厨二高校ホンモノ科〜異世界召喚されたんですが、クラスメイト達に頭を悩まされています〜
読み切りってヤツさ!
「クッ!俺の左眼に封印した邪神が騒めいている……盟友よ、気を付けるんだぞ!」
「おはようフィフィ。気を付けるね」
金髪碧眼で左目を眼帯で隠した異世界の勇者、フィフィ・グラン・フェドルーシ。
包帯に巻かれた右腕で左目を抑えながら、僕へ曖昧な忠告をしてきた。
「愛い童よ、道中で蜻蛉を捕まえたのじゃ、くれてやろうではないか」
「千狐さんおはよう。かわいそうだから放してあげよっか」
千年生きて人になったという元狐の少女、鳥居 千狐。
低身長でのじゃのじゃ言いながら僕を童と呼び、普段から子供の遊びに誘ってくる。
「これあげる。多分必要になる」
「おはよう未瞳さん。今日雨降るんだね」
未来を見通す瞳を持つ気だるげな青髪少女、来奉 未瞳。
彼女の差し出した傘を素直に受け取った。
ここは県立御厨高等学校。かつて御厨第二高校という名前だったためか、他校の生徒からは揶揄うように『厨二高校』と呼ばれている。
その名で呼ばれる原因は、先ほどから挨拶を交わしている僕の同級生に他ならないだろう。
中学校でその独特な言動から孤立していた問題児たち。彼ら彼女らが、こぞってこの高校に集まってきたのだ。
しかも何の因果か、各学年3クラスあるというのに、問題児たちは僕が居るクラスに全員集まってしまった。
……そう、全員である。どういう学校の方針なのか知らないが、このクラスは他のクラスに比べて少し人数が少ない。お陰で僕以外の全員が、問題児なのである。
長い物に巻かれているのか、それとも朱に混じったように見えているのか、僕まで変な奴扱いされてしまうのが嫌で……だからこそ問題児たちに変に反発せず、普通に会話をしているのだ。
「あら、町田さん。ごきげんよう」
「メアさん、おはようございます」
「少し顔色が悪いのではなくて?睡眠不足は血が美味しくなくなりますから、気を付けてくださいまし」
日傘を差した白髪赤眼の真祖の吸血鬼、メア・デイウォーカー・ヴァンキッシュ。
他人の事を言えない、病的なまでに白い肌をしているがメアさんこそ大丈夫だろうか?
町田二郎。普遍的でありがちな僕の名前。きっとクラスメイトたちにも本当の名前はあるのだろうが、名乗られた名前で素直に呼ぶことにしている。
他校の生徒に言われる、『厨二』という言葉は間違っていない。僕以外のクラスメイト全員、『厨二病』に罹患しているのだ。
自己と他の境界を明瞭にする過程で、自分が世界でも特別な存在だと勘違いし始める妄想的症候群。思春期で体も成長しつつある中学2年生に起こりやすいことから、古いネットスラングに掛けて『厨二病』と呼ぶ。
朝のホームルームを待つ時間。クラスメイトが教室に集合し、各々がしたいように過ごすこの時間こそ、僕にとって一番胃が痛い瞬間だ。
厨二病患者同士は仲が悪い訳ではないが、自己に広がる世界観を共有できない相手とは会話をしても楽しくないのだろう。唯一の『普通』である僕のもとへ、少しでも話そうと厨二病患者が集まる。その様相たるや、きっと垓下の戦いで歌が聞こえてきた時項羽はこんな気持ちだったんだろうとまで考えさせられる程。
嫌いではないし、悪い人たちではないのだ。ただちょっと独特なだけで、きっとこうして仲良くしておけば将来笑い話になるはずなのだから。
そう信じて今日も僕は自席で笑顔を浮かべる。
その時。
「……む!?この気配は……!?」
「抵抗できぬ!?」
「ブツブツ……こいつ転移魔法陣や!?はよ逃げ——」
床に突如広がった光の紋様。
それが何か認識する間もなく、僕たちは光の奔流に飲み込まれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
閉じた瞼の向こうから眩いまでの光が失せた頃、ようやく目を開けられた。
視界の真ん中に緑の残像が現れ、周囲の様子が上手く掴めないが……少なくとも尻もちをついていることから、椅子や机は無くなったことがわかる。
「おお、勇者様方……よくぞ召喚に応じてくださいました……!」
少しずつ、ほんの少しではあるが視界の端に捉えることの出来た人影が、日本語で話しかけてきている。
声からして女性だろう。召喚?勇者?聞き馴染みのある単語過ぎて、これは何かドッキリを仕掛けられているのかと疑うが……少なくとも、こんな大掛かりな仕掛けがあったようには思えない。
もしかして……本当に?
僕は厨二病ではない。が、一介の普遍的高校生として、『異世界召喚』というものに人並み程度の憧れはあった。それも、勇者ということは世界を救える力を僕が持っているということ!?
僕だって少しワクワクしているのだ。厨二病患者であれば、こんな状況は垂涎の的であること間違いなし。
目が慣れてきて周囲の状況がわかるようになってきた。目の前に居た女性は、薄手の純白ヴェールを身に纏い両手を組みこちらに祈りを捧げているかのようだ。その後ろには数人の甲冑を来た、いかにも騎士然とした人たちが立っている。笑い、喜び、あるいは感涙を流す彼らを見るに、何かとんでもないことが巻き起こる予想しかできない。
瞬間。
「——頭が高いな」
静寂。こちらを見上げて祈りを捧げる女性も、後ろで抱き合っていた騎士たちも皆が黙って地に伏せる。まるで何かに圧し潰されているかの様に。
その尊大な声の主は……。
「……ふむ、懐かしい空気、大気に満ちる魔力。気付いたか、フェドルーシよ」
同じ高校生とは思えない程の巨躯。2メートル近い筋骨隆々の、魔王を自称するギアゴ・ヴェリテコ・アヴェルタール。
異世界の勇者を名乗るフィフィと唯一世界観を共有し、話をしている場面を何度か見てきた。
「ああ、この右腕の疼きといい……俺がお前を倒した世界で間違いないな」
「ふん、言わせておけば。相討ちであろうに」
ギアゴはフィフィに不敵な笑みを送り、フィフィはそれを肩を竦めて返す。
見慣れた光景。……こんな状況だというのに、異様なまでに落ち着いている。
周囲を見渡しても、キョトンとしている人は居るがパニックになっている人は一人も居ない。
なんでこんなに……と思ったのも束の間。
「通じ合っとるとこ悪いんやけど、おふたりさん。この世界出身なんかいな?」
迷彩柄のバンダナを頭に巻き、大きな丸メガネを掛けた糸目の男、時逆 鶯が会話に割って入った。
厨二病度合いで言えばまだ落ち着いている方ではあるが、油断するとすぐ魔法がどうとか話しだす上、ノートにはびっしりと魔法陣が描かれている。この間嬉しそうに説明してくれていたが、9割9分理解できなかったのを覚えている。
「む?見れば分かるであろう」
「見てもわからんわ!早ぅ威圧解けや、話にならんやろ!」
「ほう……魔王たる我に対し不遜であるな。控えよ」
「やかましいわ!魔王かラ王か知らんけど説明させぇちゅうとんや!」
マズい、喧嘩になりそうだ。
このクラスの全員相手が誰であっても見た目など気にせず平気で喧嘩を売る。それで口論になりそうなとき、僕が仲裁すると何故か矛を収めてくれるので半ば僕の仕事になりつつある。
普通に考えてギアゴの体格で殴り合いの喧嘩なんか怒ったら不味いので、仕方なく僕も割って入る。
「まぁまぁ、ギアゴも鶯君も落ち着こう?」
「「……」」
「ほっほっほ、若いのぅ」
千狐さんが達観したように目を細めて笑っているが、ここ皆同級生だし、一番若く……というか幼く見えるのによく言えるよなぁと逆に感心した。
「フィフィ、今の状況わかるの?」
「ああ、盟友。この世界は元々俺が居た世界だ。どうやったかは知らんが……召喚魔法か何かで呼び出されたらしいな」
「ふん。大方我と相討ち勇者を呼び戻す魔法に巻き込まれたというのが筋であろう」
「まぁ細かいことは後でこいつらに聞くとして……だ」
フィフィは未だに地に伏せて苦しそうに喘ぐ人たちを一瞥してから、クラスメイト全員へ向き直り……。
——眼帯を外した。
「喜べ盟友!喜べ窮屈に生きる級友共!」
開かれたその左目は、金色に光っている。
「この世界には、忌々しい監視バカのクソ神も居ねぇ!解放的に過ごせるって訳だ!」
大仰に両手を広げて放ったその意味不明の宣言に——数瞬遅れて歓声が沸いた。
「そんだら魔法使い放題ってことやんけ!」
「ふぉぉ……久方ぶりに尻尾が伸ばせるのじゃ……」
「ふふ、この世界の血はどんな味がするのかしらね?」
鶯君が右手に炎を、左手に紫電を纏う。
千狐さんから、その体よりも大きい9本の尻尾が現れる。
メアさんの目は妖しく輝き、その犬歯は鋭く尖っていた。
「この体、窮屈で仕方なかったのう」
「俺だってやっと解放できるんだ、痒いったらありゃしねぇ!」
「私も……鮮明に見える……」
ビキビキと音を立てながら、ギアゴの腕が追加で2本生えてくる。
右腕の包帯を解いたその掌には、瞬きの間に一振りの剣が握られていた。
未瞳さんの瞳も、綺麗な宝石のように輝いている。
他のクラスメイトも同じ。天使の羽を舞わせる者、宙に浮かぶ者、半透明になりグルグルと回る者……。
皆が皆、普段から自称している姿へと変貌した。
そして最後のひとり。この場に於いて誰とも対等に話し、皆に囲まれる者。
僕だけが、何も解放することなく呆然としていた。
期待を寄せる目。お前の話を聞いたことは無いが、きっと何か隠しているんだろう、と。そんなことを考えているような目で、皆が僕を見ている。
高鳴る心臓、逸る呼吸を抑え付けて、僕は努めて不敵な笑みを浮かべる。
「——とりあえず、召喚した人に話だけでも聞こうか」
どうやら僕のクラスメイトは、ただの厨二病なんかじゃなく。
どうしようもなく——”ホンモノ”だったらしい。
何もないと知られたら、何をされるかわからない。猛獣の檻の中に放り込まれたような異世界生活が……今、始まった。
始まった!(完)
メインで書いてた筈の作品が全然筆が進まないので、なんとなく思いついたのを書き殴りました。




