教え9 楽あれば苦ありですか?
ウァーゴ教会。たった1柱の女神のみを信じるその教会が、世界中の人々の信仰を勝ち取っていた。いや、支配していたと言っても過言ではないかも知れない。
そんな教会が数十年前に売り出したのが、教会銀貨という、弱い神聖な魔法とさび防止の魔法を掛けられた銀貨。当初は激しく値段が上がると言われていた教会銀貨だが。売り出されたときよりも価値は大きく下がっていた。
そんな銀貨だが、最近社会から激しく数を減らし始めている。
原因は、その安くなった教会銀貨を少しだけ相場より高く買い取り、一般製品として加工するという商売がここ最近で爆発的に流行し始めたからだ。加工した後は、およそ20倍の値段になるとされ、世界中でそのビジネスは有名になっていた。
教会銀貨を大量に買い、取り扱いに困っていた貴族や王族たちもそこで大量に放出し、少し損失を回復させたりしている。そうして傷を癒やすことの出来た王族や貴族達。だが、その幸運にも陰りが見え始めた。
※※※
「……なんと言うことだ」
やけに豪華な衣装を来た男。詳しく言うとフェルルの住む国の国王が、広い部屋の中で頭を抱えていた。頭を抱えているのは、国王だけではない。その部屋に集まっていた、国王ほどではないものの豪華な服を着たモノたちも、同じように難しい顔をしている。国王がいることから分かるように、彼らは貴族や官僚たちだ。
「5万枚の教会銀貨を用意して、教会に献上する。こんなことが可能なのか?」
教会から、国へ教会銀貨を献上するように要請が来ていた。形式上は要請だが、実際はそんな生ぬるいモノではなく、命令に近い。世界中を支配している教会の要請に逆らうことなど、大国といえど出来ることではないのだ
そんな逆らえない指示に、国王たちが悩んでいる理由。それは、
「王家と全ての公爵家の持つ教会銀貨を集めても、1万枚に届くかどうかも曖昧なところでございます。ほとんどの教会銀貨は、すでに売り払われてしまいましたので」
「くぅ。……で、では、更に下の貴族にも教会銀貨を出すよう言うほかあるまい。だが、それでも5万枚に届くのか?」
「……分かりません。同じように、ほとんどの貴族家が教会銀貨を売り払っているようですので」
王族も貴族も、持ちうるほとんどの教会銀貨をこの少し高く売れる機会を好機だと考えて売り払っていた。そのため、命令されたところで無い物は出すことができない。
が、命令に逆らうこともできない。そこで下の貴族達にも要請はしてみるつもりだが、期待などできるわけがなかった。
※※※
「……フェルル!ついに来たぞ!国王様からの要請だ!」
「そうですか。では、あと1月は待機してください」
「……はい」
お父様があからさまに落ち込みました。どうされたのでしょうね?
もしかして、今すぐに動きたかったのでしょうか?王族へ恩を売れる機会もないですから、気持ちが急くのも理解できます。
理解できますが、我慢して貰わないと困りますね。私の計画に支障が出てしまいかねないのですから。
「まだその件は放置しておくこととしまして、税収の方はどうですか?他の家が教会銀貨を売ったことで出した利益分を、税収でどうにかできていますか?」
「ああ。もちろん!ここの領地で1号商店が出来てくれたのが、何よりの救いだ」
1号商店。その名前から分かるとおり、1号さんが作った商会です。
一応私たちの立場上、教団としての活動の際は名前を隠しておこうと言うことになりました。そこで、1号さんには1号さんという名前を付けたのですよ。
そうしたら1号さんにその名前を気に入っていただけて、商会の名前にまでなったのです。商会の名前にしてしまっては名前を隠す意味がない気もしますが、それは気にしないでおきましょう。
「税収で補えるなら、我が家が潰れることはなさそうですね。では、1ヶ月後へ向けて準備をしておきましょう。お父様も、覚悟をしてくださいね」
「ああ!大丈夫だ!覚悟は出来てる!……なんと言ったって、今日行くつもりだったからな!」
「ふふっ。そうでしたね」




