何はともあれ依頼達成だな
「――ユウさん!」
「相棒ぉ、遅かったから心配しちまったじゃねぇか! まったく、本当に困ったちゃんだなお前はぁ!」
茂みから顔を出した俺に、リリアとミハエルが駆け寄ってくる。
俺は二人に申し訳なさを覚えながら、苦笑いを浮かべた。
「悪い、ドゥクライと戦ってたら道に迷った」
半分本当で、半分嘘だ。
あの後、信号弾を確認した俺は、一応ドゥクライと闘っていた場所へ引き返した。
幸い、そこまで離れた位置では無く、すぐに現在位置とドゥクライの姿を確認することが出来た。
辺りを忙しなく見渡していたドゥクライは、茂みに隠れる俺に気が付くこと無く――そのまま、巣のある方角へ飛び去っていった。
辺りに俺の気配が無かったことを察して、自分の巣に戻ったのだろう。
これなら当分の間、ドゥクライが自らの巣から出ることは無い。
恐らくだが、依頼の最低条件達成できたと俺は判断した。
リリアたちの方も特に危険はなく巣に卵を運べたらしい。
俺たちはミッドレイへ帰る道すがら、リリアとミハエルと共にお互いの健闘を称え合いながら、情報共有を行った。
正体不明の女については触れず……というよりも、余計な心配をかけないためにあえて説明を省きながら、ドゥクライとの戦闘について説明をした。
そんな俺の説明を聞き終えたリリアは、安堵の表情を浮かべる。
「そうだったんですね……でも、無事で良かったです」
「あのドゥクライ相手に、ろくな装備や対策も無く生きて帰ってこれたんだ。ギルドの連中は絶対に驚くぞ!」
なぜか自慢げに言うミハエルに、俺が突っ込む気力が無かった。
思い返せば、単身であれだけの戦闘をしたのは久しぶりだった。
一人での戦闘は、一瞬の油断や気後れが死へ直結する。
自分の背中にピタリと死が纏わり付く感覚は、仲間が出来てから疎遠となっていた。
背中を預けて戦える仲間の存在に、いつからか頼り切りになっていたのか。
この世界で今のところ戦えるのは俺だけ。
これから起こることを考えたら、もっと用心しなければいけない。
――そんなこと、師匠が知ったらぶっ飛ばされるな。
記憶の中で蘇るのは、地獄の様な特訓の日々。
あの鬼のような人が隣にいたら、
『なんだお前、一人だったら世界すら救えないってか? 私は、そんな風にお前を教育したつもりは無いぞ? 常に最悪を想定しながら、最善の選択肢ってのを探すのが、一流の殺し屋だ。……あぁ? 俺は殺し屋になるつもりはない? お前、ぶっ飛ばされたいのか?』
……なんて感じで、ありがたい言葉を送ってくれるだろう。
その後にしっかりぶっ飛ばされて、顎に割れるような衝撃が走るところまで想像出来ちゃう。
少し足を止めていた俺を、先を浮遊するミハエルが不思議そうな表情をして振り返った。
「ん? どうした相棒?」
「いや、別に……それに気になってたんだけど、その相棒ってのやめてくれ。なんか悪寒が走る」
「おいおい、おれっちと相棒の仲だろ? んな水臭い事言うなよぉ!」
そんな言い合いをしながら、俺たちはミッドレイへと帰るのだった。