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面影

 職員室を出ると、姉川柚が待ち構えていた。

「――なんの話だった?」

「出席日数が危ないから、真面目に来いとよ」

「たしかに結君、学校あんまり来ないからね。なんだったら柚が毎朝迎えに行こうか?」

「頼むから勘弁してくれ」

 毎朝こいつの顔を見るなんてご免被る。

「拒否早っ! もう、せっかく結君ファンクラブを敵に回す覚悟で発言してるのに」

「嘘でも恥ずかしいから、そのファンクラブはよせ」

「――結君ファンクラブは嘘じゃないよ、ほら」

姉川柚は、薄っぺらな本を差し出してきた。

薄い本の表紙には、漫画ライズされた俺が描かれてた。

何故かは知らないが、漫画の俺は学生服の前がはだけていた。

 猛烈に嫌な予感がする。

ためしに薄い本をペラペラと捲ってみると――。

「――なんだこれは・・・・・・」

 あまりのことで本を持つ手が震えている。

「結君ファンクラブの人達が作った結君総受け同人誌だよ」

「――どういうファンクラブだよ」

 怒りに震えながら尋ねると「腐女子の子が中心で作ったファンクラブだよ。ほら、結君顔が女の子より可愛いでしょう? だから普通の子にはあまりモテないだけど、そっち系の女の子にはモテるのよね」

「――どういう系だ。もういい帰る」

おれは見るもおぞましい本を、姉川柚に押しつけると、踵を返した。

「あっ、待ってよ結君」

姉川柚が、俺の袖を掴んだ。

「――まだ何かあるのか?」

「実は付き合って欲しいところがあるの」

「はぁ? なんで俺が? ほかの奴誘えよ」

「――本当はゆっこと行くはずだったんだけど、どっかの寝坊助さん起こしに行くように頼まれたせいで、ゆっこ帰えっちゃっただよね」

姉川柚は態とらしく大きなため息をついた。

「――一人で行くの心細いなぁ。どこかに頼りがいのある男の人いないかな」

姉川柚は、おれに見せつけるかのように辺りを見回した。

〝これは付き合ったほうが楽だな〟

ここで漫才してても仕方ない。

「付き合えばいいだろう。付き合えば」

ちょっとの我慢だ。

「やーん。ありがとう結君」

柚は抱きついてきた。

「あっ、アホ離れろ! 職員室の前でなにしてるんだ!」

俺は唯を押し返した。

「ブぅ。せっかくお姉さんがありがとうのハグしてあげたのに。結君つめたい」

「誰もそんな事頼んでないよ」

「フン。結君は意地っ張りなんだから」

柚はハムスターのように頬をふくらませたが、俺は無視して下駄箱にむかって歩き出した。

「あっ、待ってよ結君」

俺が無視して歩くと、柚が後ろから抱きついてきた。

「なんですぐ抱きつくだよ!」

「結君が意地悪屋さんだからよ!」

何故か柚が怒り出した。

「ほら、結君手を出して!」

柚がキレながら要求するので、仕方なく手を出すと。

柚は、俺の手を握った。

「結君の右手、捕獲成功! これでもうお姉さんから逃げられないだから」

――結君、ほら手を握って。

二人で手を握れば。

二人で首を括れば。

怖くないから。

白日夢。

「――どうしたの結君?」

気づくと柚が、俺の顔を覗き込んでいた。

〝なんでこいつと姉さんがダブるだ〟

こんなに髪が短いのに。

こんなに騒がしいのに。

「なんで俺なんか構うだよ」

クラスで先生とペアを組んじゃう系の俺に話しかけてくる馬鹿はこの女だけだ。

「結君が転校してきた時、柚ねピンときちゃったんだ。この子は、人にかまって欲しい甘甘子犬ちゃんなんだけど、ひねてるから人に近づけない可哀想な子犬ちゃんだって」

「誰が子犬ちゃんだよ」

どういう感性だ。

「――嘘。本当はね結君が弟に似てるから、ついちょっかい出しちゃうだ。お姉さんは」

おれが姉の面影を求めて、柚は俺に弟の面影を見つけるなんて、なんか厭だな。

「俺に似てるなんて、お前の弟ろくなやつじゃないな」

憎まれ口を叩くと、

「――うん」

柚は寂しそうな顔で頷いた。



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