第零話「誰かにとってのヒーロー」
駅のホームを寂しく色付ける蛍光灯の下、立って終電を待つ、人の少ないホームを吹き抜ける風が肌寒い
ポケットから一枚の写真を取り出す、幼い自分がヒーローの仮面を被り、不器用なのに作った歪んだ段ボールの剣を持っている。
誰かのヒーローになる為に警察とか消防士とか、人々を守る職に就こうと奮闘したが叶わなかった
それでも俺は夢はいつか叶うと信じ続ける
「わかってるよ...夢見てるだけじゃ駄目な事くらい...」
誰にも聞こえない小声で呟いた後、周囲を見渡すと、一人の会社員が妙に明るい笑顔で歩きホームの淵に佇む
遠くから踏み切りの音が聞こえ、電車の明かりが近づいてくる
いつもはわかりきった内容のアナウンスが今ははっきりと聞こえる
「黄色い線の内側にお立ちください」
それでも会社員はホームの淵から動こうとしない、後一歩踏み出せば冷たい石と線路の上に転落する程ギリギリを立っている
次の瞬間、電車が後数十メートルで駅のホームに辿り着こうとする時、会社員は一歩を前に出すが宙に空振り体制を崩す
「危ない!」
荷物を放り投げて会社員の元に走り、会社員を掴み、駅のホームの内側に投げ飛ばすが、俺は会社員を助けるのに必死で、自分が戻る算段を立てていなかった。
不思議と後悔は無かった、寧ろようやくこの時が来たんだと思った
人々の悲鳴と電車の汽笛、落下速度も電車の走る速度も全てが遅く感じる
遅くなった時の中、もう俺の脳はこの状況を打開する方法なんて今までの記憶の中には無いと判断してのか、走馬灯は見えなかった
眩しくて目が眩む電車のライト
これから自分がどうなるのかを悟り、最期の言葉を遺す
「最期の最期になれたかな、誰かのヒーローに」
時間の流れが元に戻り、線路上に落ちる
激痛と共に電車の車輪が腹部を一瞬で押しつぶす
「...!!!」
背骨が砕ける悲痛な音、内臓が破裂する生々しい音
血溜まりを通る車輪が立てる水の音
そんな音が辺りに響いてるんだろう
激痛の余り声が出ないのか、内臓が潰れ声を出す事すら出来なくなったのかわからない
直ぐに痛みすら感じなくなる、思考も意識も消えかかる、脳の機能が停止していく、生命が消えゆく儚い感覚
最後の力で駅のホームの上を見つめると、助けた会社員が怯えた目で俺の体を見つめている
俺....ちゃんとあの人を...助けてあげられたかな?
そんな疑問が解消される事は無く、
一人の人間の人生の幕が下りた