教え24 5回目なのですか?
「あっ。も、もう入っていたんですね。ちゃんと入れたみたいで良かったです」
話しかけてきたのはリセスさん。私の前に入っていて、先ほどまで3号さんと話していました。
3号さんは痩せ型で長身の男性です。1号さんの補佐を昔はやっていましたが、最近独立して自分でも事業を行っていると聞きました。商売に関してはまだ伸び悩んでいるところが多いですが、人間関係の構築に置いては非常に優秀な方です。リセスさんのような子供からご老人まで、様々な方々とすぐに打ち解けることができます。この点に関しては、私以外の信者さんの中では1番の実力ですね。リセスさんに関しては、私よりも深く打ち解けられているようです。運もあるでしょうが、それでも私を上回れるところがあるということになります。私も追い抜き返せるよう頑張らなければ。
そんな3号さんと先ほどまで話していたリセスさんは、どうやら私の心配をして下さったようです。
「私は特に問題ございませんでした。そちらはお一人で入られている間、大丈夫でしたか?」
「は、はい。大丈夫でしたよ。ここに来るのは5回目ですし、もう慣れちゃいました」
5回目ですか。思っていたより多いですね。かなりこの教団にハマっていると考えてて良いのでしょうか?1号さんたちがここで集会を始めた時期から考えると、かなり常連なのかも知れませんね。
ただ、それにしては戦いに対して忌避する気持ちが強すぎる気がしますが。
教義的に、負ける戦いを進んで行うようにとは言っていません。しかし、勝てない相手にもいつかは勝てるように己を磨き続け、相手を引きずり下ろせるよう精進するように、という教えはあります。そのことから考えると、リセスさんはあまり意欲的に成長しようとしている風にも見えません。それこそ、今日の学校内で私との仲を深めようという素振りも見せられませんでしたし。
………ん?もしかしてここに連れてきて下さったのが、仲を深めようとしていると言うことなのでしょうか?あえて自分が危ないことをしているということ、つまり弱みを見せることで、私のリセスさんへの友好度が上がるようにされている可能性がありますね。そういう技術も信者の方に伝えたことがあったので、それがリセスさんまで巡って伝わったのでしょう。
「じゃ、じゃあ、私はまたお話ししてくるので………って。あ、あの。もしかして、そちらの方って1号様ですか?」
「ん?俺は確かに1号だが、何かあったか?」
私の隣に立っている1号さんにやっと気付いて、リセスさんの雰囲気が変わりました。どうされたのでしょうか?大柄な1号さんと私が話していたことに驚いていたというわけでもなさそうですが。ただ、怖がっているというわけでもなさそうですし。
「い、いやいやいや。なんでここでお話しされてるんですか!?普段はもっと有力者の方とか、古参の方とかとお話しされてるじゃないですか!その子、初めてここに連れてきたんですけど!?」
ここまで大きな声を出すリセスさんは初めて見ましたね。私がエリーナさんとの遊戯で勝ったときよりも声が出てますよ。すねても良いでしょうか?……それだけ1号さんが私と話しているのを意外に感じたということなんでしょうけど。
ただ、有力者の方や古参の方としか話をしないというのは気になりますね。1号さんにも、こういった組織には一体感が重要で身分などはあまり気にしない方が良い、というお話はしたはずなんですけど。
「俺は別にそういう人としか話をしないわけではないぜ。ただ、俺とか3号くらいしかそういう人の相手ができないってだけだ。今日は俺が出なければならない人が、この嬢ちゃんくらいだったとも言えるが」
「あ、ああ。そうなんですね。確かに私も3号さんにお話しして貰ってますし、次の有力な人はファ、じゃなくて、その子かも知れないです」
リセスさん、頑張って私の名前を出さないようにしていますね。このテントの中では元々そういう決まりなのかも知れませんが。ここにいる皆さんの話を盗み聞きしている限り、実名が出てきてないですし。
「で、でも、そう言うことなら安心ですね。その子のことは宜しくお願いします」
「ああ。俺がしっかりと対応しておくよ。嬢ちゃんも安心して楽しんでくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
リセスさんは頭を軽く下げ、また3号さんの下に歩いて行かれました。本当に私が大丈夫かどうか確認しに来ただけだったようですね。
私のことを気にかけられるのはなかなかポイントが高いですよ。自分以外にも目を向けられると言うことですから。視野が広い証拠です。




