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賢者の恋文  作者: 青木りよこ
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拝啓 アイリス殿


手紙有難う。

くだらないことばかり書いたせいで貴方が将来に不安を覚え実家に帰ってしまわなかったかと危惧していたので、嬉しかったです。

自分も何度も読みました。

貴方の字のことですが、綺麗なので問題はありません。

自信を持ってください。

今ここには何もないので貴方の手紙だけが自分にとって唯一の慰めです。

作戦は始まっていますが、今のところ成果は上がっていません。

毎日宿舎に寝に帰るだけです。

回復に当てるため、ひたすら眠っています。

まあ国にいた頃から自分はそうでした。

魔法とはひどく体力を使うものです。

回復するには自然に眠るのが一番なのです。

所詮人間なので万能ではありません。

大きな仕事をした次の日など一日中寝ているくらいです。

自分が帰っても貴方は退屈かもしれません。

帰ったらできる限り貴方と過ごしたいと思っていますが、過度な期待はしないようにお願いします。

夜の散歩は約束します。

長いこと行っていませんが春と秋にはお祭りもありますのでそれも行きましょう。


ロマンス小説に飽きたら書庫に入って好きな本を読んでください。

亡くなった父が読みもしない文学全集だのを集めていましたので数だけは立派にあるはずです。

自分の部屋の本でも構いません。

魔法の本もありますが特に仕掛けがあるわけではないので安心して読んでください。


貴方が星の話をしてくれたので自分も今これを書きながら夜空を見てみました。

こちらも星が綺麗です。

ただ暑いです。

虫も多く自分自身が釜茹でにされている気分ですが、夜空の星だけは何も気にせぬかのように瞬いています。

このようなところに貴方を連れて行きたくはありませんが、たまに吹く風のひんやりとした心地よさは格別なので、一分だけなら貴方をここに招待したいです。


悪魔はどんどん巨大化していきます。

傷口から増殖されていき、数を増やしていっていますが本体さえ叩けばすべて消えます。

今のところ本体に近づけてもいないので、まだ当分帰れないと思われます。

腕が沢山ありそれが凄まじい速さで伸びてくるので難しいです。


アップルパイは確かに好きです。

オムレツもです。

でも貴方がいてくれたら何を食べても美味しいんじゃないかと思っています。

両親が亡くなり兄と姉と婆やと四人で暮していましたが、姉が嫁ぎ、兄も病死してからは婆やと二人でした。

だから家族とどういう会話をするのか自分にはよくわからないのですが、こんな風に手紙で打ち明けることができるのなら大丈夫なんじゃないかと思います。

それも時間差ではなくすぐ答えてくれますし、自分も答えられるなら今よりもっと楽しいんじゃないかと思います。

自分も早く帰りたいです。

仕事は好きですが暑いのは嫌いです。

枕が変わっても何処でも寝られますので特に不自由は感じていませんが、早くこの島国の秋が来て欲しいです。


起きている時間は働いていますので、余り個人的なことを考える時間はありませんが、貴方に会えたら何から話せばいいのかと考えたりします。

自分達はお互いのこと何も知りませんよね。

どんな顔をして、これまでどんな風に生きて来たか何も。

それでも自分に妻がいる、帰りを待っていてくれる人が婆や以外にいるというのがとても愉快なのです。

何だか少し自分は明るくなった気すらします。

まあ錯覚なので、期待はしないでください。

早く帰れるように全力を尽くします。

身体にくれぐれも気を付けてください。

よく眠り、よく食べて、余り気に病まないように。

何か嫌なことがあってもすぐに助けてやれなくて申し訳ないです。

また書きます。


フィリス


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