冒険者ギルド!
「ここがギルドです」
お礼と謝罪を言うリリアは、あれからすぐに元気を取り戻せたようで、すぐに路地裏を後にした。
そうして、当初の目的地であるところのギルド前に俺たちはいる。
「これまた随分とデカいな」
石造りの、堅牢そうな印象の建物だった。
高さはその辺の建物とは比較にならないほどに高く、十メートルは軽く超えているだろうか。
扉は無く、人間の背丈の三倍はある入り口には、老若男女様々な人間が往来していた。
皆表情は様々で、活気があるというよりは、雑多な場所という印象だ。
過度な装飾類は無く、見た目よりも実用性を重視しているような雰囲気だ。
必要に応じて増築をしたのだろうか。建物の西側と東側で、色の違う石材が使われているようだ。
「ミッドレイの中でも特に大きな建物ですね。なんでも、観光地としても有名なんだとか」
「そりゃこれだけデカければ名所にもなるわな」
「あぁ、首が痛くなりそうだぜ」
痛くなる首なんて無いミハエルを無視して、俺とリリアはギルドの中へと歩き出した。
中は、受付嬢がいるカウンターと、無数の依頼の羊紙が貼られた巨大なボードがあるだけの巨大な空間だった。
天井は高く、今も入り口と同様に無数の人が、部屋の様々な場所で会話なり話し合いなり、雑談なりにふけっているようだった。
「まずは、受付か」
リリアは頷き、俺たちは受付カウンターへ向かう。
向かってくる俺とリリアに、受付嬢は綺麗極まりない営業スマイルと一礼をしてくれる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
俺は受付嬢へ用件を伝え、ギルドへの登録をすることになり……別段面白いこともないし、ただ書類を書くだけだったので、以下略。
手続きが完了して、俺は手渡されたライセンス代わりの腕輪――なんでも魔術でその人の個人情報とかが刻印されているらしい。これが無いと、ギルドで仕事を請け負う事が出来ないらしい――を、腕に嵌めた。
「……マジで簡単になれるんだな、冒険者」
俺は小さく呟いた。
リリアの言っていたことは、どうやら本当だったみたいだ。疑ってはいなかったが、こうも簡単になれると拍子抜けしてしまう。
「私も、登録できてしまいました……」
なぜ、リリアが冒険者に登録なったのか。
それは、なぜか用意された書類が二つあったからだ。
俺だけの登録をお願いしたつもりだったのだが、なぜかリリアの分まで用意されていた。
俺が断ろうとして……しかしなぜかリリアは、決然とした瞳でその書類に筆を走らせ始めたのだ。
理由を聞いたら、
『今のままじゃダメな気がして……私、強くなりたいんです!』
とのこと。
そんなこんなで、俺やミハエルの説得は徒労となって、そのまま流されるようにして、新たに二人の冒険者が誕生したのだった。
「なぜだ……嬢ちゃんは出来たのに、おれっちは冒険者になれなかった……」
「なんで幽霊がなれると思ったかが謎だ」
「これは差別だ! 明確な差別がこのミッドレイに充満している!」
落ち込んでいたミハエルは、俺の方にバッと視線を向ける。
「相棒はあれにしても、嬢ちゃんすらなれたんだぞ! おれっちだってもしかしたら受付の女の子に見えて、ちゃっかり冒険者になれるかなぁ――って淡い期待をしたっていいだろ!?」
「見えたらたぶん、登録どころじゃなくなってるだろ?」
「嫌だぁ! おれっちだけ仲間はずれなんて嫌だああああぁぁぁ!」
そんなこんな言いながら、俺は息を吐き出した。
冒険者は誰でもなれる分、腕っ節だけが求められる世界だ。
それに、これだけ簡単になれてしまうということは新陳代謝の激しい職業であることの証明でもある。
どこの世界も大変なんだな、と俺は心の中で苦笑いを浮かべた。
「それじゃあ、どんな仕事があるか見てみるか」
そうですね、と頷いたリリアと一緒に依頼が張り出されている巨大なボードに行こうとしたところで――
「――た、大変だ!」
血相を変えた声が、ギルド内に響き渡った。
建物にいる全ての視線が集まるその先には、脂汗が全身から吹き出して、膝から地面に崩れ落ちている男がいた。
近くにいた何人かの冒険者が、男の元へと向かっているのが見える。何かあったんだろうか?
「何か、あったんでしょうか?」
同じ事を思ったらしいリリアに返答をしようとして――しかし、その声は先ほどの男の声にかき消されてしまった。
「飛龍が――『ドゥクライ』が出たぞ!」