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先輩の笑顔

作者: 光井 雪平

「さみい」


 俺はつぶやく。厚着をしてきたが、家を出たときに比べて強くなってきた風は容赦なく体に吹き付けてくる。


 俺の名は結城陽斗。俺は先輩の頼みというかほとんど脅しのようなものによって、電気屋に並んでいた。本日は先輩が大好きなシリーズのゲームの新作の発売日だった。先輩はテストによって来られないため、俺が買いに行く羽目になった。


 先輩のしつこいほどの「開店二時間前には並びなさい」との言に従い、開店二時間前から並んでいた。それでもそこそこの人がいたことに俺は驚いた。


 スマホで時間を確認すると開店まであと30分ほどであった。立っているのはバイトのレジで立っているので多少は慣れているがそれでも辛い。時折足を周りの邪魔にならないように動かしながら待っていた。


 早く時間にならないかなと思いながら待っていると、スマホにメッセージが入る。


 件の先輩からであった。どうやらテストの空き時間に送っているようだ。朝もしつこいメッセージがあった。電話すらされ、『買えなかったらどうなるかわかってるわね』というひどいまでの脅しであった。


 どうせちゃんと並べているかどうかの確認だろうと思いながら見る。


『ちゃんと並べてるわよね?』


 並べてますよと返すと、すぐに返信が返ってくる。


『ならよし。寒いだろうけど頼んだわよ』


 形式的なものかもしれないが、ちゃんとこちらをねぎらうというか思いやる言葉が入っていてなんとなく安心する。そのまま特に返信することも思いつかず、適当に頑張りますとのスタンプを送っておく。


 そのまま待つこと30分、スムーズに列が進み、ゲームを買うことに成功する。きちんと初回限定の特典付きで。買えたことに安堵しながら先輩にメッセージを送っておく。


 その後はまっすぐ家へと帰る。特に用事もなかったのだ。


 そのまま家でダラダラしていると、テストが終わったのだろう先輩から電話がかかってくる。電話にでるやいなや、興奮した様子の先輩の声が聞こえてくる。


『よくやった、結城。それで今どこなの?』


 家ですと返事をすると、そのまますぐにそっちへと向かうとだけ言って電話が切れる。


 こっちの話を少しはきいてほしいなと思いながら、家で待つことにする。


 10分後、家のインターホンがなる。俺はもう来たのかと思う。普通に来ると、この家から学校まで20分はかかるはずなのだが。どんだけ急いで来たのだろうと思いながら、先輩のために買ったゲームをもって玄関へと向かう。


 玄関の扉を開けると見知った顔が見える。


「結城、ゲームは?」


 開口一番のその言葉に苦笑しながらも「これです」と言って手渡す。先輩はゲームを見るとすぐに笑顔になり、「やったー」とすごい嬉しそうにする。こう普通に嬉しそうにしている姿は可愛いんだけどなと思う。


 普段からこれやって、やらないとこうするわよという脅しをされることが多すぎて、先輩に会って話すたびにどんな無茶ぶりをされるのかと少し警戒してしまう。まあ別にこういう人だと思っているから別にいいのだが。それに・・・


「結城、ほんとありがとうね」


 すごく嬉しそうな笑顔で感謝の言葉を言ってくる。


 この笑顔だけで十分におつりがくるのだ。十分だ。この笑顔だけで。


 きっと俺は先輩のことが。


 いや、今考えるべきではないことだ。


「いいっすよ。また困ったら言ってください」


 また先輩の笑顔が見れることを願いながら、いつも通りの言葉を言うだけだ。ただ、滅茶苦茶な無茶ぶりはやめてほしいとも願いながら。


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