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俺の『能力』

「さて、では、『スキル』の説明をしますね」

「え、能力はもらえないんじゃなかったっけか?」


 時は戻って天界。いや、本来はそんな名前ではないだろうが、とりあえず、この、天使たちが『世界の狭間』と呼ぶ場所を、俺は形式的に天界と呼ぶことにした。


「いや、流石にそこまで無慈悲ではありませんよ、私たち」


 どうだろう。そんなことを言われても、見てくれがどう見ても敵対種だ。それに、この女の天使の価値観を見るに、「はい、いってらっしゃい!」と投げ出されてもおかしくない気がする。


 はあ、と男の天使がため息をつく。


「いちいち構うな、706。いつまでたっても試験を始められないぞ」

「だって、」

「なら、俺から説明しようか」

「……私がやります」


 駄々っ子か。そんな俺の心情を察したのか、女の天使がキッと俺を睨む。けれど隣で男の天使が咳払いをすれば、慌てて居住まいを正した。


「スキルは、『試験』の特権であると同時に、計算問題を解くときの計算式みたいなものです。電卓って言ってもいいですね。あなたがこれから行く世界で、私とあなたは『課題』をクリアしなければなりません。クリアするための指針といってもいいでしょう。わかりましたか?」

「いや全く」


 なんだよその、小説の抽象的な地の文をそのまま読んだような説明は。


「ああああもう、わかりました! 具体的に説明すればいいんでしょう!?」


 そう言って、女の天使は指を一本立てて俺に見せる。そこには、半透明の糸が絡みついていて、もう片方が俺の方へ伸びている。


「あなたのスキルはこれです。要するに、『運命の糸』が目で見えるようになる能力ですね」


 おお、なんだか、『スキル』と呼ぶには拍子抜けするが、なんていい能力だ! これで全世界のカプが見つけ放題じゃないか! ……あれ、この天使が俺と運命の糸で繋がっているのは、そう言うことか?


「言っときますけど、必ずしも、『恋愛感情で結ばれる』必要はありませんよ」


 釘を刺された。まあ、そうだよな。全部の人間関係が恋愛感情じゃ、収拾がつかないもんな。……そうだよな。…………そうだよなあ。


「あからさまにがっかりしないでくださいよ」


 うるさい。いじけるぐらい、いいだろ、別に。だって、俺の好物がたくさん見られると思ったんだよ。


「あのですね、わかってます? 『くっつける』の、あなたなんですからね?」

「……はい?」

「何度も言ってるじゃないですか! 『縁結び』をして欲しいんです! 意味、わかってますか!?」

「いや、全く」


 これはきっと、天使は悪くない。いや、大きな目で見れば、悪い。でも、説明が悪いわけではないと思う。多分。正直、俺の頭が理解を拒んでいる。


「それはつまり、俺にキューピットになれと?」

「だから、恋愛感情じゃなくていいって言ってるじゃないですか……。まあでも、大まかに言えばそんな感じです」

「本気で言ってます?」

「本気で言ってます」


 なるほど、要するに俺は人と人とが仲良くなるための仲介をすればいいんだな。なるほどなるほど……この天使、自分がどんだけ難しいこと言ってるかわかってるんだろうな?


「人間は愚かだってこと、ご存じで……?」

「面倒臭い人ですね! 得意不得意は置いといて、好きでしょう、あなた。関係性とか、そういうの」


 確かに、好きか嫌いかで言えば、好きだ。俺は登場人物を単体で好きになることは滅多にない。基本セットで、その関係性もひっくるめて好きなことが多い。……うわ、これをあの天使に知られてるの、気持ち悪いな。


「誤解がないように言わせてくれ」

「なんです?」

「俺は、壁になりたい派だ」


 いら、とした目(というより、「ねめつけた」って感じの目だったな、ありゃ)で見られた。うん、もう何も言うまい。承諾したのは俺だしな。




 とまあ、こんな感じで、俺には今、『運命の糸を見る能力』がある。「なんだそれ」って能力だけど、俺はなかなか気に入っている。未来のカップルを知ることが出来るなんて、俺にもってこいの能力じゃないか。(くっつけるのが俺、ってのが難点だが)


 天使の話では、この「糸」は繋がっている人間同士が近づけば視認できるようになる。(使い勝手が悪いとか、まあ、求めすぎもダメだよな)つまり、この村のあたりに俺と『運命の糸』で繋がっている人間がいるってことだ。


 これまた天使の話だが、俺と「糸」で繋がっている人間は、いわば旅のお供となるらしい。


『一人で旅をするのは、さすがに大変でしょう?』


 というのが、天使の言葉だ。確かにありがたい。ありがたいが、もっと他に気を回すところがありそうな気もする。まあ、何度も言うが、これ以上求めるの流石に野暮だ。あの天使は十分役に立つものをくれた。

 その中でも、役に立つものの筆頭が俺の膝の上で体をよじ登ろうと奮闘している。


「ニィッ」


 あ、落ちた。仕方ないなあ。モイを手で掬い上げて肩に誘導すると、まるで最初からそこが居場所だったと言わんばかりに落ち着いた。正直な話、あまりそこに落ち着かないでほしい。よくアニメなんかで、肩に何か乗せているキャラクターがいるが、実際、肩に乗られると、落としそうでヒヤヒヤする。


「あの老いぼれども!」


 突然、窓の外から妙に語気の強い声が聞こえてきた。なんだ、あのテンプレ通りの悪態は。流石に盗み聞きは良くない。これは、聞こえてるぞと注意した方がいいんだろうか。


「何も、ライを供物にしなくても」


 待て、今「供物」って言わなかったか? そうくると、流石に聞き流すわけにはいかない。俺は慌てて窓から顔を出した。


「おい、そこの」


 ちなみに、俺の泊まっている部屋は屋根裏のようなところだ。下の部屋には簡易的な台所(ちなみにこの台所、しばらく語れるくらいめちゃくちゃ浪漫とファンタジーに溢れた仕組みをしているのだが、その話は後回しにしておこう)になっていて、おそらくそこで若い衆たちがよく密談をしているんだろう。ここはいわば、「老いぼれ」に反感を持つものの溜まり場になっているようだ。


 とにかく、俺は窓から顔を出し、小屋の入り口あたりで言い合いをしている男に声をかけた。


「詳しく話してくれないか。俺が倒すべきもののことを、もっと知っておきたい」


 俺のその言葉に、若い衆は顔を見合わせ、そして諦めたようにおずおずと頷いた。


「村の老人たちが信仰している、ウィスタレースについては、先ほど話しましたよね?」


 下に降り、数人の若い衆と共にリビングテーブルほどの大きさの机を囲む。(モイもきちんとマントの中に隠して同行させている)


 ウィスタレース。この村の土着の神らしい。腕輪の検索では出なかったから、多分この世界に根付いたものではなく、本当にこの村限定の、独自の信仰なんだろう。問題は、その神が、いわゆる『贄』を必要とする神だってところだ。定期的に『贄』を与えなければ、ウィスタレースは暴れて村を壊す。困ったことに、このウィスタレース、実在するようだ。何度か若い衆たちがそのウィスタレースを仕留めようとしたが、食われて終わったらしい。


 さて、話を戻そう。どうやら、その神を信仰する老人たちが子供を贄に差し出そうとしているらしい。


「ライは愛子と言ったって、まだ十二です。どうかお助けください」

「お上に知られると、この村が危険になってしまいます。どうか、お役人様、他言無用でお願いします」

「いくらトレオレトス神が生み出した子とはいえ、あんな小さな子を、異教の産物だからと……」


 ……まいったぞ、知らない単語が出てきた。「マナコ」? まなこ、まなこ、いや、愛子か? それに、トレオレトス神? この世界の神様の名前か? ここに誰もいなかったら、すぐに腕輪の検索機能を使っているが、流石に若い衆の前でそんなことをするわけにはいかない。


 だが、なんとなく状況はわかった。要するに、村の老人たちは、ウィスタレースとは別の神が生み出した特殊な子供を贄にしようとしているらしい。

 つまり、オレの最初のクエストは、その子供を助け出すことか。もしかすると、「糸」はその子供につながっているのかもしれない。(流石に子供をお供に連れて行けと言われたら困るんだが、どうなんだろう)


「お役人様、どういたしましょうか」


 若い衆の中で、まとめ役らしい男が俺を見て問いかけてきた。確か、アグズと呼ばれていた気がする。


「ライが贄にされるのは明日です。ですが、だからと言って、お役人様をなんの準備もないうちにあの怪物の前に出せば、犠牲が増えるだけだ」


 アグズは思慮深い男のようだ。けれど、その中に迷いが見える。ライのことを思うなら、今すぐに動き出したほうがいい。だが、俺を失うことを恐れているのだろう。

 正直、簡単に死ぬのはごめんだ。けれど、このまま動かなければ、赤の他人が一人、死ぬことになる。


「わかった。俺がなんとかする」


 何が「わかった」なんだろうな、全く。普通もっと慎重に動くべきだろ、俺。何かできる当てはあるのか? 俺。なんて、正直、見ず知らずの子供が死ぬ原因になるよりかは、力を尽くして諦めるほうがいい。なんとか逃すぐらいはできるだろ。

 さて、そうと決まれば、どうするべきか。


「一旦、そのライって子に会わせてくれ」


 その子が、俺と「糸」でつながってるかどうかは確認しておかないとな。



 アグズに連れられたライは、見るからに気弱そうな子供だった。それでも、確かに特殊な子供らしい、不思議な見た目をした子だ。綺麗な銀の髪(俺たちの世界じゃ突飛だが、どうやらこっちではそこまで変な色じゃないらしい)に、子供らしい、愛嬌のある顔そして、左右で違う目……オッドアイってやつ?


 俺の知ってるオッドアイは両目の色が違うことを言う。けど、ライのは多分、それとは違う。片目は普通の人間の目だが、もう片方は、猫科の動物のような、細い瞳孔と鮮やかな瞳になっている。


 目の感じでだいぶ雰囲気が変わるからか、右から見た時と、左から見た時の印象がだいぶ違って不思議だ。


「あの、」


 ライがおずおずと上目遣いに見上げてくる。流石にジロジロと観察するのは不味かったか。そうだよな、忘れてたが、俺は今、傷跡だらけの顔をしてるんだった。怖いよな、流石に。


「大丈夫だよ、怖くない」


 屈んでライと目線を合わせ、微笑む。こっちに来てから、妙に柄じゃない事を言いがちだ。なんだよ、『怖くない』って。

 さりげなくライの手を見れば、そこに「糸」はない。どうやら、この子は俺の「お供」ではないようだ。子供の面倒を見る必要がなくてよかったのか、さっさと仲間を見つけられなくて悪かったのか……。とりあえず、当面の目標はわかった。


「お役人様、」


 アグズが心配そうに俺を見た。こいつもしっかりしてるよな。多分二十より下だろ、こいつ。

 アグズの肩をぽんと叩き、ライと同じように微笑みかける。なんとかできないかもしれないが、なんとかしよう。


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