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賢者の恋文  作者: 青木りよこ
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拝啓 旦那様


この書き方で合っているのでしょうか?

残念ながら私には今確かめる術がありません。

お母様は私に「正しいお手紙の書き方」などという今後の人生において大変役に立ちそうな御本は持たせて下さらなかったんですもの。

ところどころ、いいえ、沢山間違いがあるかもしれませんが許してくださいませ。

一体どこから書いたらいいのか。

取りあえず、初めまして旦那様。


まだお目にかかれてはいませんが貴方の妻となりましたセオドレ・ドゥーリ・モリテスカス・ラ・トゥーシュ家の四女アイリスです。

手紙で言うことではありませんが不束者ですが末永くよろしくお願いいたします。

それにしても何ということでしょうか。

あと一日早く着いていたらお目にかかり、お茶ぐらいはご一緒できたものを。

落石事故で足止めを食らい、這う這うの体でお屋敷に辿り着いたものの、旦那様は急な招集で当分帰ってこれないとのこと。

新婚早々なんてことでしょう。

かれこれ一週間が経ちましたが未だに混乱しております。

だって何もかも我が家とは違うんですもの。

そして何より結婚したはずの私の旦那様がいらっしゃらないんですもの。

とても広いお屋敷ですね。

お庭も立派です。

私をお出迎えしてくれたたった一人の婆やさんに聞くと貴方はこの広いお屋敷で婆やさんとたった二人で暮してたのこと。

寂しくなかったですか?

私は今とても寂しいのです。

早く帰ってきて欲しいです。



婆やさんは貴方のことをとても背が高くて、とても美しい御顔立ちの人格者で、これ以上ないくらいの素晴らしい殿方だとおっしゃっています。

毎日言っています。

五分おきに言っています。

不思議ですね。

私達はまだお互いの顔も知りませんが、もう戸籍上夫婦なのです。

私の容貌に関しては余り過度な期待はなさらないでくださいませ。

がっかりされるのが何より辛いのです。

貴方よりずっと背の低いこれといった特徴のない娘です。

私も期待はしていませんのでご安心を。

健康であってくれたらいいとそれだけ願っております。


毎日いいお天気で空が綺麗で空気が澄んでいて何も変わりがないのでそんな風に思えませんが緊急招集なんですから大変な事態なんですよね。

貴方は王室付きの魔導士の水属性で歴代最高、将来の賢者候補と父からは聞いております。

私は魔法が使えませんが、魔法が使えるのはどれほど素晴らしいことでしょうかと想像することはあります。

こちらに来てから私は婆やさんと一緒に台所に立ち、生まれて初めて野菜を切りました。

かぼちゃとはあんなに固いものだったのですね。

あんなに甘くて柔らかいものが、手がはじけ飛ぶかと思いました。

卵は我ながら上手に割れましたよ。

目玉がまんまるじゃなくなってしまいましたが生まれて初めて焼いた目玉焼きを貴方に見てほしかったです。

貴方は当分帰ってこられないのなら私きっとそれまでにはお料理が少しはできる様になっていると思います。

まさか自分で食事を用意するだなんて考えたこともなかったのです。

だってお父様もお母様も伯母様もそんな話は全くしなかったんですよ。

水属性史上最強の魔導士になるかもしれない人に嫁ぐなんて何ていう幸運とそればっかり。

肝心の貴方と言う人がどんな人であるかなんて何にも教えて下さらないんですもの。

私も結婚とはそういうものだと思い深く考えなかったのですが、まさか新婚早々すれ違いになるだなんて。

もう一度言いますね。

早く帰ってきてください。

一刻も早くお会いしたいです。

本当の貴方が知りたいです。

婆やさんの話す貴方じゃなくて、私の夫である貴方が。


返事を下さればとても嬉しいですが余りご無理はなさらないでくださいませ。

失礼なことを沢山書いたと思われますので、読み終わったら処分してくださいませ。

読み返したくはないのでこのまま今の素直な気持ちのまま封をいたします。

どうか元気で帰ってきてくださいませ。


貴方の妻アイリスより 愛をこめて



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