第二話「役満行脚」
鳴鳳大学の学生四人が、若松城の公園の桜の木の下で麻雀を打っていた。
朱色に輝く鳳凰が吼えているスタジャンを四人とも着ていた。
「Meiho」とデザインされていたので、鳴鳳大学の学生であることが一目瞭然だった。
四人は、行き交う通行人に奇異な目で見られていた。
「アイツら、麻雀打ってるよ」
「鳴鳳大学の学生ね」
「あすこは、変わった学生が多いからね~」
「通報する?」
「麻雀打ってるだけだろう。見逃してやれよ」
全身黒ずくめの男が一瞥をくれると、通行人は足早に立ち去った。
ガラの悪のそうなのが三人いたので、誰しもが絡まれることを恐れている様子だった。
「三人は厳ついが、アイツだけ格好いいな」
「何で一緒にいるんだ?」
「(キャ~、カッコいい! 誰~?)」
「(たたずまいがステキね!)」
「(一緒に歩きたい!)」
「(写真を撮りたい!)」
一人だけ格上が参加していたが、それは外見だけではなかった。
通り過ぎる女子のほとんどが、彼の顔を確認していた。
麻雀に参加していたのは、
東:堂満吉太郎(鳴鳳大学6回生)相撲取りを彷彿とさせる巨漢だった。恭次郎の兄。
南:堂満恭次郎(鳴鳳大学3回生)細身の長身で、スタジャン以外が黒ずくめだった。目つきが悪く、狂気に満ちている雰囲気だった。見た目の割に礼儀正しく、兄想いで度々兄の犠牲になる。
西:天翔一輝 (鳴鳳大学3回生)鳴鳳大学古典研究部の主将(部長ではない)。麻雀を打つ姿が観衆を魅了した。昨年度の『雀武帝杯』オールカマー部門覇者。端っこに座っていても必ず目立つオーラを放っていた。
北:碧沢龍之介(鳴鳳大学2回生)中肉中背だが、四角い眼鏡と角狩りが相手を威圧した。一輝を師匠と崇めていた。
「白河小峰城で、役満を和了った、オラが親だ」ジャラジャラと牌が掻き混ぜられ、対局が始まった。
それぞれに牌山を積み上げたが異様に長かった。
17幢あるべきところが、21幢積まれていた。
「ん? アイツらの牌山、すこし長くね?」気付く人もいた。
【配牌】
東:吉太郎 東西中126三四九九②⑥⑦⑨ 打→西
南:恭次郎 南白白發2379四七八③③ 自摸 中→四
西:カズキ 北白白白發發中中68伍伍④ 自摸 5→8
北:龍之介 東東發北469二三三四六七 自摸 一→9
「?」通行人の一人の五十代紳士が違和感を抱き、南と西を行き来した。
「(おかしいな・・・。この時点で白が5枚見えている・・・。何故だ?)」
3巡後、親が切った中に一輝が食いついた。
「矻!」
西:カズキ 北白白白發發56伍伍 中中中 打→④
「! カズキ! 入っていたのか?」恭次郎が聞いた。
「ふっ! 良くあることさ、大三元の同時性だ!」一輝が答えた。
「三色の同時性みたいに言うな!」恭次郎が突っ込んだ。
「(大三元の同時性って何だ?)」紳士は物珍しそうに、対局に食いついていた。
一輝は難なく發を引き入れ、染め手に走った龍之介を討ち取った。
「お~!」一輝の和了に観衆が湧いた!
「何でぇ! 小峰じゃ二日かかったが、若松はたった一局かよ!」恭次郎がぼやいた。
「さぁ、片付けて次に行こう! 次は、白石城だ!」一同は片づけを始めた。
先ほど恭次郎と一輝の手を覗いていた五十代の紳士が疑問を抱いて一輝に聞いた。
「あんたら、城を巡って麻雀を打ってんのかぇ?」
「えぇ、そうです。大学の春休みの期間中に東北の城を一つ一つ訪ねる予定です」一輝は礼儀正しく応えた。
「学生さんは、自由でいいの~」紳士は暖かい目をした。
「サークルの特訓でもあるのです」一輝の受け答えに耳を傾ける女子が多かった。
一緒に写真を撮るタイミングを見計らっているらしかった。
「牌が多かったようじゃが?」
「えぇ、役満が出やすいように、字牌だけ8枚ずつ入っています」
「おんやぁ? 何と!」紳士は理解に苦しんでいた。
「通常の麻雀牌は、136枚ですが、字牌がプラス26枚。花牌がプラス4枚入っています。花牌は、字牌のオールマイティで使えます」
「なるほど、役満は麻雀の醍醐味だ! 面白い!」
「そうです。役満が出たら、次の城に向かうのです。名付けて『役満行脚』です。
春休みは短いので、全部回れるか心配です」
「今まで、他の地域は回ったのかぇ?」
「えぇ、去年の夏休みは東海地域を回りました」
「面白い学生さんたちじゃの~。気に入った。奢らせてくれ!」
「いいんですか?」
「いいとも! 若者はこうでなくてはいかん!」紳士は一輝たちを相当気に入った。
一輝が女子たちと写真を撮り終わるのを待って、食事に連れて行かれた。
地元でも有名なソースカツ丼屋だった。
そして、ご馳走になったついでに白石まで送ってくれることになった。
「何から何まで済みません」
「いいんじゃよ。礼儀正しい学生さん達じゃ!」
「どうも、ご馳走さまでした!」
ひと際礼儀正しく、ひと際声が大きかったのは、恭次郎だった。
お辞儀の角度は90°だった。
「小澤も来たかったんじゃねぇかな?」移動中の車内で恭次郎が呟いた。
「アイツは留守番だ。ここ一番で引きが弱い。そのくせ部長をやりたがる」吉太郎が言った。
「本当の部長は、一輝さんです」龍之介が言った。
「まぁ、誰でもいいよ」一輝は涼しげに言った。
一輝は当然のように助手席に座った。
他の三人は、後部座席に窮屈そうに座った。
「一番デカいのが、助手席に乗ったらどうだ?」と紳士は言った。
「お構いなく。我々の中の取り決めなのです」恭次郎が言った。
「私たちは、何事も麻雀で決めるのです」と一輝が言った。
紳士は不思議に思った。公平でもあり、窮屈そうにも思えた。しかし、これが彼らの中の決め事なので、それ以上は口を出さなかった。
車内では、紳士の学生時代の武勇伝に花が咲いた。
一輝は一つ一つ丁寧に聞いた。
恭次郎の相槌は大きく、それが紳士を気持ちよくさせた。
「麻雀界は、最近元気がないの~」紳士は心配そうだった。
「麻雀雑誌も減っています。我々のアホな活動を誰かがYou-tubeでアップしてくれると良いのですが・・・」恭次郎が言った。
「そういうことは、自分でやるものだよ」兄が諭した。
「まぁ、自分が楽しんでいれば、何かが変わるさ」一輝は言った。
「麻雀の大会はあるのじゃろうか?」紳士が尋ねた。
「ありますよ。年に一度の麻雀カーニバル『雀武帝杯』と言うのがあります。我々は、昨年度の全国大会準優勝です。そして、一輝は個人戦のチャンピオンです」恭次郎が言った。
「ありゃ~、大した人物と知り合ってしまったわ!」
「これも何かの縁です」一輝が言った。
白石に着いたのは夕方だった。
紳士にお礼を言って、全員で車が見えなくなるまで頭を下げた。
さて、『役満行脚』の再開である。
三回戦は徹夜麻雀になりそうだった。
四人は、桜前線とともに北上していた。
第三話「鳴鳳大学三面拳」に続く




