2 魔弾の特訓は意味はあるのか?
翌日の昼休み、そいつに声をかけられた。
「ちょっと話いい?」
安木 桃はそう言った。
「面倒事は嫌だね」
「じゃあここで話してもいいの?」
「それはもっと面倒なことになりそうだ。外へ行こう」
「じゃあついて来なさい」
ついて行ってみると、俺たちは屋上についた。
「さて――少し質問いいかしら」
「いいぜ、なんでも答えてやるよ」
「あなたはなぜ実力を隠しているの?」
「別に隠してるわけじゃないって言っただろ」
「そう……じゃあ次の質問、あなたはなぜそんなにも実力を持っているの?」
「俺にもよくわからん」
「……何か隠す理由はあるの? あるなら黙っておくわ」
「そこまでないが、俺はあまり目立つことが嫌いなんだ。できれば言わないでくれ」
「わかったわ」
そうして俺は階段を下りようとする。すると桃が何か言った。
「あなたはその力を悪用するつもりはないよね?」
「今のところはないな…………」
「わかったわ。それと放課後って空いてる?」
「少しだけならな」
「よかったら私の練習に付き合ってくれない?」
「嫌だね」
「もしもあなたが強いことを拡めると言ったら?」
「ならやるしかないな」
「じゃあよろしくね」
俺はものすごくめんどくさそうな顔をしながら――
「わかったよ…………」
そうして俺が階段を下りようとした瞬間のことだった。とてつもない轟音が聞こえてきた。その直後、放送が流れた。
「みなさん、学内に魔獣と侵入者が入って来ました。外に避難をお願いします」
「マジか…………」
俺と桃は驚いた顔をした。
「早く逃げましょうか」
「そうだね」
俺たちはすぐに階段を一階まで下りる。すると、後ろから足音がした。俺は瞬時に振り向き桃を連れて距離を取る。
「こいつはまずいな…………」
そいつは明らかに学生じゃない見た目をしていた。
「おいおい、人を見るなり急に距離を取るなんてないんじゃないか?」
「怪しいやつに近づけって言うのか?無理な話だな」
「悪い子には躾が必要だな!」
急に地面が揺れ出し、俺と桃はバランスを崩す。そして俺は即座に体制を立て直し、桃を安全な場所に避難させるために外へ風で吹き飛ばした。
「女を助けるとは、お前いい男だな〜」
その怪しい人間はそう言った。
「そうか……なら見逃してくれたりしないか?」
「無理な話だな」
そうして地面が再び揺れ出す。しかし、俺は風魔法を使って空を飛ぶ。
「お前、風魔法使いか?随分とやるみたいだな」
「そうだよ、俺は最弱の風属性だ」
「どうでもいい、早く死ね」
すると、地面がいきなり崩れて!? 俺は咄嗟にその攻撃を避ける。地面の破片が天井に刺さっていた。
避けた後、俺はそいつの背後に高速で移動をする。そして、そいつは俺の拳に反応できずに吹き飛んでいく。そいつに当たった壁は崩れていった。
「倒したか?」
「まだ全然ピンピンしてるぜ」
そいつは吹っ飛んだはずなのに当たり前のように起き上がった。
「やっぱり油断は禁物だな。少し手加減しすぎたよ」
するとそいつは魔法で岩を生成した。その岩がこちらに高速で飛んでくる。だけど、その石は反射するようにそいつに飛んでいく。そしてそいつに直撃した。
「お前…………何をした?」
そいつは驚いたような顔をした。
「ただの風魔法さ」
「ただの風魔法がこんなことできるわけないだろ……」
「お前と本気で戦いたいところだが、今日は本気を出すなと言われてるからな。すまんが、また今度会おう」
「あ?逃がすとでも――」
そいつは俺が喋ろうとした瞬間、モグラのように地面に潜っていった。
「クソ……逃したか」
俺は舌打ちをした。
「とりあえず荒らしすぎちまった。人が来る前に逃げるか」
俺がどこかに行こうとした瞬間、声をかけられる。
「待て! どこへ行くんだ?」
そこには赤髪のメガネをかけた制服の人間がいた。
「俺はここの生徒だ。ここには……たまたま通りかかっただけだ」
「そうか、ならば早く外に避難するといい。まだ魔獣がそこら辺を彷徨いているからな」
「わかった。すぐに外に出るよ」
なんとか面倒くさくなることを回避することができた。俺がここら辺を荒らしたとバレれば色々とまずいからな。
そうして俺は走りながら外へと向かう。外に着くと桃がいた。
「あなた……急に吹っ飛ばされて痛かったんだからね!」
「悪かったな」
「てか何よあの風の威力!」
そんな話をしていると、先生たちが外にやってきた。
「魔獣は全て討伐しました。今日はもう下校にしたいと思います。気をつけて帰ってください」
先生がそう言うと生徒たちが「よっしゃぁ!」とみんなで揃えて言った。すると、桃の顔が不機嫌そうな顔になって――
「学校は学べて楽しいのにみんななぜ喜ぶのかしら……」
「お前は嬉しくないのか?」
「全く嬉しくないわ」
俺は少し「異常だなぁ」と思いつつ「すごいなぁ」と感心もするのだった。
そうして一日が経ち、俺は桃の練習とやらに付き合わされていた。
「めんどくせぇ……これ俺いる意味あるか?」
俺はものすごくめんどくさそうに言った。
「あなたって風魔法以外の他の魔法使えないんでしょ? 唐須くんから聞いたわ」
「うげっなんであいつ教えるんだよ」
「他の魔法を練習すればいいじゃない」
「俺はそもそもの話、他の魔法が下手なんじゃない、使えないんだ」
「何言ってるの? 流石に少しぐらい使えるんじゃない?」
「それが全くと言っていいほど使えないんだ。魔弾すらまともに打撃てない」
「そうなのね……でも魔弾は撃てはするんでしょ?」
「そうだな」
「じゃあそれを練習しなさいよ」
俺は練習しても無意味だと思ったが……
「まあ、わかったよ」
俺は桃と木に向かって夕方まで魔弾を撃ち続けていた…………