第三話「鳴鳳大学三面拳」
三月末の夜だった。
白石城内の公園で、鳴鳳大学生たちが、城のライトアップの反射光を浴びながら麻雀を打っていた。
今年の春は、いつもより早く桜が咲いた。
だから花見の客もそれなりにいた。
麻雀を打っているメンツの三人が、目つきとガラが悪かったので、花見客からは空気として扱われた。
「夜桜を麻雀を打ちながら楽しんでいる。俺たちはいったい何をやっているんだろう・・・」恭次郎が静かに言った。
恭次郎が感傷に浸るのはいつものことなので、メンツは聞き流していた。
ピシッ、タン。
ピシッ、タン。
麻雀マットが音を適当に吸収してくれた。
麻雀中の一輝に、小沢からラインが届いた。
「『一人、入部決定!』だそうです」一輝が告げると、メンツが歓喜した。
「誰? 女の子?」
「どんな奴?」
「うほー」
「どれどれ・・・男だな・・・」と言って、ライン内容を確認した。
「馬鹿だな・・・。お前らの仲間入りだ! わっはっは」一輝が笑った。
「何が可笑しいど?」吉太郎が聞いた。
「すいません、先輩。コイツは可能性のある馬鹿です」
「どんな奴だど?」
「忍の胸だと騙されて、肉まんを触って興奮していたそうです。豪快に鼻血を出しています。いつもの作戦です」
「どっわっはっは!」
「ばかだどー」
「おもしれー。鼻血を出すのは天才だー」
「これで、三面拳も四天王に昇格ですね。パワーアップです!」一輝が言った。
「俺も三面拳だか?」吉太郎が聞いた。
「あなたは、リーダーです。1年生に時の単位が4しか取れていない。これは伝説です!」
「そっから頑張ったど! 今年は卒論だけだど」
「みんなで、先輩の単位の取得をサポートしまくりましたから」
「随分、奢ったど」
「正当な報酬です」
一輝は吉太郎のレポート作成の補助をした。資料を集め、使えるデータを揃え「あとはまとめるだけ」の状態を幾つも作り上げた。
テスト対策の勉強の補助もした。何人もの先輩方を訪ね、試験範囲を予想して、対策問題を作り上げた。吉太郎の読めない字だらけのノートを綺麗に書き直したりもした。一輝は吉太郎の単位取得のために働いた。吉太郎が卒業出来るのは、ほとんど一輝の手柄だった。一方で、吉太郎の麻雀の打ち内筋は、信じられぬほど放銃率が低かった。奇跡の分析力の持ち主だった。しかし、国語科の教員志望だった。
「お前には、世話になったど」
「お礼はだいぶ頂きました。ご馳走様です」
「俺も三面拳か?」
「キミは、特攻隊長だ」恭次郎は、ギャンブル狂いだった。パチンコ・麻雀・競馬が好きで、バイト代のほとんどをつぎ込んでいたので、一輝が麻雀一本に絞らせた。一輝が恭次郎に対して、絶望的な勝ち方を何度もした。そのお陰で、恭次郎の負けず嫌いが麻雀に集中するようになった。一輝は、恭次郎が快楽的な勝ち方を出来るように卓内のゲームを何度か操作していた。『圧倒的な独り勝ち』を何度も味わわせることによって、『手の付けられない攻撃的麻雀モンスター』を育てあげてしまった。数学科教員志望だった。
「師匠、私もですか?」
「キミは、荒らし屋だ」龍之介は、的の絞れない不思議な和了を繰り返した。対子系の和了が多く、打ち筋の説明が難しい和了ばかりをした。卓内の力関係が乱れ、「荒れ場」になることが多かった。不思議な「他人を狂わすリズム」を持っていた。逆転トップを取ることが多かった。社会科教員志望だった。
「小沢が加われば『四天王』なのにな」と恭次郎が残念がった。
「アイツは理屈が多すぎるど」吉太郎が言った。
「だいたい、『索子が三枚続いた次の自摸牌の確率』とか云々言っている時点でメンドクサイですよ」龍之介が言った。
「和了牌で字牌が二回続いたら、次は萬子が和了牌になるらしい」一輝が言った。
「典型的な『流れオタク』だ。小沢流麗だけに」恭次郎が言った。
「それ湯桶読みだど」吉太郎が言った。
「しかし、忍さんの狙いは分からないです。なんでこのサークルにいるのでしょう?」龍之介が言った。
「一輝狙いじゃねーの?」恭次郎が言った。
「それは違うよ」一輝が否定した。
「ただ、麻雀が好きなだけとか?」龍之介が言った。
「きっと、男に囲まれてるのが好きなだけだど」吉太郎が言った。
「男に囲まれてチヤホヤされるのが好きなだけだ。自分が本命だと思わせて、みなに優しくさせる作戦だど。入れ込んではダメだど。女の性を責めてもダメだど」
「その線が濃いですね。さすが先輩です。的確な分析です」一輝が言った。
「兄貴よ~。何故そんなに的確な分析ができるのに、単位が取れなかったんだ?」
「メンド臭かったど」
「それでは、ダメですな」龍之介が言った。
「新入りが、何か新しい風を吹かせてくれるかもな」恭次郎が言った。
「しかし、『三面拳』ってどうにかなんねぇだか? アレだべ? あのマンガだべ?」吉太郎が言った。
「そうですね。三銃士は古いし、三バカトリオは、先輩に対して失礼です。三羽ガラスってのもいまいちです。取り敢えず、三面拳で行きましょう。新入りが加われば変わるかも知れません」
「ソイツは強いのかな?」恭次郎が疑問に思った。
「強ければ居座るし、弱ければ逃げていくさ。弱い奴は必要ない」一輝は言い放った。
「我々の目標は、『日本一』です」龍之介が言った。
世が明けると同時に、一輝が「国士無双」を和了した。
夜明けとともに、次の城「上山城」(山形県)に移動した。




