教え31 迷子なのですか?
「それじゃあ、行きますよ」
「はい。お三方とも、はぐれないようにして下さいね」
「「「はい」」」
特に不安な様子もなく頷かれるお三方。これから先、不幸なことに巻き込まれるとは思ってもいないのでしょうね。
そう思って私が同情していると、リセスさんは移動を開始されます。速いわけではないですが、ムダの少ない動き。ただ、いつもとは違うその動きにお三方が気付くことはありません。これに気付かないということは、使い物になるまでしばらく時間が掛かるでしょう。教団に勧誘した後、じっくりと鍛えなければ。
「………フェルル。凄いですね」
移動の途中、なぜかお褒めの言葉を頂きました。一体どうしたというのでしょうね?よく分かりませんが、今は目的を達成することに集中しましょう。
まだまだお三方は着いてきています。速度としてはまったく問題なさそうですね。こちらもこのくらいは想定済みなので予定通りです。しかし、次の曲がり角も予定通りに行くかどうかは分かりませんね。
「………え?」
「ティアさん?どうかしましたの?………え?」
「どうしたんですの?お二人とも変な声を上げ、………あぇ?」
お二人のことを変な声と言ったクロリアさんが、1番変な声を上げられていますね。そんな変な声を出したお三方は、曲がり角で立ち止まられました。それから、キョロキョロと周りを見回し、
「あ、あれ?どこに行きましたの?」
「見当たりませんわね。おかしいですわ」
「まままま、まさか、迷子ですか?」
私たちを見失ったようですね。お三方は慌てていらっしゃいます。可哀想に。これから、知らない土地で迷ってしまったという恐怖の体験をするでしょう。実に可哀想。そして、実に救いたい。そう思えます。
「お見事です。見事にお三方を引き離されましたね。これで問題なく目的地へ到着できるでしょう」
「フェルルに言われても微妙な気持ちですね。フェルルも一緒に引き剥がすくらいのつもりだったのに、私に完璧に着いてきたじゃないですか。しかも、私にはフェルルの気配が全然分からなかったんですよ」
「ふふふっ。それは、まだまだ技術が体に馴染んでおられないだけでしょう。きっと数年使い続ければ、誰も追いつけないようになるかと」
「……フェルルもそれと一緒に成長しそうな気がするんですけど。それに、フェルルは技術が身体になじんでるのが納得いかないです」
リセスさんからジト目を向けられます。言いたいことは分かりますね。リセスさんが成長すれば、私もまた同じように成長するでしょう。ただ、その成長が同じかと言われると、そうではないと思うんですよね。
「成長速度は、その人がどの程度努力に意味を持たせるかによって違う。私はそう聞きましたけど」
「はははっ。そうですね。……そうでした。私が、フェルルよりももっと効果的な努力をすれば良いだけの話ですよね。頑張ります!」
「はい。頑張って下さい。……それでは私は、先に行かせて頂きますね。早めに伝えておいた方が、回収もスムーズでしょうし」
「え?…………あっ。行っちゃった」
私はリセスさんの返事も聞かずに教団のテントへと向かいます。リセスさんには早く報告した方が見つけ安と言う程度で納めましたが、実際はそれ以上に緊急です。リセスさんは気配を察知したり逃げたりすることが得意なようなので大丈夫そうですが、お三方にとってはまだ路地とは危険な場所なのです。所謂ゴロツキとちまたで呼ばれるような方々に襲われればひとたまりもないでしょう。
そういうことで急ぎ、最短距離で走れば2分もしないうちに到着です。
「んっ!こんばんは。きょ、今日はお一人なんですか?」
「こんばんは。あの方は後からいらっしゃいますよ。今日は少し早くお伝えしておかなければならないことがありまして……」
出迎えてくれたのは、昨日と同じく4号さん。素速く事情を説明します。4号さんも優秀な方ですから、すぐに理解して行動を初めて下さいました。テントの中に入ったかと思うと、数人の男性を引き連れて捜索へ向かって下さいます。後は、結果を期待して待つだけですね。
※※※
「はぁはぁ」
漏れる荒い息。全身汗だくで、体力も限界が近い。
「ど、どうなっていますの!?なんで見つかりませんのよ!」
「お、落ち着いて下さい。………で、でも、本格的に迷っちゃいましたね。どうしましょう」
「どうするも何も、リセス様達に合流するか、学園に戻るかの2択しか存在しませんわ。どちらにしろ歩くしかないんでしてよ」
新しくリセスの取り巻きとなったエリーナ、ティア、クロリアの3人は、自分たちの仕える相手を探して歩き回っていた。どれだけ探し回っても発見できないため、途中で戻れるなら学園に戻るという選択肢も出てきている。だが、一向にリセスたちの姿も学園も見えてこない。




