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血のせい

吸血系彼女(改稿版)

その日は、ほとんど眠れなかった。


 首元に触れるたび、昼休みに感じたひやりとした感触が蘇る。鏡を覗いても、噛み跡はもう残っていない。それが余計に現実感を奪っていた。


(……夢、だったのか?)


 そんなはずはない。制服の襟を正す指が、わずかに震えている。


 教室に入ると、いつも通りの朝の喧騒が広がっていた。誰も、僕を見ていない。――そのはずだった。


♦︎♦︎♦︎

今朝は席替えがあった。


 多くの男子高校生にはお楽しみイベントであり、クラス全体が一喜一憂するイベントだ。


だが今の僕には恐怖と絶望しか与えてくれなかった。


「おはよう、白銀くん」


 すぐ隣から声がした。


 心臓が跳ねる。視線を向けると、昨日と変わらない澄ました顔で、紅月蓮が席に座っていた。


「……ちゃんと来たんだ」


 それだけ言って、彼女は満足そうに微笑んだ。


 ――逃げる、という選択肢は。どうやら、もう残っていないらしい。


常に隣からの視線を感じながら午前の授業を終えた。


チャイムが鳴るなり、紅月さんは真っ先に席を立ちどこかに消えてしまった。


いつのまにかスマホには通知が来ていた


紅月 『昨日の場所で待ってる。今すぐ』


連絡先は教えていないはずだ。


翔は紅月の待つ場所に到着した。


先の出来事の恐怖で足がすくみ、足踏み出せなかった。


「……いるんでしょ?来て」


急に声をかけられドキリとした。


「……なんで、連絡先、わかったの?」


覚悟を決めて恐る恐る聞いた。


「……他の人のところにはいかないでねって、言ったよね?……それだけ」


「一度ちゃんと話したい……放課後は空き教室、きて?」


♦︎♦︎♦︎

〜空き教室にて〜

「……私、人には言えないことがあるの。」


 そう告げられた瞬間、ストンと自分の中でなにかが腑に落ちた気がした。


「私は君の血が欲しい。」


ただ断る理由が見つからなかった。

それだけだったはずなのに。


「いいよ……僕の血吸っても」


「その代わり、君も離れないでよ?」


 今の翔は求めてくれるのが嬉しかった。


「今日も吸う?」


 紅月さんは少し考えて

「……今日は、いいや」

 

なぜか頬を赤らめながら言った。


「……なんか、頬赤くない?」


「は?」

 即座に切り返された。


「これは昨日の血のせい、変な反応しないで」


 そう言って紅月さんは早足で空き教室から出ていった。


 今日の紅月さんはいつもより可愛いように見えてしまった。

 これは恋なのだろうか、

「……いや、これも血のせいかな」


――――――

⦅紅月蓮視点⦆

 廊下に出た瞬間、私は小さく息を吐いた。


(……吸わなかった)


 それだけのことなのに、胸の奥がざわつく。


 本当なら、昨日みたいに簡単なはずだった。

 血が欲しくなって、近づいて、噛む。ただそれだけ。


(なのに……)


 空き教室で見た白銀くんの顔が、頭から離れない。

 怖がっているくせに、逃げなかった。

 拒まなかった。


(血の味、変わってきてる……)


 最初は「美味しい」だけだった。

 でも今は、それだけじゃない。


 触れたとき、離れたとき。

 吸わないと決めた理由を、私は説明できない。


「……血のせい」


 そう呟いて、自分に言い聞かせる。


 それでも胸の鼓動は、なかなか静まらなかった。


(……離れないでよ、白銀くん)


 その言葉だけが、やけに本音だった。

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