距離を置くほど、近づくもの
朝、いつも通りに席に着く
二人の間は数十センチしかないのに、
その距離を、今日はやけに遠く感じた。
無視されているわけではない、話しかければ答えてくれる。
ただ、今日はそれ以上でも以下でもなかった。
でも、周りの様子は明らかに違っていた。
僕らの一挙手一投足までも注目されている気がした。
声を出すたび、教室のどこかが、静かになる。
目を合わせるだけでも誰かが気づくのではないかと思う。
結局、その視線の正体は分からないまま、時間だけが進んだ。
重たい空気を抱えたまま、昼休みのチャイムが鳴る。
「あれ? 最近ずっと一緒だったよね?」
「今日は違うんだ」
背後からそんな声がする。
関係を守るため……
そう自分に言い聞かせながら教室を後にした。
♦︎♦︎♦︎
久しぶりの一人飯。
ほんの数日前まで普通だったはずなのに、箸がやけに軽く感じた。
ヴヴヴ…
ポケットでスマホが振動する。
紅月『あんまり話さなくてごめん……』
『今日の放課後会える?』
画面を見つめたまま、しばらく指が動かなかった。
会いたい。
でも、会っていいのか分からない。
周りの視線、朝の空気、あの距離感。
全部が頭の中で絡まって、簡単な返事ひとつが重く感じる。
ヴヴ…と、もう一度振動。
紅月『変だよね、私』
『守ろうとしてるのに、離れるのが一番つらい』
その文面を読んだ瞬間、
胸の奥がきゅっと締めつけられた。
守るための距離。
でも、その距離で傷ついているのは、
きっと僕だけじゃない。
指が、勝手に動く。
翔『変じゃないよ』
『むしろ……俺の方が何もできてなくてごめん』
『放課後、会おう』
送信してから、
心臓の音がやけにうるさくなった。
一人飯のはずなのに、
もう味はほとんど分からなかった。
放課後。
また、あの距離の答えを探す時間が始まる。




