ミッドレイに来た!
広い。
「おぉ! 広い街だなぁ!」
俺は、目の前の光景に感嘆の声を漏らした。
新天地に来るたびに思うことなのだが、人が集まる都市の活気というのは、心が毎度躍ってしまう。
リリアの家から、行商の馬車に拾ってもらい二時間ほどだろうか。
それほど距離は離れておらず、リリアの家から街へ伸びた馬車道を真っ直ぐに歩いただけで目的地に辿り着けた。
辺りを山岳で囲まれたところに城壁を築き、独自に発展を遂げた貿易都市――それが、ミッドレイだ。
石と煉瓦が建築物に使われ、道も石畳によって綺麗に舗装されている。
馬蹄と石によって鳴る軽快な音が、音楽のように街の活気と熱気に音色を持たせていた。
陽気に笑う店主の男、売り子をする少女に、昼間っから飲んだくれている爺さん、怪しい液体を入れた小瓶を売る婆さんに、目深くフードを被る謎の人物、楽しそうにはしゃぐ子供たち。
ついこっちまで笑顔になってしまう、陽気な喧噪だ。
今は戦時中とかではないため、街に入るのに通行証や手形は必要ないらしい。
そのためか、俺を含めた様々な人種が入り乱れ、人の流れを作り、人垣を唸らせていた。
「ギルドまで少し距離があるので、その途中にある出店でお昼にしても構いませんか?」
「あぁ……って頷いてはみたものの、俺って無一文なんだよな」
がっくりと肩を落としながら、しっかりと女神に復讐することを心に誓った。
「大丈夫です、そこはしっかりと私が払いますし、後で三倍くらいにして返済してもらうので安心してください」
そう言って笑顔を浮かべ、楽しそうに前を歩くリリア。
うん、可愛いからそれくらいの上乗せしちゃうぞ。
それに普段はあまり外出をしないらしく、久しぶりにミッドレインに来たことで浮き足立っているのだろう。楽しそうなのは、良いことだ。
「……それにしても」
こんなにひもじい思いをしたのは、いつ以来だろうか。
前の世界で感じていたひもじさは肉体的に来ていたが、今はなんだか精神的に来るものがある。
もしリリアと知り合っていなかったらと考えると……うん、悲惨すぎる未来しか想像できない。
きっと今も天界でこの光景を見ながら、俺をこんな目に遭わせた張本人は楽しそうにポテチでも食べているのだろう。
クソむかつくが、まあ現状を嘆いているだけでは始まらない。
ギルドに行き、当面必要な額をちゃっちゃと稼ごう。俺は密かに誓うのだった。
そんなこんなで、リリアとミハエル――どうやらミハエルは俺とリリア以外には見えていないらしい――とで会話を繰り広げながら、ミッドレイの大通りを歩いていた。
よく分からない肉――ウバルとかいう四足歩行の草食獣――の串焼きを食べたり、武器屋やら雑貨やらを、リリアが案内してくれる。
と、そんな矢先だった――
「――あれ?」
俺は辺りに視線を巡らせる。これからギルドの本部へ向かおうと話していて、大通りに出た……その瞬間の出来事だった。
一瞬、二人から視線が外れて怪しげなアクセサリーを売る店主と目が合う。
買う意思が無いことを態度で告げ、視線を元に戻すと誰もいない。
「リリア? ミハエル?」
二人の姿は、まるで煙を巻いたように消え去っていた。
いや、一瞬立ち尽くしていた俺を二人が置いていったのだろう。
そう、俺は迷子になってしまったのだった。