妄想部的*千一夜物語*
本日更新の妄想部8月企画『童話』のボツになったお話です。
ネタに悩んでる時に、おの様と話してて思い付いた話なので、影響されてます。そして、千一夜は童話じゃないじゃんという自分突っ込みでボツに致しました。
むかしむかし、ある所のおじいさんはマサカリ担いで山へ柴刈りに、おばあさんは鶴が織った反物で出来た羽衣の洗濯にいきました。
おじいさんは通りがかった竹藪の中で、一本の光輝く竹を見つけました。
そして、おじいさんがその竹を恐る恐る叩き切ってみると、竹の中から光輝くかわいい親指ほどの大きさの女の子が出てきました。
おじいさんは、女の子を『おやゆび姫』と名付けて家へ連れて帰る事にしました。
一方、おばあさんが川で洗濯をしていると、上流からどんぶらこ~、どんぶらこ~と桃が流れて来ているのを見つけました。
おばあさんがその場で食べようと素手で割った桃の中からは一寸ほどの大きさの凛々しい男の子が出てきました。
おばあさんは男の子を『一寸法師』と名付けて家へ連れて帰る事にしました。
そうして『おやゆび姫』と『一寸法師』は一目会ったその日から恋の花咲くこともあったようで、結婚して末長く幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし。
* * *
「あのな……」
「なんですか?」
「今の話はおかしいだろ?」
「どこがですか?」
「どう考えても色々おかしいだろ?」
「そうですか?」
「ああ。……そもそも、お前は恐くないのか?」
「何がですか?」
「俺は世間では残虐王と呼ばれている。毎夜、無理に召し上げて夜伽をさせた娘を殺す恐ろしい王だとな」
「それが?」
「え?いや……まあ、いいが。それにしても、この場合にお前が話す物語っていうのは相場が決まってるだろ?アリババやシンドバッドやアラジンなんかじゃないのか?なんで色々ミックスされた日本昔話なんだ?しかも一つだけアンデルセンが混じってたよな?」
「……ッチ!」
「お前今、『ッチ!』って言ったか?舌打ちしたよな?普通、王様に向かって舌打ちするか?」
「王様……では、明日の夜も新しいお話を致します」
「無視かよ……まあ、明日はちゃんと一つの物語をすると約束するなら今日はもういいぞ」
「……かしこまりました。それではお休みなさいませ」
「ああ……」
◆ ◆ ◆
「キジも鳴かずば撃たれまい」
めでたし、めでたし。
* * *
「どこが?」
「なんですか?」
「今のは物語じゃなくて、ことわざだよな?百歩譲って題名だ。しかも『めでたし、めでたし』じゃないだろ?」
「そうですか?」
「間違いなく、そうだ。そもそも物語ってものには起承転結がいるだろうが」
「じゃあ、私にどうしろって言うんですか!?」
「逆切れかよ……とにかく、普通の物語を話せ。今のことわざの由来でいい」
「由来ってどんな?」
「ん?ええと、確か……むかしむかし、あるところに女の子がいました―― って、なんで俺が語ってんだ!?」
「……ハァー」
「お前今、溜息ついたか?すごい面倒くさそうな顔で溜息ついたよな?」
「王様……では、明日こそ起承転結のあるお話を致します」
「また無視かよ……まあ、次こそちゃんとすると約束するなら今日ももういいぞ」
「……かしこまりました。それではお休みなさいませ」
「ああ……」
◆ ◆ ◆
ある日、森の中でお嬢さんが熊さんに出会いました。
お嬢さんは慌てて逃げましたが、熊さんは追いかけてきます。
熊さんはお嬢さんが落としたイヤリングを届ける為に追いかけていたのでした。
そして、みんなで踊りました。
めでたし、めでたし。
* * *
「歌ったんじゃないのか……」
「なんですか?」
「いや、もう何をどう突っ込めばいいんだ?」
「ちゃんと起承転結だったじゃないですか」
「ああ、そうだったな。……もういい、疲れた。寝る」
「……かしこまりました。それではお休みなさいませ」
「ああ……明日もよろしくな」
「……はい」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とある国に、とても優しい王様がいました。
優しい王様にはとても綺麗なお妃様がいましたが、政略結婚で結ばれた二人は友情を育む事ができても、男女の愛情を育む事はありませんでした。
そのうちに、お妃様は一人の騎士と恋に落ちてしまいます。
それを知った王様はお妃様と騎士に十分なお金を渡して王宮から逃がしてやりました。そして王様は、追手がかからないようにお妃様を殺したと臣下の者達に伝えたのです。
臣下たちは恐れ慄きながらも、お世継ぎの為にも新しいお妃様を迎える事を望み、そして新しいお姫様が王様の許へ嫁ぐ事になりました。
しかし、そのお姫様には他に好きな人がいたのです。
その事を打ち明けられた王様は、お姫様を同じ様に逃がしてやる事にしました。
それから王様は考えました。
この際、意に添わぬ結婚を押し付けられようとしている娘達を同じ様に逃してやればいいのではないかと。
お姫様から聞いた情報を元に、王様は同じ様な境遇の貴族の娘を次々と召し上げました。
当然、真相を知らない臣下や、街の人達は残虐王と陰で呼ぶようになりましたが、王様は気にも留めませんでした。
ただ貴族の娘達の間でのみ真実は広まっていましたが、それを口にする事は出来ません。
やがて、王様が知る限りでは意に添わぬ結婚を強いられている娘もいなくなり、王様は一人で夜を過ごすようになりました。
王様に新しい縁談が来る事も最早ありません。
しかし、お世継ぎの事を考えればお妃様は必要です。臣下たちは頭を悩ませながら、新たなお妃様を誰にするか相談しました。
そこで白羽の矢が立ったのが宰相の娘でした。
宰相の娘は容姿も麗しく、頭も良い。これなら王様も気に入ってくれるのではないかと、一縷の望みをかけて。
そうして、宰相の娘は一夜にして殺される事もなく、無事に千夜を迎える事ができました――
* * *
「……千夜過ごしてやっとまともな話をしたかと思ったら自慢か?自分の事をよくそこまで褒められるな」
「ええ、事実ですから」
「で、明日には無事に帰って『めでたし、めでたし』という訳だ」
「それはどうでしょうか?まだお世継ぎの問題が残っていますから。ですが、王様は最初におっしゃいましたよね?『他に好きな男がいるのなら今すぐ逃がしてやる。そうでなければ、俺と千の夜を過ごせ。そして、俺を退屈させる事がなかったら無事に帰してやろう』と」
「……確かに今日で千夜だが、まだ夜は終わってないし、俺は退屈している」
「今のお話は退屈でした?」
「よく知っている話だからな」
「そうですか。じゃあ、王様の知らないもう一つのお話を」
「へえ?」
「王様の許に嫁ぐ事が決まった宰相の娘はとても喜びました。なぜなら、娘はずっと王様の事が好きだったからです」
「―― おい、何言って……」
「娘は幼い頃に父親に連れられて王宮に行った時に出会った王子様の事がずっと好きでした。でも年齢が離れていた為にお妃候補には入れてもらえず、王子様が王様への即位と同時にご結婚された時にはショックのあまり部屋に一カ月以上閉じ籠って家族を心配させた程でした」
「―― ちょっと待てって」
「それから数年が過ぎたある日、娘は王様がお妃様を殺したとの話を聞きました。しかし、娘にはその話がどうしても信じられず、宰相である父親に真相を徹底究明するべきだと詰め寄りましたが、父親は首を振るばかりでした。そして、次に王様が新しいお妃様を迎えたと聞いた時には怒りのあまり、父親のカツラを全て燃やしてしまいました」
「―― 宰相の突然のカミングアウトはそう言うことか……」
「それから王様が召し上げた娘を次々と殺しているという話を聞いても信じられず、父親に自分を差し出せと何度も言いましたが、聞き入れてもらえませんでした。そこで、娘は抗議の家出を決行しました」
「―― それで宰相の抜け毛が益々酷くなったのか……」
「娘は友達の家にしばらく身を寄せていたのですが、そこで事の真相を知ります。それで、王様の邪魔をしてはいけないと思い、すぐにでも王宮に乗り込んで王様を押し倒したい気持ちをぐっと堪えて実家に戻る事にしました。そして、近いうちにきっと王様は一人になると、今度こそ王様を逃がすものかと、虎視眈眈と狙っていました」
「―― 怖いな……」
「そうしてやっと巡って来たチャンス。娘は気合を入れた勝負下着で準備万端だったのに、王様は『他に好きな男がいるのなら今すぐ逃がしてやる。そうでなければ、云々』と言って、その夜は何もしませんでした。そしてそれからも何もしません」
「―― いや、それは……」
「娘は考えました。では、退屈させれば実家に帰される事はないのかと、王様の傍にいられるのかと。王様が『お前の話は退屈だから、これ以上は聞きたくない。もっと別の楽しい事をしよう。ゲヘヘヘ』と押し倒してくれる事を夢見て、適当な話をしていたのですが、それも叶いません」
「―― どんなスケベ親父だ、俺は」
「そしていよいよ、娘が恐れていた千夜を迎えてしまいました。このまま明日になったら実家に帰されてしまうのか、どうしたら王様と一緒に千一夜を迎えられるのか、どうしたら娘にとって『めでたし、めでたし』になるのか――」
「もういい!」
「王様……」
「いや……その……」
「なんですか?」
「あー、うん。――『お前の話は退屈だから、これ以上は聞きたくない。もっと別の楽しい事をしよう。ゲヘヘヘ』」
「……棒読みですね」
「そこは見逃せよ」
「仕方ないですね」
「なんでお前はいつもそんなに偉そうなんだ?でもまあ……じゃあ、今から押し倒していいんだな?」
「はい、喜んで!」
「居酒屋か?……それにしても、ずいぶん時間を無駄にしてしまったな」
「全くです。でも待たされた分、きっとすごいんだろうなと期待しております」
「なぜプレッシャーをかける……」
「まあ、千夜も待てる程の愛情が私にはあるので大丈夫です。二人で頑張りましょう。ついでにお世継ぎ問題についても頑張りましょう」
「ついでなのか……」
「はい。私にとっては今この瞬間の結末が……」
―― めでたし、めでたし。
というわけで、妄想部☆本日更新8月企画「童話」よろしくお願い致します。
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