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拝啓 旦那様
お手紙有難うございます。
とても嬉しく何度も読み返しています。
お元気で何よりです。
改めて大変なお仕事につかれているのだと知り誇らしく思います。
つまらないことばかり書いたように思い、手紙を出したことを後悔いたしましたが、お返事いただけて安心いたしました。
また手紙を書いてくださるそうですが、余りご無理はなさらないでくださいね。
婆やさんとはとても上手くいっています。
貴方は食に興味がないとおっしゃられましたけど、アップルパイがお好きだとお聞きしましたので、今毎日林檎を煮て、パイ生地をぐるぐると伸ばしていますので、いつでも帰ってきてくださいね。
何を食べても美味しいとおっしゃられましたが、一緒に食べたらもっと美味しいと思います。
ですが、貴方が家族の会話を苦痛に感じるなら大人しくしていますね。
貴方は字がとてもお上手なんですね。
私も字だけは沢山練習いたしましたが、大丈夫でしょうか?
夜この辺りはお屋敷が余りないので静かですね。
婆やさんも早く寝てしまうので窓から星ばかり眺めています。
こちらに来てから空をよく眺める様になりました。
今日は曇り空でまるで世界が白い巨人に覆われたみたいでした。
そちらの空はどうですか?
私はこの国から出たことはありませんので、貴方が今いる極東の島国を一度見てみたいです。
貴方の目を通して見ることができたらいいのにと思います。
私が見ている夜空も見てもらいたいです。
本当に綺麗なんですよ。
貴方が帰ってきたら夜お散歩に行きましょう。
まだ行ってないところが沢山あります。
貴方が帰ってきたらしてみたいことが沢山あります。
話したいことも沢山あります。
貴方の仕事は私にはよくわかりませんがどうか無事に帰ってきて下さい。
貴方はお喋りは苦手とおっしゃられましたが、そんなに得意な人はいないと思います。
皆寝て起きたら忘れてしまうような話をしてるだけだと思います。
相槌を打ってくださるだけで充分です。
それも面倒ならいりません。
貴方が快適に過ごせるようにして下さい。
大変なお仕事をされているのだから、家でくらいゆっくり寛いで欲しいです。
何もできないのでお邪魔にだけはなりたくないのです。
オムレツも上手に焼ける様になりました。
梨も綺麗に剥けます。
食事って食べるだけだと思っていたけれど、いつも作ってくれている人がいたんですね。
考えたこともありませんでした。
何もできず無知な自分がとても恥ずかしいです。
貴方はこんな奥さんじゃ嫌でしょうか、とても心配です。
貴方が帰ってくるまでに何か明確にこれができるというものが欲しいし、貴方がもし難しい話をしたくなった時のために知識を得たいのですが、私が持ってきた本はロマンス小説ばかりです。
立派な肩幅と厚い胸板、立派な顎、片方の腕だけでヒロインを持ち上げてしまうような男性ばかり出てくるんです。
実際はそんな男性お目にかかったことないですよね。
理想の男性像なのでしょうか。
私は何の特徴もない旦那様のような男性の方が好ましいです。
私も平凡で何の特徴もない娘なのでお似合いかと存じます。
ただ貴方は将来の賢者候補で何もできないわけではないので、私も何かできるようになっていかないといけませんね。
頑張ります。
毎日お仕事お疲れ様です。
貴方が毎日この空の向こうで真剣に戦っているのだと思うと、寂しいなどとは言ってはいられませんがとても寂しいです。
早く帰ってきて下さい。
お会いできるのを楽しみにしています。
それまでに私も成長していますように。
余り無理はなさらないでくださいね。
お帰りをお待ちしています。
貴方の妻アイリスより 愛をこめて