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姫君は人魚に愛される 〜政略結婚から逃げたら、人魚の娘に求婚されました〜  作者:


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02. 救いのない二択の結婚

 ヨルの自室は、常に水の音に満ちていた。


 それは、海に繋がった人工滝の泉の中で、絶えず海水が流れ落ちる音。

 海をこよなく愛する、アクアリア王国王女ヨルが、わざわざ自室に作られた特注品の滝壺だった。


 ヨルは部屋の窓辺で滝の音を聞きながら、朝日に煌めく海の水平線をぼうっと眺めていた。


―― ねぇ、ヨル、ひかりとケッコンしよう?


 思考を手放すたびに、昨日の人魚のひかりに言われた言葉がヨルの脳内に木霊した。


(結婚……そう、あの忌まわしいガイアム王国との婚約の話は、どうなったのでしょう……)


 それは、ヨルが危険を顧みず家出をした唯一の原因であった。


 アクアリア王国第四王女のヨルは、海をこよなく愛している。

 将来は、姉たちのように、周辺の臨海国家の王族か、城下町の貴族に嫁ぐものだと思っていた。


 しかし父と兄が用意した縁談は、愛する海から遥か遠く、山の中にあるガイアム王国の王子に嫁ぐという、あまりに過酷なものだった。


 愛する海から離れて山で暮らすか、人魚を娶るか。

 あまりに救いのなさすぎる二者択一に、思わずヨルは苦笑した。


「なんだか、難しい顔してるんだね? 答えは決まったのかなぁ?」

「ひぇっ」


 急に耳をくすぐった吐息と透き通った声に、ヨルの喉からは高い悲鳴のような声が漏れた。


「ふふっ、ひかり、昨日のかっこいいヨルの声も好きだけど、今のかわいいヨルの声も好きだよ」


 ひかりが喋るたびに、耳を吐息がくすぐった。


「ひかりは、ヨルがぜーんぶ好きなの。ねぇ、ケッコンしよう?」


 その甘い囁きに、ヨルの鼓動は高鳴るばかりだった。

 その胸の高鳴りが何によるものなのか、ヨルには判断ができていなかった。


「ひ、ひかり……貴女は人魚で、私は人間です。それに私たちは女性同士だし、結婚しても、その、子どもを授かることはできませんっ」


 ヨルが顔を真っ赤にしながら、ひかりから少し離れてそう言うと、ひかりはくすくす笑った。


「なんだ、ヨル、そんなこと気にしてたんだ。ひかりはね、魔法が得意なんだよ。ほら、ニンゲンにだってなれるんだから」


 ひかりがそう言った次の瞬間、ひかりの足は眩い光に包まれた。

 ヨルはその光景に息をのむ。

 しばらくしてシルエットが人魚の尾から人間の脚に変わると、光が徐々に収まっていった。


 その光が収まった時、目の前に立っていたのは、人間の脚を持ったひかりだった。

 しかし、その姿にヨルは思わず息をのみ、顔を真っ赤にして両目を覆った。


「ひ、ひかり、貴女、下半身に何もお召しになっていないではないですかっ」


 人魚の尾から変わったひかりの脚は、一切の衣服を身に着けていなかったのだ。


「ヨルにならぜーんぶ、見られても大丈夫だよ。ほら、見て、ちゃんとニンゲンでしょう? 交尾のときはヨルの中をひかりの愛でたっぷり満たしてあげる。それでどう?」


 ひかりはヨルに身体を寄せ、その手を取り、そのままヨルの手ごと自分の脚を撫でた。

 少しひやりとした滑らかな肌触りに、ヨルは息が止まりそうになった。


「ち、近いです、ひかりっ」

「ニンゲンの交尾は、もっと肌を寄せ合うんでしょう? 結婚する前に、子どもをちゃんと授かれるか、試しておく?」


 吸い込まれそうなほど綺麗な太陽色の瞳を細め、まっすぐにヨルを見つめながらひかりは言った。

 その口元は笑っていたが、からかっているわけではなく、これは本気だと、ヨルの本能が告げていた。


 ヨルが何も言えないでいると、ひかりは自分の脚を撫でさせていたヨルの手をそっと離す。

 そして、ひやりと冷たいその掌を、服の上からヨルの身体に這わせ始めた。


 背中から熱が昇るのを覚えながら、ヨルは恐怖と快感の区別がつかずに声を失う。

 ひかりの掌はヨルの腰をそっと撫でたあと、抱きつくように背中に回され、そのまま薄い生地越しに、ヨルの肩甲骨の感触を確かめるように辿った。

 それは、まるで宝物を扱うように優しく、無垢で、純粋な感触だった。


 やがてひかりの手が肩を超え、指で鎖骨の滑らかなラインをなぞると、ひんやりとした掌がヨルの頬を包みこんだ。

 吸い込まれそうな太陽色の瞳が閉じられ、ひかりの顔がヨルの顔に近づく。

 甘い吐息が唇に触れるほど近くなったところで、ようやくヨルの本能が、これ以上させてはいけないと悲鳴のような警告を発した。


「いっいけません、ひかり!」


 そう言いながら、ひかりの身体を押しのけた。


「け、結婚もしていないのに……それに、貴女のことをよく知らないのに、こんな、きっ、キスだなんて、だめですっ!」


 ひかりは、口をすぼめて、一言だけ零した。


「ケチ」


 そして、ヨルに背を向け、昨夜ひかりが消えた、部屋の隅の人工滝の泉の縁に手をかけた。


「まっ、待ってください、ひかり!」

「なあに、ヨル? ケッコンしてくれる気になったのかな?」


 このままだと昨晩のように消えてしまうと思ったヨルが呼び止めると、ひかりは微笑みながら振り返った。


「なんで、あなたは、結婚を求めるのですか……っ」


 ヨルがずっと胸にあった疑問を投げかけると、ひかりは不敵に笑って答えた。


「だって、ヨルが好きなんだもの。ニンゲンは、ケッコンっていうので、生涯のつがいを決めるんでしょう? なら、ひかりとヨルがケッコンしたら、ずっとずっと一緒にいられるってことだよね」


 ひかりは当然のことのように答えた。


「なぜ、貴女は、その、私を……」

「綺麗だからだよ」


 ひかりはうっとりとヨルの顔を覗き込む。


「夜空を閉じ込めたような長い髪、真珠のような肌、整った顔……。深く吸い込まれそうな瞳と、透き通った美しい声も、すごく綺麗」


 ひかりはそう言って、ヨルの髪を一束すくい上げると、自分の唇に乗せた。


「私、綺麗なものが好きなの。だから、綺麗なヨルを、ぜんぶひかりのものにしたいの」


 ひかりの口から次々に出てくる褒め言葉に、ヨルの頬は赤く染まり、胸のうちには熱が広がっていった。


「人魚であることは、ケッコンの障害にならないってわかったでしょう? 次は、いい答えを聞かせてね。じゃあね、ヨル」


 ひかりはそう言って、水の音が絶え間なく響く部屋の隅の滝壺へと、迷うことなく身を投げた。

 光を帯びた脚は、水に触れると尾に戻り、ひかりは泡のようにヨルの視界から消え去った。






「人魚と姫」読んでる方はご存知かもしれませんが、作者は、女の子には生えてないのが好きです。

交尾も生えてないままがいいと思います。

あくまで、作者の好みです!

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