非とも由来を教えていただきたく」

 <驚異の部屋>という組織は(それが組織といえるのであれば、だが)、何かを得るためや何かを為すために所属するのではない。ただ集められる——「収蔵」と呼ばれる——だけなのだ。そして、そこでは、好事家が収集物にラベリングするように、「何らかの名前(おおむね、一般的には恥ずかしい名前)」をつけることになる。それだけが<驚異の部屋>の、例外のない決まりごとだった。<驚異の部屋>から分離した他の組織では、その決まりも薄らいでおり、例えば<図書館>では、コードネームのようなものをつける場合もあれば、単に偽名を名乗る場合もある。純粋な<驚異の部屋>に収蔵されているものは、<読書卿>や<至愚至悪>といった、大仰でセンスのない名前を持っている。

「確かに、昔は<驚異の部屋>にいたからねぇ、別の名前も名乗ってはいたが……いや、しかし、本当にそれが訊きたいのかい?」

「<図書館>があなたを特A級業務妨害者と認定したときから、気になって夜も眠れませんで」

「馬鹿! アホ! 何真面目な顔でそんなこと訊いているのよ!」

 アリスの蹴りは収まらず、さすがにそろそろ痛くなってきた。

「あ〜、ほら、もっと重要なことってあるんじゃないかな? 例えば、どうして僕が<文学機関>を使って、<魔書>を生み出そうとしているのか、とか」

「では、それもついでにうかがうとしましょう。あなたはどうして<文学機関>を使って<魔書>を生み出そうとしているのですか?」

「……調子狂うなぁ」

 心底困った表情で<可哀想なチャーリー>は呟いた。雨に濡れた眼鏡を、ポケットから取り出したタオルハンカチで拭き、再びかけた。

「さっき、君のアリスに言われたんだ。『タイニィ・アリスと不機嫌な密室』は、<文学機関>が僕のアイデアをパクって書いたもので、書きたかったものはこれじゃないんだから、今度こそ書きたかったものを書けばいいって。ありがたいと思ったねぇ。何かを書こうとしている人間にとって、これほど励みになる言葉があるだろうか」

「『アイデアも内容もオリジナリティに溢れているわけではないし、文章も特にうまいとは思わなかった』ともおっしゃっておりましたな、ユア・ハイネスは」

「そりゃへこむねぇ……」<可哀想なチャーリー>は苦笑した。

「あんた、それは別に言わなくてもいいでしょ!」

 アリスはストンピングを、バットをへし折れるローキックに変えてきた。脛ガードをしないと内出血で立っていられなくなるかも知れない。

「だが、アリスの感想は正しい。そして、困ったことに僕はね、その本を、<文学機関>に頼ることなく書いたんだ。だから、残念ながら、それは僕が書きたかったものでしかない。つまり、僕の努力やセンスや才能とやらは、その程度のものしか書けないものなんだよ」

「……ほう」

 デューセンバーグは目を細めた。アリスも蹴るのをやめて、<可哀想なチャーリー>を見つめていた。

「一度僕の書いたものを、<図書館>の人間に読んでほしくてね。この劇場を好んで使っていた劇団の知り合いになりすまして、今回のお芝居を打ってみたんだよ。これだけアリス尽くしにすれば、アリス・桃瓔が出てきてくれると思ってね」

「……どうして私だったの?他の<死書係>でもよかったはずでしょう?」

「それはほら、やっぱり若い女の子の意見を聞いてみたいじゃないか」

「何なのよその理由!」

 再びアリスは、デューセンバーグの脚を思い切り蹴った。

「それにね、君は<図書館>の中でも特別だ。<Vタイプ>を3つ所持している<死書係>は他にはいないだろう?君と同じように、僕も<Vタイプ>を集めているんだ、収集は効率よくいきたいじゃないか」

「……最初からそう言いなさいよ」

「というわけで、舞台を準備して、僕自身の記憶に別の人間の記憶を上書きして、<文学機関>の被害者ということにして君を出迎えた。君の能力を見てみたかったし、全てが終われば君たちは僕の、つまり上書きされた方の記憶を消すだろうから、その後で<Vタイプ>をいただこうかと思ってね」

「……記憶を消したはずなのに、どうしてユア・ハイネスとのやりとりを覚えているんで?」

「<チェシャ猫>の能力を完全には制御しきれていないんだろうね。だから中途半端に残っていたんだろう。本を書くものに対するアリスの思い、<Vタイプ>を集めるアリスの願い……だから、僕は今、少しためらっているんだ」

「何をです?」

「決まっているだろう?」<可哀想なチャーリー>は無邪気に笑った。「世界中の人間から、本を書くことも、本を読むことも奪い取ることを、さ」


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