芸術は爆発だ!
ヴェイルさんの店を後にした俺たちは、一旦ギルドの方に行って見ることにした。
目的は情報収集。
人が集まるところには情報が集まるし、現状何をするにしても情報は必要だ。
「さて、そうは言ってもどうしたもんかな」
新しい軽防具に身を包んだ俺は、ギルドの前で腕を組んで思考を巡らせる。
昨日のギルドからの報酬もたんまりと入ってきたし、こうなれば本格的に『くそ女神の方の依頼』もこなさなくてはいけない。
「そうだよなぁ……おれっち達も相棒から聞くまで空から隕石が降ってくるなんて聞いたことなかったし、今のところは手詰まりって感じなのか?」
「そうだよなぁ。今のところ宛があるにはあるが……協力をしてくれる気配はないし」
「女神さまは何か言っていなかったんですか?」
「うーん……あのクソ女神なんか言ってたかな?」
リリアにそう言われて、俺はこの世界に飛ばされる前のくそ女神との会話を思い出そうとする。
しかし、思い出せるものとしては手元に揃っている情報以上のものはなく、俺は本日何度目になるか分からないため息を吐き出した。
「ダメだ、今分かってる以上のことをあのクソ女神は言ってなかった気がする……ただぶん」
「ひ、一つ質問なのですが……いいですか?」
おずおずと言った感じで可愛らしく手を上げるリリアに、俺は「はいどーぞ」と促す。
「今の段階で、ユウさんはどうやって隕石の落下を防ごうとしているんでしょうか? 何か秘策だったり、とっておきの魔法があったりするのでしょうか?」
「まぁ、一応あるにはあるんだけど……現状だと三つ足りないものがある」
「三つ? それはなんだよぉ、もったいぶんなよ相棒ぉ」
ぐいっと近づいて来るミハエルに、俺はげっそりとした顔をする。
おい、ほんとそろそろ一発こいつを殴らせてくれ。
「一つが、隕石にどでかい穴を開ける方法だな。恐らくは岩の塊だろうから、それを短時間で掘り進める道具か何かしらの魔法が……」
俺はそう言いながら、不思議そうな表情を浮かべるリリアの方を見た。
あれぇ、一つ解決出来そうじゃねぇ?
それは昨日の朝に見たリリアの魔法。
あれを活用すれば、割ときついと思っていた障害の内の一つがクリアできてしまうんじゃないか……?
「あ、あの、ユウさん? そんなに見つめられるとと照れてしまいます……」
「おい、てんめぇ! いくら相棒だからって嬢ちゃんに色目使ってると祟っ殺すぞ!」
もじもじとしながら頬を染めるリリアを見て、ミハエルが怒りを爆発させて俺に迫ってくる。
「い、いや、そういう訳じゃんなくてさ……リリア、ちょっと聞きたいんだけどいいか?」
「は、はい。私に答えられるものでしたら」
俺は少し言葉を脳内でまとめてから喋り出す。
「穴を掘る時に使ってた魔法なんだけど、あれって距離とかの制限ってあったりするのか? できるなら距離とかに制限があるのか聞きたいんだけど……」
「制限は特にないと思います。たぶん魔力を注げば注ぐほど、大きな穴は作れると思います……すみません、あまり良い回答ができなくて」
「なるほどな。まあ、この辺りはおいおい検証するとするとして、他の二つが大変ちゃ大変なんだよな」
「そうなのか?」」
ミハエルの返事に、俺はうなずく。
「もう一つが、そもそも隕石へどうやって行くか……あとは、大爆発を起こせる魔法か魔道具辺りが必要だな」
「だ、大爆発ぅ……?」
俺の言葉を聞いたミハエルがプルプルと震え出す。
え、なに急にコイツ……こわ。
俺が若干引いていると、ガバっと顔を上げて俺に近づいてくる――
「——相棒それって、最高に芸術じゃねぇか!!!」
ミッドレイ・郊外。
あの後、ギルドである程度情報収集をしてから……と言っても、ミハエルが興奮してそれどころじゃなかったんだが。
それでも何かないかと聞き込みをしてから、俺たちはミッドレイの外れにある『ミハエルのアトリエ』に向かっていた。
ミッドレイの中心地とは打って変わって、辺りは静かな住宅街になっていた。
真っ白な石造りの家が並ぶさまは、まさに高級住宅街といった様子だ。
リリアなんて「わ、私なんかがこんなところ歩いていて怒られないでしょうか……」と聞遅れてしていたくらいだ。
そんな俺とリリアは、ミハエルについて行く形で住宅街の中を歩いていた。
と、ミハエルが振り返って俺の顔をニヤニヤしながら見てくる。
「なんだぁ、相棒も芸術が分かる男だったんだな!」
「……だから、別に芸術作品を作りたいわけじゃないって何回説明すればいいんだ?」
「ま、まあでも、それでミハエルさんの『作品』を使わせて頂けるのはありがたいですよね?」
リリアの言葉に、先ほどあった出来ごとを俺は思い出していた。
隕石を内部から破壊して、大陸に激突する前に爆発させちゃおうという作戦——と言っても、隕石を食い止めるといったら某映画の方法しか思いつかなかったから仕方なくだが――を聞いて、ミハエルは急に眼を輝かせた。
なんでも、彼の中の芸術の琴線に触れたらしい。
よく分からないけど、芸術は一瞬の爆発に全てを出さなければ意味がないとのこと。
『そんなのおれっちの最高傑作を使うしかねぇじゃねぇか!』
と言って、俺たちを生前住んでいたというアトリエに行く事になった。
ミハエルから何を俺たちに見せたいのか聞いたけど、それは見てからのお楽しみらしい。
と、雑談をしながら歩くこと数分ほどして目的地が見えてくる――
「——お、あそこだ!」
視界の先に目的地を見つけたらしいミハエルが浮遊する速度を上げる。
俺とリリアも、それについて行くように小走りになって追いかけた。
「ここがおれっちのアトリエだぜ!」
俺たちの方を振り返り、ミハエルが自信満々な笑みを浮かべてくる。
しかし、そんなミハエルの表情とは裏腹に俺とリリアは唖然とした表情を浮かべていた。
それは目の前にある建物が、俺たちの想像を超えていたからだ。
辺りにある綺麗な家とは違って、家の外壁や塀には至るところに落書きがされていていた。
その壁を覆うように蔓が這っていて、人の手が入っていないことが一目で分かる感じ。
バサバサ、と手入れのされていない庭からカラスらしき黒い鳥が飛んで行く。
「……なぁ、リリア。これって?」
「は、はい。ユウさんの言いたいことはなんとなく分かります」
俺たちの目の前にあったのは、放置されて廃墟と化した――幽霊屋敷だった。