第四話「カモ育成は念入りに!」
春休み期間中のサークル室には、小沢と忍しか顔を出さなかった。月額300円のサークル費の元を取るために剛志は毎日のように顔を出していた。そして誰かが寄贈した、コーヒーをタダ飲みしていた。
「(へへっ、元を取るために飲みまくってやるぜ!)」ギザギザボンバーヘアー。出っ歯。面長。色気と欲望で眼つきはやたらとギラギラしていた。剛志の顔つきは、泥棒そのものだった。
「(コイツは、ただのセコイ奴かも知れないな・・・)」小沢は思った。
「(麻雀が強くて、セコイ奴だったらどうしよう・・・。弱くて居座る人が欲しいわ・・・)」忍は心配した。剛志の麻雀力を知るために、小沢は試してみることにした。
「キミ、麻雀出来るの?」小沢は、剛志に聞いた。
「出来ますよ。たぶん・・・」
「ゲームか、何かでやったことあるの?」
「ないけど、出来ますよ。簡単でしょ? 数合わせでしょ?」
「麻雀牌って、何枚あるか知っている?」
「52枚でしょ?」
「(あっちゃ~。何にも知らないな・・・コイツ)」小沢は剛志の麻雀力を理解した。
「(コイツ、ただのカモネギね・・・)」忍の階級の一番下にランクされた。そして二人は同時に泥棒の顔をして、心の中でもみ手をし始めた。
「(育てて食べよう・・・、ぐしし・・・。食事の時間ですよ~~~)」小沢はよだれが出るのを我慢した。
「(プライドが高いだけの、ただのエサが来たわ・・・。搾り取りましょう~~~)」忍は顔を背けながら、心を躍らせた。
「よ~し! それではキミに、麻雀の基礎を叩きこもう」小沢は、精一杯爽やかに振る舞った。
「暇だから、やりましょう!」『カモネギ育成・接待麻雀』が始まった。這い上がれるか、引きずり込まれるかは、剛志次第だった。
【5枚麻雀】
・参加全員が、配牌で4枚ずつ牌山から取る。
・親だけ、5枚
・誰かが、合計50翻和了すれば終了。
・子は自摸も放銃も同点。
・親は自摸も放銃も2倍。
・親の連荘はない。
・矻や吃は出来ない。
・使用する牌は、萬子の二~八を抜いた108枚。
〔有効役〕
・1点役 面前自摸、平和、断么九
・2点役 全帯公、対々和、暗槓
・3点役 純全帯公、混一色
・4点役 清一色、国士無双(最終形は、四面待ちのみ有効)
・5点役 字一色、緑一色(リューイ-ソー)、天和、地和
【1局目】親:小沢 ドラ:東
46北白
「(勝負手にならないな・・・。和了らせて調子に乗らせよう・・・)」小沢は気配を消した。
南:剛志
②③東東
「(これが聴牌ってやつか?)」
西:忍
一①南西
「(国士無双を聴牌っちゃった!)」
親:小沢
「(二人に①は切れないな・・・)」
46北白 ① → 6
W放銃を躱した。
南:剛志
「自摸ったぜ!」
②③東東 自摸①
「高いのか?」
「混一色、全帯公、面前自摸、ドラ2だね。残念ながら、平和はつかない。+8翻だ」
「(ゲッ! コイツ強いの?)」忍は焦った。
「ざっと、こんなもんよ!」
【3局目】
「これが、国士無双ってやつなの?」剛志が和了した。
東北白發 自摸:發
「・・・、うむ。+4翻だ」
【5局目】
「一色だけで作るやつね」剛志が和了した。
②③④⑧ 自摸:⑧
「断么九、清一色、面前自摸だね。+6翻だ。」
「あなた、良く自摸るわね~」忍が感心した。
接待気味に打ったので、1回戦は剛志の圧勝だった。
1位:剛志 +52翻
2位:忍 +26翻
3位:小沢 +12翻
「勝ったぜ! 俺は強い!」剛志は勝ち誇った。
1回戦終了後に、小沢がトイレ休憩を挟んで忍と相談した。
「勝つのはいいんだけど、何かアタマに来るわよね・・・」忍が愚痴をこぼした。
「何となく、下品な物言いだからな・・・。忍、コントロールしてみよう」
「え~? まだ泳がすの?」忍はゴネた。
「それなら、少し叩きのめしとくか? 負けざまを見てみよう」
「そーね。それなら、いいわ。遠慮しなくてもいいタイプかも知れないわね」
サークル室に戻り、次の対局の準備を始めた。
2回戦
【1局目】親:忍 ドラ:②
②②③④ 自摸:⑤
「あら、ゴメンナサイ。自摸っちゃったわ。面前自摸、平和、断么九、清一色。7翻で親だから+14翻ね。剛志くん、ゴメンね)」忍は目をウルウルさせながら、剛志を気遣った。
「い~ってことよ! 麻雀は一人で打っているんじゃないからな! 誰でも和了っていいのっさ!」
「カチン!」
「カチン!」ふたりとも、頭に来た。
【2局目】親:剛志 ドラ:發
東西白發發
「和了ってるぜ! 字一色、天和、国士無双、ドラ2。16翻で親だから、+32翻だぜ!」
「オイオイ! 国士無双と字一色を一緒にするなよ! 字一色の成立は、暗刻と雀頭の形のときだけだ」
「え? そーなの? じゃあ、11翻で親だから、+22翻だぜ! まけてやるよ!」ぞんざいに言った。
「! カチン! (コイツ~。少しは遠慮しなさいよ!)」
「! カチン! (このがきゃー! 手加減してやってるのに、調子に乗りやがって!)」
勝負ごとの常で、手加減して相手をしていると、成長著しい相手に足元を掬われるものであった。
本隊が帰って来るまでに、この二人は、剛志にとって美味しい養分になってしまう。
3回戦終わって、3勝した剛志が、4回戦で気配を消した。
不機嫌になりつつある忍の気配を察した剛志が、忍を勝たせる作戦に切り替えた。小沢もそれに乗っかったので、4回戦目と5回戦目は忍が勝って機嫌を取り戻した。一方で小沢は、完全に調子を崩された。
「何か、部長さん、今日は調子が悪かったみたいですね~。次はたぶん、勝てますよ! いや、大丈夫。俺が認める。アンタは強いよ、きっと。俺の次にね」相手に苦手意識を植え付けるために、小さな挑発も忘れなかった。
「! カチン!」
以後、剛志は、小沢に対して委縮して対局することがなくなった。
忍に対しては、下心丸出しで手を抜いて打つことになる。
「カモネギの育成」は、このようにして行うべきである。
なお、誰が、誰のカモであるかは、読者諸君の想像に任せる。




