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群青
眼下に広がる喧噪は、昨日と変わらずに平和そのものだった。
何も変わらない、何も違和感の無い――空々しいまでに空虚。
そして、それは偽りの上に成り立っていることを知らないようだった。
だから、守るのだ。
「私が――」
群青の少女は、一人空の紺碧に紛れながら言う。
決意を込めるように、そして決別するように――何かを得るために、何かを捨てるような……そんな感情を込めて。
「――守ってみせる」
言葉にしたことの意味と重さを、少女が理解かっていなかった。
背負うことの辛さも、その全容を理解かっていなかったのだ。
そして、そんな少女は未だ知らない。
まだ自分の運命の歯車が、決定的に欠如していることに。
まだ噛み合わずに、蹈鞴を踏んでいることに――気付いていない。
少女は、未だ出会っていない。
名も無き英雄に、出会っていない。
「必ず、守ってみせる……だから、待ってて」
そうして少女は、再び群青の中へと消えていった。