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賢者の恋文  作者: 青木りよこ
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拝啓 アイリス殿


お手紙有難うございます。

自分も正しい手紙の書き方など知りませんので失礼があるかと思いますが何卒ご容赦ください。

まずは遠方よりせっかく嫁いでくださったのに長く家を空けることになり申し訳ありません。

でも息災なようで安心いたしました。

婆やはお喋りですが信頼できる人物です。

何でも相談してください。

屋敷に使用人がいないのは申し訳ありません。

本来貴方のような家から妻を迎えられるような家ではないのです。

貴方を飢えさせることはないと思いますが、決して貴方に贅沢はさせられません。

これは自分の不徳の致すことろです。

申し訳ありません。

婆やが何と言ったか知りませんが、大体想像は付きます。

はっきり申し上げておきますが、自分は背は高いです。

貴方の身長がどれほどかはわかりませんが貴方より大分大きいと思われます。

木を見上げる仕草を想像してみて下さると助かります。

台所のドアはそのままだと頭をぶつけます。

背が高い、これは間違っていませんが、自分をロマンス小説に出てくるような男性で想像されては困ります。

身体に厚みもないですし、顔がやたらと小さいとかいうこともありません、身体のほとんどが足のような体形でもないです。

だからといって、腹が出ているということもありませんし、あばら骨が浮き上がっているわけでもないです。

平凡な特徴のない背だけ高い男性だと思っておいてくだされば問題ありません。

髭は毎日剃り風呂も毎日入り清潔だけは心がけています。


あと自分は陽気な性格ではありません。

お喋りは得意ではありませんし、会話は弾まないと覚悟しておいて下さい。

特に悪いことをしてきた覚えもありませんが、善行を積んできたわけでもありません。

ですが聖人と一緒にいるのは、ましてや夫とするのは息がつまることだろうと思われますので、自分に関してはそのような心配はいりませんのでそこは安心していただきたいです。

婆やは自分のことはいつも盛大に褒めてくれるので、話は一割くらいに考えて聞いていただくといいかと思います。

あとそのうち亡き夫の自慢話と姑の悪口を話し出しますがこれも三割くらいと思ってください。

まあ気のいい人ですし、早くに両親を亡くした自分からすると家族同然なので貴方とも上手くいって欲しいです。


我が家の財政状況ですが、借金はないのでご安心を。

貴方の実家に迷惑をかけることはないです。

あと食事に関してですが、包丁は指を切ることももあり危険ですので、無理はしないでください。

自分はちぎったキャベツを蒸したり茹でたりしたものと、焼いた鶏肉があれば十分です。

食に興味はなく、何を食べても美味しいです。

目玉焼きも固かろうが柔らかろうが焼けてさえいればなんでもいいです。

でも貴方が楽しんでくれているなら幸いに思います。

怪我無く元気にお過ごしください。


あと自分の仕事についてですが、今自分は極東の島国にいます。

百年前に我が先祖が悪魔を封印した地です。

これが目覚めたらしいので各国の王室付き魔導士が派遣されることとなりました。

これは機密でも何でもありませんので大丈夫です。

船旅はよく眠れて快適でした。

ただこの島国暑いです。

作戦はまだ始まっていませんが、心配はいりません。

自分は気の利いたことは言えませんし、取るに足らないつまらない人間ですが、魔導士の能力でしたら自信があります。

完璧にこの地に悪魔を縛り付けて、もう二度と目覚めさせぬよう動くつもりです。

賢者候補であるというのは本当です。

ただ賢者になろうとも名誉はあっても財は成せないと思っておいて下さい。

辛気臭い話ばかりになりすみません。

一先ずこれくらいにしておきます。

自分は元気ですし、心配はいりません。

貴方も健康で怪我無く朗らかに過ごしてください。

婆やは力持ちなので重たいものを貴方が無理に持つ必要はないです。

魔導士の家に仕えている婆やというのは決して唯の老女ではありません。

ではまた手紙を書きます。


フィリス





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